[ミマモ]もっとかっこいいゴーレムとかいたら「ええと……『部品が毎年二倍詰め込める時代は終わった』……?」
「何を見てるんだ、ルチア」
ゴルトオールの砂漠から、少し孤立しているような場所に、大きな機械が置いてある洞窟があった。
ここは、少し前にマミーが開発した「ぐっどないとVR」のための電波塔だった。
既にこの空間には何もないものかと、ルチアは思っていたが、それから日が経ってルチアとマミーは、その部屋に何かないか探し物をしていた。
探してみると、まだマミーが手につけてない資材や、放棄されていたなんらかの紙があった。
「これは随分と古い新聞? 紙切れがあるなと思ったけど、いつのだろうな?」
「俺にも分からねーよ。ま、少なくともずっと昔の奴じゃないの?」
「しかし……この記事は『技術の継続的な発展は長くあれど、限界はいつか来る』って話しみたいだな」
「限界? いまいちイメージつかないな」
マミーは、この空間にある大きな機械を見ながら言った。
「俺のもとに残された知識と技術はまだまだあるみたいだ、俺の頭からすればまだまだ作れるものはあるはずだ。俺ですらまだ手が付けてない技術も多いし、楽しみなものだ」
「随分と自信ある口ぶりだね、マミー」
「あったりまえよ。俺ほどのゴーレムは、きっとこの世にはいないだろうからな」
「……すっごい自信だな」
「……なのかな?」
「どっちだよ」
急に声色を変えたマミーからは、どこか寂しそうな表情があった。
確かにマミーほどのゴーレムは会ったこともない。
マミー以外には、他に彼の初号機であるマムー、それからシルバというゴーレム術師が作ったリステンとアルテンくらいだ。
そのシルバによれば、大昔はもっとたくさんのゴーレムがいたようだ。
当時はアンドロイドなど、他の名称もあったようだが、非常に発達した文明だったようだ。
しかし、そもそもゴーレム術師という存在がかなり貴重なようで、ゴーレムが新たに生まれるようなことも少ないようだ。
一体なぜ、ゴーレムの文明はどこかで途絶えてしまったのか。
いまだにはっきりした理由は分からないが、ゴーレムという存在自体まさにルチアが大好きな「ロストテクノロジー」なのだろう。
もしかしたらポラリスたち、神様に聞けばこっそり教えてくれる可能性もふと浮かんだが、きっと大変な背景がありそうだし、それはそれで自分で好奇心について何か大事なものが失われそうな気が、ルチアはした。
「さて、これくらいの資料と資材があったらいいだろ。これ以上持ち運べそうにないしな。ルチア、悪いけど重い方はお前も手伝ってくれるか?」
あらかじめマミーは持って帰るものをいくつかの箱に入れて整理していた。
助手として、マミーのお供であるドッドゴーレムも六人ほど同行していたが、彼らもそれぞれ荷物を持って帰る準備をしていた。
「いいぞ」
「おう、ありがと。それから……その、ルチアさー」
「なんだ?」
マミーは急にもじもじとした様子になって、ルチアに話けてきた。
「その……さっきは俺より頭のいいゴーレムはいないとか言ったけどさ」
「それがどうかしたのか?」
マミーはますます気まずそうにしていた。
「なんつーか……会ったばかりの頃から多い出してみるとさー、ルチアってば、未知の技術とか文明とかにすごく興味あるじゃん?」
「いざ聞かれたら恥ずかしいな。でも、そういうの、僕はすごくわくわくするんだ……でも、マミーってばどうしたんだよ?」
「だからその……万が一俺よりすっげーかっこよくて頭の良いゴーレムが出てきたらさ……お前はどう思うの?」
「どう思うって……まあ、もちろんそいつに会ってみたいなって思ったりはするけどさ……」
「そ、そっか……」
「それがどうしたんだよ?」
ルチアはどこか寂し気な様子だった。
「お、お前はそいつの方がもっと友達になりたいとか思ったりしないよな?」
「いや、もっとっていうか……」
「そっちに乗り換えるなんてことなしないよな?」
「待ってくれ、マミー! 乗り換えるなんて考えちゃいねえよ!」
慌てるようにルチアは、明らかに寂しがっていたマミーを止めた。
ここまでの彼の話を聞いてなるほど、とルチアは考えた。
あの城下町を襲ってまで、友達を欲していたマミーのことだ。
当時の彼のことは本人と話したりは、たとえ目の前にそのコアとなる機械があってもなるべく言わないようにしていたが、なんとなく気持ちは分かった。
自分だって、誰かに見捨てられるようなことは経験したくない。
ただ現実を見ないフリをして、利用されてきていることを直視しなかった生前のことも。
共に旅してきたブレラやエイダに依存してきたことを思い出すと、放っておけない。
もうこんなことでくよくよしたくはないと、ルチアもまた思っていたがどうしても考えてしまう。
「別に、新しいゴーレムができたってお前のことを見捨てたりしないよ」
「ほ、本当か?」
マミーの目下には涙を浮かべていた。
よっぽど怖い想像をしていたのか。
「……僕にとってはお前が初めて会ったゴーレムだ。まあ、会ったばかりの頃はいろいろあったけど、お前のことは僕だって大事だと思ってるよ」
「……」
「それに、お前の基地というか、砂漠に突然あられるように見つけた、お前の家に初めて来た時はとても感動したし、わくわくしたものさ。それにさ……」
「それに?」
「僕だって、お前とが一番話しやすいとは思うんだ。だから、絶対にお前のことを見捨てたりはしないよ」
これは励ましのつもりではなく、自信があっての言葉だとルチアは思っていた。
ヒポグリフの能力である「千里眼」で確認出来得る範囲なのかもしれないが、それなら、ずっとそうであろうと、ルチアは考えていた。
ルチアが話し終えてからマミーは立ち上がって、俯きながらうろうろと歩き始めた。
「ど、どうしたんだよ、マミー。なんかおかしいこと言っちゃったか?」
「……なんだよ」
「は?」
ルチアは慰めようと、安心させようとマミーに言ってきたが、それから見せてきた彼の顔と言えば、顔を赤くして、まるで怒っているような表情だった。
それから突然、何かが沸騰したかのように、この空間に響くような声に言った。
「ああもう! なんだよお前は! 油断したらすぐに距離詰めてきて!!」
「ま、待てよ。僕は……そんなつもりじゃ」
「ルチアってばずっとこうだよな! こういうところだよ! そんなこと言って恥ずかしいと思ったりしないのかよ! もー知らねー!」
「じゃあ何を言えばよかったんだよ……?」
マミーはそう言って、さっさと基地から出た。
それに続いてドッドゴーレムも一体を除いてかれに、慌てるように続いていく。
「こういうところって、こっちのセリフだよ。まあ、俺もあいつも変わらないところはあるよな」
ルチアにとっては、誰かに依存してしまうところは、もはや治せない個性なのかもしれないと考えていたし、マミーがどうしょうもないくらいに照れくさくなるのも変わらないのかもしれない。
実のところこんな反応するんじゃないかと、ルチアも薄々気づいていたが、こういう時どうすればいいか分からなかった。
「ゴメンネ、ルチア」
一人だけ、その場に残っていたドッドゴーレムがルチアのところに来て言った。
ルチアは、自分が運ぶ荷物を持ってから、彼に言った。
「大丈夫だよ、僕ももう慣れっこだし」