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    Kiki98352010

    @Kiki98352010

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    Kiki98352010

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    #ツイステ
    twister

    金の櫛3
    「どうやったら俺は息ができる?」
    薄暗い、殺風景な誰かの部屋の中。男が女に尋ねた。ユウはその光景をまるで映り鏡の向こうを覗くように見ているのだった。

    その日、男はグラン・ジュテがどうしてもうまくいかず、飛んでも飛んでも、表現したい世界に合わず、どうしようもなく落ち込んでしまっているようだった。男が家に入るときの顔はひどい顔をしていた。男の家族も、男に対して何も聞くことなくみんな一様に下を向いてシャンデリアの明かりの元、とても静かな食事を取っていた。
    ただ一人、夕食に招待されていた女性だけが男に「どうしたのか」を聞いていた。まるでおとぎ話の中の貴族の家の様な大きなテーブルで、男の正面に座っていた金髪の女性だった。ユウの立っている場所からは誰の表情も窺うことはできなかったが、男が命を吐き出すようなため息をついたことは見て取れた。

    そして男は彼女に聞いたのだ。“どうやったら息ができるのか”と。

    食事を終えた男は部屋に引き上げ、燭台を持った女性が部屋を訪れるまでは、部屋には明かりすらなかった。
    ベッドサイドに座り込んで頭を抱えた男の正面に、ゆっくりと立った彼女はそのままゆっくりした動きで男の頭を抱え込んだ。
    髪を手櫛でとかされる柔らかな空気とは裏腹に、彼女が話す言葉は雪解けを待つ冬芽のような芯の強さをともなってユウの頭に直接音になって響いた。けれどユウには何故か、『音』が風に溶けてしまったかのように“言葉”にはならず、結局彼女が男に何と言ったか思い返すことができなかった。



    1ヶ月後、国内有数のホールで最高峰の踊りを見せた薔薇の王国代表は、華々しくマジカルバレエ最高峰である舞台への出場を決めた。
    しかしその舞台に登ることなく、彼は表舞台から去ることになる。

    エトワールになることなく。


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    「なんか、すごい夢を見た」

    寝起きでまだぼんやりする頭でも、昨夜の夢はインパクトが残響するようだ。華やかなバレエ。黒髪のすらりとした伸びやかな肢体を持つ男性。
    まるで誰かの記憶を覗き見たかのような精緻さに、目眩を覚える。

    「前にもトランプの夢は見たけど…」
    ベットサイドのオンボロランプの紐を引っ張って灯りをつけると、ようやく朝のモードに切り替わる。この切り替わる瞬間が少し厄介だ。元の世界にいた時から、ユウの頭はチャンネルの切り替えが下手でよくトラブルを起こす。例えば……

    「イテッ!」
    箪笥...はこの部屋に無かったが、代わりに昨日の夜、書いたまま開いていたであろうマジカルダイアリーの背表紙を土踏まずで踏んでしまったらしい。

    痛い。
    想像以上に脳に衝撃が走る。
    幸いというか、ただ足で踏んだ如きでは壊れない日記だったことに感謝すべきか、日記帳の方が紙らしく潰れて、足を守れた方が良かったのか。

    「あぁー、何やってるんだボク」
    「ふなぁ?もう朝…なんだゾ…むにゃ…オレ様はもうちょっとツナ缶食べるんだゾ…」
    そのままもう一回夢の中のツナ缶を食べに行こうとしてるグリムに目をやって、何気なくグリムの寝ているクッションの奥、ベッドサイドテーブルを見た。

    「やばい!遅刻する!」
    ヒヤリとした感覚があっという間に焦りに変わる。
    テーブルの上の大きな耳のついた時計は後30分で一時間目の鐘がなることを伝えていた。
    「グリムっ!うぇいくあっぷ!遅れる!」
    「うぎゃあ!」

    そこからは覚えていない。ボクはなんとか服を着替えたあとグリムをひっつかんで部屋を出たんだと思う。
    クラスに滑り込んだところでチャイムが頭の上でなる。今日の授業の一時間目が体育で、バルガス先生で良かった。制服の下に運動着を仕込めるし、多少遅れたところでバルガス先生は怒ったりしない。
    「ギリギリ間に合ったんだゾ」
    「ホントだよ・・・変な夢のせいで寝た気がしない・・・」

    「よーし、授業を始めるぞ!今日からお前らは箒の練習だ!」
    そう声を掛けられた一年生ズは大いに盛り上がっていた。
    箒に乗ることはこの世界のちびっこの憧れらしい。ボクにはその憧れは分からなかったけど、たぶんそれはボクの世界でいう『三輪車』に乗れることとか、『自転車』に乗れることに近いのかもしれない。
    きっと未知の世界に踏み出すわくわく感があるんだろう。
    ボクからすれば、すっごく細い木の枝の上にまたがって、安全に空を飛べるのか全く信用ならないから、箒に乗ることはわくわくするどころか、恐怖でしかない。
    「オンボロ寮の監督生!お前さんは箒で飛んだことあるか?」
    ずいっと近づいてきたバルガス先生の顔が大写しになる。急なことで、一瞬背をそらすと先生が「おっと」と体をわずかに後ろに下げる。バルガス先生はその大柄な体型に似合わず繊細な仕草でボクに箒を差し出した。
    「えっと、ないです。元の世界で遊び半分で跨ったことはありますが、結局飛べませんでした」
    箒を受け取りながら恐々答えると、バルガス先生は満面の笑みを浮かべてこう言った。
    「ならば、お前さんは一度空を知るべきだな!」
    お前たちは箒が答えるまで呼びかけ続けろ!そうしないと飛べないぞ!と豪快にクラスのメンバーに檄を飛ばしたバルガス先生は、ボクをグラウンドの真ん中に連れて行った。
    後ろから「飛べ!」だの「上がれ!」だの大声で箒を呼ぶクラスメンバーの声が聞こえる中、不満を言う声も聞こえた気がしたが、ボクがバルガス先生に話しかけた時、そんなものが気にならなくなるほどの圧力が飛んできた。
    バルガス先生からだ。

    「え、あの」
    「空は良いぞ!何より筋肉がしなる!あの感覚は最高だ!」
    「え?」
    「・・・筋肉と空に何の関係があるんだゾ・・・」
    「さぁ来い!監督生!俺がお前に空を飛ぶ尊さを教えてやるぞ!」
    まるでボクの話もグリムのぼやいた声も聞こえないかのようにボクに持たせていた箒を催促し、さっさと箒にまたがってしまったバルガス先生は、ボクらをすとんと箒の前のほうに跨らせた。
    「浮く一瞬で目を回す奴もいるから、柄につかまっておくことだ!筋肉も鍛えられるし、目も回さないだろう!一石二鳥だ!」
    そういわれてボクは急いで箒の柄にしがみついた。直後、グンとお腹に重力がかかる。ひゅんとすくむような感覚がして思わず目を閉じてしまったボクに、バルガス先生はガシッと胸板と腕でボクを挟み込んで
    「監ぁん督生!!目を閉じるなよ!もうすぐ雲に手が届くぞ!」
    片口でバルガス先生のバカでかい声が聞こえて、思わず目を開くと
    世界が一変していた。

    「う、あ」
    思わず声が漏れてしまったことは仕方なかったと思う。
    だって見たことがない。手に届く雲、そろそろ夏に似た気温になろうかという春先でやや薄寒い風。
    そして何より、眼前に広がる今まで自分が立っていた芝生コート。
    「すごい・・こんな高いとこまできたんだ・・・」
    「ふぎゃ!すげーんだゾ!雲が掴めそうなんだゾ!」
    はしゃぐグリムに、「おっこちるなよ」とバルガス先生が声をかけているのが聞こえるけど、もはや風の音と同じくらい気にならない。
    「空だ・・・!」
    ボクは感動していた。
    初めて魔法をこの世界で見た時よりも、もしかしたらあっちの世界で初めてもらった誕生日プレゼントよりも感動しているかもしれない。
    「先生、空を飛ぶって素晴らしいです」
    「そうだろう!箒を使って空を飛ぶのは魔法士の特権だ。機械に乗れば非魔法士でも飛べるが、やはりこの筋肉のしなりを味わいながら大空を飛ぶことができるのは俺たちだけだからな!」
    お前さんも飛べるようになれ!と大声でボクに激励を飛ばしながら少しアクロバットな飛び方をし始めた先生に、ボクは「飛べるか分からないけど飛んでみたい」ことを伝えると、バルガス先生はボクの悩み事を吹っ飛ばすように大きな声で笑った。
    「誰でも最初は筋肉からだ!最初から空を自由に飛べる奴などそうそうにいない!いるとしたらそいつはチェンジリングか生粋の妖精か何かだろう。要はトレーニングだ。飛び方は何も魔力だよりの方法だけじゃない。トレイン先生なんかは魔力を溜めたランプを柄にひっかけてご自分の魔力は使われずに箒に乗っておられたりするぞ?多少コツはいるらしいが、その場で魔力を使わなくていいらしくてな。体調が悪い時でも箒で飛べるとおっしゃっていたぞ」
    そんな面倒なことをしなくても、ガッと飛べばいいのだ!とさりげなくトレイン先生の悪口を挟みながらも話してくれる内容に、ボクは希望を見つけた。
    「なんかモバイルバッテリーみたいですよね」
    「も、もばい?」
    「トレイン先生のランプの様なものが、ボクの世界にもあったんです」
    軽く説明をすると、全く興味が無さそうなバルガス先生の「ほぉー」という声が聞こえる。
    「まぁ、日々鍛える事だ!魔法は筋肉から!」
    そういつものように言い切ったバルガス先生はゆっくり箒をグラウンドに下す。
    バルガス先生の言う通り、箒を自由に飛ばすことができたクラスメイトはまだいないようだった。顔面に箒が直撃して耳をイカのように伏せてしまっているサバナクロー生、うまく箒はつかめているが箒が暴れだすのを必死で抑えているポムフィオーレ生、エースは箒に「なんで言うこと聞いてくれねーんだよ!」と半分きキレいる。その反対側ではデュースが箒にまたがることには成功しているが、箒がうんともすんとも言わない様子に困惑した顔だ。


    「よし!お前ら!集合だ。スペードとほかの5人、上出来だ!後のやつは鍛え方が足らんぞ!箒に怒るのではなく、箒が自分を乗せているようにイメージしろ。自分が箒に合わせるんだぞ!」
    バルガス先生がさっきまで乗っていた箒をボクのほうに差し出す。
    今度は自信を持って、ボクは箒を受け取った。
    「グリム、やってみよう!」
    「任せるんだぞ!」

    「「上がれ!」」






    _*_*_*_
    「うまくいったみたいですね」
    「そうですね。バルガス先生は素晴らしい先生ですが、少々強引になるところがありましたので、いつ授業にお邪魔しようか狙っていたんですが、その必要はなさそうですね」
    学園長のカラスの羽の様なローブが翻る。
    「ワタシ行きますね。“なにかあれば”またご報告お願いします。なんたってワタシ優しいので!」
    「ご指示のままに」
    エルが一つ礼を返すと、ではと言い残して学園長は飛び去る。

    「さて、そろそろ行かないと居ないってバレちゃうね」
    _*_*_*_




    「ふな!アイテテ....箒がオレ様の方に飛んできたんだゾ」
    「大丈夫?グリム」
    ハンカチを出してグリムの額についた細かい砂を払う。やはり箒は曲者で、すぐ扱えるようになったのはA組の中でもデュースを含めた数名だった。最初にコツを掴んだ彼は、今マジフトのポールを周回するコースを練習している。意外なことに多少のことは小手先で器用にこなすエースが苦戦していた。
    「なぁんでうまくいかねーんだ?」
    「エースってなんでもある程度上手くやるのに、今回は苦戦してるんだね」
    思わずボクが思ったことを話すと、エースは苦い顔をした。
    「……笑わねえ?」
    うん、と頷いて見せるとズルの天才は今回うまくいかない理由を教えてくれた。曰く、『普段ある程度のことを兄に聞くが、箒に関しては教え方が悪すぎる』らしい。
    「教え方がってことは、エースのお兄ちゃんって箒が下手なのか?」
    「ユウってさりげなくシツレイなんだゾ」
    「グリムって“失礼”知ってたんだ…」

    小競り合いを始めそうになったボク達に被せるようにエースは「逆!」と恥ずかしそうに頬をかいた。
    「兄貴は箒に関しちゃ天才肌っつーか、説明が大雑把すぎて基本的なこと全く話せねぇんだよ。だから俺はわっかんねーっつーか....」
    「エースってズルするために結構コツコツやってるんだね」
    「ズルするって、言い方」
    勢いよく突っ込むエースに、ボクは慌てて言い直した。
    「事前に頑張ってるんだね」
    「…なんかその言い方は……恥ずかしいんだけど…」
    ごにょごにょと口籠るエースに
    「え?ご、ごめん。変なこと言った?」
    とボクが急いで訂正して謝ると、余計にごにょごにょしてしまう。何が起きているんだとエースの方に一歩踏み出した時。



    「やったんだゾ!オレ様が一番ダァ!!!」
    とボクにはとても耳馴染みのある声が聞こえてきた。
    そして同時に足元を確認。
    いない。

    「やばい!」

    やらかしたことに気がついたボクに正解をくれるように空中からグリムの大声と、デュースの『グリム!そっち行っちゃだめだ!』という声が聞こえる。
    「あーあ、あいつまた何やらかしたんだよ」
    エースの呆れた声を背中で受けながら空中にいるであろうグリムを探す。



    グリムはすぐ見つかった。
    マジフトのポールを回っているデュースよりも高い位置で校舎の尖塔に近い位置で猛スピードで飛び回っているらしい。
    周囲の同級生からは、またあいつかと視線が向けられている。その中の何人かからは『監督生は何をしてるんだ』と言った趣旨の目線も感じる。
    藪睨みの目をできるだけ見ないようにしてグラウンドの芝生を急いで横切る。
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    Replies from the creator

    Kiki98352010

    MEMO書きたいシュチュエーションだけ最後の夏休み
    滑らかな音色が広い部屋に響き渡る。薄いカーテンに差し込む夕日が、風で遊ばれるせいで部屋の中には不規則な光が注いでいた。白く無機質な部屋に、長い手すりがぐるりと囲み、一面の壁が鏡となって部屋の中の人物を映している。
    薄い金の髪に一筋の灰黒の髪。白い薄手のドレスが動くたびに翻り、真っ白な素足を見せていた。
    彼女は軽やかに音を奏でながら踊っていた。音に身を任せ、体の、音の、赴くままに顎にヴァイオリンを挟み、右手で緩やかに弓を動かして、左手でリズミカルに弦をつま弾く。

    漸く一曲が終わる頃に、クルーウェルは拍手をしながら部屋の中央へ歩き出した。遠慮してたわけではなかった。彼女の爪弾く音が、苦しそうに聞こえたから。

    「・・・来てたのね」

    エリザベスがヴァイオリンをおろして入ってきた俺を出迎えてくれる。「弾き続けてくれてもよかったんだぞ」と言いながらエリザベスを腕の中に閉じ込めると、静寂が世界を支配して、ここが賑やかな学校だということを忘れさせた。いつからいたとか、何故こんなところにいるとか、そう言った無粋な質問は飛んでこなかった。いつだってそうだった。無闇に人に踏み込んでこない 1403

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