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    Kiki98352010

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    Kiki98352010

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    続き

    #ツイステ
    twister

    でも最初の印象はこんな物騒なものじゃなかった。
    初めてエリザベス(リサ)に会ったのは、監督生である自分が、NRCという慣れない環境で、四苦八苦していた時期だ。

    「魔法に不慣れな監督生さんには“加配”という形で補助をおつけします。一部の魔法を利用する授業、その他慣れない授業内容を質問する様に。え?いやぁ、配慮ですよ!ハイリョ!だって私、優しいですからね!」

    NRCの生徒たちが、学校イベントの中で最も嫌いなイベントであろう統一試験の知らせが配られるよりもかなり前の頃。学園長がテンション高くこんなことを言い出した理由に監督生は覚えがあった。端的に言おう。
    自分こと、オンボロ寮の監督生が、ぶっ倒れたのである。中々タフで有名な監督生も、慣れない世界での活動に加えて日々の活躍に疲れてしまったのだろう、というのが周囲の意見だった。

    その負担を軽減するために学園長がオンボロ寮によこしたのは、監督生より少し背の高い、中性的な顔立ちの生徒だった。
    「今日からお世話になります、エルと言います。ユウさん、どうぞよろしくお願いします」
    そう挨拶した生徒は、白に近い金髪の毛を高い位置で一つに括り、キリリとした大人びた目をまっすぐこちらに向けて、びっくりするほど白い手で握手をした。

    (女の人みたいに、キレーな人だな)
    それがエルこと、「エル・ラドクリフ」との最初の出会いだった。


    実際エル(エリザベス)は大人びた、ではなく大人だったことがのちに判明するが、当時の自分や、グリム、同学年の奴らにはわかるはずもなかった。
    因みにこの時点で我々の誰もが、男だと思っていたし、『あんな質問』をすることになるとは、思いもしなかった。



    差し出された手と握手をするとエルと名乗った生徒は微笑んだ。
    「こ、こちらこそよろしく」
    「オイラからも、よろしく頼むんだぞ!子分が世話になるんだぞ」
    監督生の頭の上に乗ったグリムが軽快な挨拶をする。
    頭の上から人に挨拶するな、とグリムに注意しても、フガフガ文句を言われるばかりでちっとも聞きやしない様子に、仕方なく監督生が代わりに誤る羽目になる。

    「これで、一件落着!ということで早速クラスへ行きましょう!私も忙しい身ですからね、
    あとは担任のクルーウェル先生に任せてしまいます。先生はもうすぐ来られるはずです。優しい私が呼んでおきました!」
    カラスの様な羽のマントがバサリと音を立てて翻り、マスクの下からニンマリと音の聞こえそうな笑顔が透けて見える。
    (めんどくさいことを押し付けたんじゃないのかな?)
    (厄介ごと押し付けたんだぞ...)
    こそこそと肩に乗っているグリムに思ったことをはなせば、グリムも同じことを思っていたのか、苦い顔つきでうなずいている。もぞもぞと居住まいをただしていると部屋の扉がパッと開く。
    「おい、自己紹介は済んだか、子犬ども。行くぞ、授業の時間だ」

    声を聞いた途端、監督生の背にゾワリとした寒気が駆け上がった。
    初回授業で生徒たちのことを“子犬”といって鞭をふるった先生が苦手だったのだ。
    元の世界でも大きな声を出す先生はいた。大体が体育系の先生で、沸点が以上に低くて触れれば爆発する化学物質を体内に持っているような人だったのだ。自分の親も割と成績関連では口うるさく起こるタイプだったから、大きな声が恐ろしく感じるのはそのせいもあるかもしれないと、思い直す。

    いってらっしゃーいと機嫌よく手を振る学園長に見送られ、廊下を歩き始めたクルーウェルに続いて数歩遅れで、監督生たちがついていく。
    道中に、同学年であること、カリムと同じように入学が少し遅れた事、ちょっとだけ(実際はちょっとじゃなかったけど!)年上であること、事情があり学園に長くいることを、当時のエリザベス(エル)は監督生にわかりやすい様に話して聞かせたのだ。

    「同じ学年なんだ」
    「そうなるね。一応。だからエルって呼び捨てにしてくれて構わないんだ」
    大人の様な背丈や雰囲気を纏ってよどみなくクルーウェル先生の後についていく「エル」という青年が、まさか自分と同じ年だということが、ユウには信じられなかった。







    断言しよう。私はここまで綺麗な人を見たことがなかった。NRCにきて綺麗な顔は見慣れていたつもりだった。けれどエルの顔は繊細な人形のようで、通った鼻筋、長髪の先に緩く癖のついた薄い金色の髪に、一筋灰色から黒のグラデーションがかった髪が目を引く。滑らかな白い肌と、薄い色の金の目には濃淡があり、吸い込まれてしまうような感覚さえある。
    そんな見た目だから、異世界から来た人間である私よりエルのほうが目立った。ひそかに居心地の悪さを感じていた私にとって、それはありがたかった。

    ホームルームの時間が終わった直後、後ろに座っていたエースとデュースが(主にエース)私の肩にのしかかる。
    「それで、くっついて回ってもらってるのか!なんか監督生っていうより、おチビちゃんだな」
    「私だけじゃできないことを手伝ってもらってるだけなんだけど...」
    「イイじゃないか監督生。グリムの相手だけでも手一杯みたいだし。また倒れる前に手伝ってもらえばいい」
    「ありがとう、デュース。そういってもらえると気持ちが軽くなる」
    教科書を鞄にしまいながら忘れ物がないか、グリムが部屋を勝手に出ていっていないかをさりげなくかくにんすることをわすれない。忘れたときひどい目にあったから、そこからの習慣といってもいい。
    「でもだからって何でもかんでも頼るのはどうかと思ってさ」
    そう話しながら帰り支度ができたことを得るに伝えようと、私が席を立つと、目線の先にはクルーウェル先生と何やら話をしているエルの姿が見えた。

    「あの怖い先生に気軽に話に行けるなんて、彼奴すごいやつなんだぞ」
    私の肩というグリムの定位置から、不躾ともいえるようなことを言うグリムの口を急いでふさぐ。聞こえていて、エルが気を悪くするかもしれないし、クルーウェル先生が一言くぎを刺してくることも怖かった。

    しばらく二人は話をしていたが、クルーウェル先生がエルの肩にポンと手を置いたのを最後に会話が終わったらしい。こちらに歩いてきた。
    「お待たせ、ユウ。宿題の〈精霊のあくび薬〉って結構難しいんだ。先生にも許可は頂いたから、もしわからなかったら手助けするよ」
    「ほん・・・」

    「マジか!?俺も教えて!」
    「教えてくれないか?!」
    「クルーウェルの課題全然わからなかったから、オレ様大助かりなんだゾ!」
    感謝を口にしようとして、後ろからの圧に耐え切れず、たたらを踏むことになった。ぐっと詰まる息をため息に変えて吐き出すと改めてエルへ向き直る。
    「ほんと助かる。最近難しい課題ばかりで課題に手が回らなくなってて」
    後ろ髪を掻きながら話せば、エルはやれやれといったような風体で手をあげて、片目をつぶる。
    「大丈夫、ユウ。多分クルーウェル先生が期待している所もあるんだと思うけど、意外と他の先生も同じくらいの期待を込めて課題を出しているところまでは、頭が回ってなかったのかもしれないね」
    こっち(生徒側)としては困っちゃうよね、と言いながらオンボロ寮までの帰路をたどり始めた。


    ねむれ、ねむれ ゼラニウムの花
    うたえ、うたえ ねむり子の歌
    星の声が 聞こえるように


    グリムの前にカンペを出しつつ、せめてミスしないようにと指でなぞりながら恐る恐る透明な薬品の入ったビーカーを見ていると、小さな緑の光が飛び始める。
    「いいんじゃないかな?」
    向かい側で様子を見ていたエルがグリムに声を掛ける。
    「ふ、ふなぁーー!緊張したんだゾ!」
    お疲れ様、とグリムの頭をなでて私のほうにもねぎらいの言葉をかけてくれるエルの顔は、とても穏やかで、ほっとするような表情だった。

    「あ、やべ!なにこれ!」
    穏やかな空気を壊すようにエースの焦った声が聞こえる。不安に思って思わず視線をそちらに向けると透明なはずのビーカーの中の薬水が紫色に代わっている。
    「まって!それ以上混ぜちゃだめ!」
    焦った声が背後から聞こえ、エルがエースの前に飛び出した。

    「ふな!エル!」
    「あ、おい!」
    「エル!」

    パァン!とガラスの割れる音。

    そむけた顔を戻すと、頬に少し傷ができたエルが微笑と共に「無事?」と声をかけてきた。無事だった、その思いだけで私は胸がいっぱいになった。
    「ご、ごめん!俺・・・」
    エースが慌ててエルに駆け寄るとハンカチで髪に飛び散った髪をぬぐった。
    「あ・・・」
    何かに気が付いたようにデュースがエルに近寄っていく。これ以上何が起きたとの言うのか。靴の下でガラスの破片が割れるのも構わず、私がエルの近くによると、デュースがエルの髪に手を置いていた。手の中で流れている髪は、透けるような金色ではなく
    灰色から侵食されるように黒くなりつつある髪だった。

    誰かが何かを言う前に、「大丈夫だよ」と魔法石のはまったペンを取り出す。生徒たちが入学式の時に与えられる、生徒用のマジカルペン。エルが指に挟んでくるりと回す。
    床に散らばったガラスや液体がきらきらとした砂になって空中に消えていく。その様子をぽかんと見上げていた私に、エルが思わずといったように噴き出す。
    シリアスな空気が消えていく感覚に、私の体からも力が抜けていく。
    「よかった。でも、髪が・・・」
    「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。ちょっと魔法を使うと、だんだん黒くなっていくんだ。そう“体質”だと思ってくれたらいい。体調に何も問題はないから、ほんとに気にしないで」
    ね?と気軽に言ってのけるエルが、少しでも苦しそうな顔を見せていたら、私はそれを信じることができなかったのだろうけど、頬の傷まで綺麗に直してしまったエルには、一片の不快さも見当たらなかった。
    「怖かったんだゾ・・・」
    「魔法薬は加減を間違えてしまうとすぐに暴走し始めるから、気を付けた方がいいね。〈精霊のあくび薬〉はまだ危険度Dの魔法薬だから暴走してもそこまで危険はないかもしれないけど、CランクやBランクの薬になると、死んじゃうぐらいの事故になることもあるからね」
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    Kiki98352010

    MEMO書きたいシュチュエーションだけ最後の夏休み
    滑らかな音色が広い部屋に響き渡る。薄いカーテンに差し込む夕日が、風で遊ばれるせいで部屋の中には不規則な光が注いでいた。白く無機質な部屋に、長い手すりがぐるりと囲み、一面の壁が鏡となって部屋の中の人物を映している。
    薄い金の髪に一筋の灰黒の髪。白い薄手のドレスが動くたびに翻り、真っ白な素足を見せていた。
    彼女は軽やかに音を奏でながら踊っていた。音に身を任せ、体の、音の、赴くままに顎にヴァイオリンを挟み、右手で緩やかに弓を動かして、左手でリズミカルに弦をつま弾く。

    漸く一曲が終わる頃に、クルーウェルは拍手をしながら部屋の中央へ歩き出した。遠慮してたわけではなかった。彼女の爪弾く音が、苦しそうに聞こえたから。

    「・・・来てたのね」

    エリザベスがヴァイオリンをおろして入ってきた俺を出迎えてくれる。「弾き続けてくれてもよかったんだぞ」と言いながらエリザベスを腕の中に閉じ込めると、静寂が世界を支配して、ここが賑やかな学校だということを忘れさせた。いつからいたとか、何故こんなところにいるとか、そう言った無粋な質問は飛んでこなかった。いつだってそうだった。無闇に人に踏み込んでこない 1403

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