明け方に帰宅した恋人は憔悴した様子もなく出勤の支度をしている。事件の後始末で署に詰めっぱなしだというのに相変わらずの体力だ。フィジカル面では勝負にもならないなあと思いながら玄関まで見送りに出る。
「すまない、君は休みだというのに」
「大丈夫ですよ。見送りくらいさせてください」
そう言うと恋人は愛らしくはにかむのだからギャップに悶えてしまいそうだ。
「そういえば膝丸さん」
「どうした?」
「昨日っていい夫婦の日だったんですよ」
「…ッ、すまない。何か用意していたのか?」
「はい。だから23日の今日は延長戦って事でお願いします」
一瞬青ざめた顔が不思議そうな色に染められる。
「今日は早く帰れるんでしょう?膝丸さんの好きなものたくさん用意して待ってますから頑張ってきてください」
一気に華やいだ空気を纏う恋人が意気揚々と出勤するのを見送って、俺は気合いを入れる。今こそ調理関係のバイト経験を生かして食卓を好きなもので埋め尽くす時だ。帰ってきた恋人の笑顔のために俺はまず掃除から始めることにした。