今はまだ、名前などないその気になったら部屋にこい、などと。
『その気』とはいったいなんのことだろう。
問いかけても「さぁな」と悪い笑みだけが向けられる。
彼の言葉の真意を知りたければ行くしかない。
けれど、そこにあるのは本当に『答え』だろうか。
自分は『それ』を本当に知りたいのだろうか・
このまま、まるで悪友のような遠慮のない言葉のやりとりや空気が心地良くて、それを壊したくないと思う心がある。
部屋に行けば、何かが変わってしまいそうで。
けれど、もしかしたら変わらないのかもしれなくて。
今自分が考えている迷いや、甘さすべてを見透かしていての言葉なのだろうか。
でも、だって・・・・・・君の傍は居心地が良いんだ。
呼吸がしやすいのだと、君の傍なら息ができるのだと。
そう告げたらどんな顔をするだろうか。
そんないろんな想いが混ざりに交ざったまま。
自室へと向かうはずだった足は、気づけばオペレーターの居住区画に向かっていた。
歩みを進めていたつま先が、ぴたりと止まる。
『その気』とやらになったわけではないけれど、この部屋に・・・・・・彼の部屋にたどり着いてしまった。
防御服のポケットに突っ込んでいた手で、室内の主に来訪を告げるインターフォンを押した。
静かなエア音と共に開かれた扉から、ぬっと伸びてきた長い腕。
それに見合う大きな掌が、細すぎる腕を掴んでその内に引き摺りこんでくる。
抵抗などできる間もなく、気づけばその身は訪れた部屋の内。
トンと入口脇の壁に押し付けられて身動きは、もはや取れない。
「『その気』になったのか?」
何時になく静かな、静かすぎる声にどう応えるべきか。
ただ見下ろしてくる燈色の双眸があまりにも熱くて、思わず笑みが漏れてしまう。
「・・・さぁ、どうだろうか」
「・・・・・・なら何故」
「わからないから、かな」
「・・・・・・はぁ?」
「わからないから、分からないからこそ・・・・・・知りたくなった、のかも」
だから、教えて欲しい。
その瞳に宿した熱の名を。
※ここまでーーーーーーーー