水着に着替えるヨダナさんの話 どうせ暑くなるからとクーラを切った夏の夜の終わり。汗だくになったアシュヴァッターマンとドゥリーヨダナは同じベッドに裸で横になっていた。
体の熱さは抜けず、頭もぼんやりとしている。気だるげな雰囲気の中、アシュヴァッターマンが口を開いた。
「サーヴァントは熱中症にならないからいいけどよぉ。明日?今日か。マスター達と海に行くんだろ。体調崩したりしたらもったいねぇぜ」
海と言ってもシミュレーターだが、マスターである少女とレジャーが出来るとあってサーヴァント達の多くは行きたがっている。
厳正なる抽選の結果珍しく留守番になったアシュヴァッターマンの言葉にドゥリーヨダナは笑った。
「サーヴァントが体調崩すわけがなかろう。そ、れ、に! わし様に似合いの水着を作らせたのだ。こぉんなヤツ」
ドゥリーヨダナの指が小さな三角形を描き。アシュヴァッターマンの目が吊り上がった。
「ビキニじゃねぇかぁああああ!!」
怒声にドゥリーヨダナが耳を押さえる。
「旦那! 本気でそんなものを着ていくつもりか!?」
体を起こしたアシュヴァッターマンに詰め寄られてドゥリーヨダナはにやにやと笑う。
「わし様の魅力でビーチを沸かせるつもりだが?」
確信犯だ。アシュヴァッターマンは思う。
このろくでなしの恋人はアシュヴァッターマンが嫉妬するのが分かっていてそんな際どい水着を作らせたのだ。
マスターと海へ同行するサーヴァントはトラブル防止のため変更は認められていない。──だが、水着を見せない方法はある。
「旦那、覚悟しろよ」
目が座ったアシュヴァッターマンに押さえつけられて、ドゥリーヨダナは目を丸くした。
■
夏の浜辺の陽射しは眩しい。
思い思いの水着を身に着けたサーヴァント達の中、パーカーにショートパンツのドゥリーヨダナにマスターである少女は声をかけた。
「自慢の水着を見せびらかすって言ってなかった? わし様の肉体美を堪能するがよい、とかなんとか?」
「それどころではなくなった」
沈痛な面持ちで顔を伏せるドゥリーヨダナはパーカーの布を軽く引っ張る。ズレてあらわになった胸元に見えたモノに少女は息を呑む。
「え? それ、アシュヴァッターマンがやったの??」
そこに広がるいくつもの小さな跡にマスターは息を呑んだ。ドゥリーヨダナの恋人のアシュヴァッターマンは怒りっぽいが無体を働く人物ではない。
「ドゥリーヨダナ、なにやったの? 薬でも盛った?」
薄く焼けた肌にいくつも見えたキスマークはつけた者の激情が伝わってくるようだ。
「薬? その手があったか!! ひらめいた!!」
「通報します。委員長っー!!」
「待て!!待て待て!」
アルジュナオルタを呼ぼうとする少女をドゥリーヨダナは制止する。
「アシュヴァッターマンとわし様は良好な恋人関係を築いておる。いくらマスターといえども、これ以上はあれだ。馬に蹴られる、というやつだな」
得意げに顎を撫でるドゥリーヨダナを少女はじっとりと眺めた。
「そんな良好な恋人がなんでそんなことをしたんです?」
質問にドゥリーヨダナはおもむろにパーカーとショートパンツを脱ぎ捨てた。
「あやつは嫉妬しておるのだ。この、溢れ出るわし様の魅力が…」
「委員長っー!! ご禁制です!!」
少女の叫びにすっ飛んできたアルジュナオルタが見たものは、まだ少女のマスターの前に立つ、黒ビキニに全身キスマークをつけた男だった。
「恥を知りなさい!!」
その後、プララヤされたドゥリーヨダナと、恋人に大量のキスマークをつけたアシュヴァッターマンはパールヴァティーにこっぴどく叱られることとなる。
「わし様なにも悪くないが?」
「反省の色がありませんね。お説教は延長です」
「……申し訳ありません」