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    calabash_ic

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    #キラ門
    Kirawus/Kadokura

    addicted/キラ門 さっきまで布団の上で絡み合っていたのがまるでテレビの中の出来事だったみたいに一人で煙草を吸っている。春の終わりの夜は肌寒い。これからほんのひとときの夏が来て、あっという間に涼しくなる。暑い内にどこかに出掛けたい。門倉を助手席に乗せてどこか、釣りが好きだと言っていたから川や海でも、とにかく一日を一緒に過ごしてみたい。門倉には盆休みがあるはずだ。首だけで振り返り、門倉の部屋のドアを見る。今日もまた抱き合ってしまった。先週はしなかったけれど、先々週はした。おそらく来週もする。身体の中にまだ熱が残っている。いい年をした男が二人、まるで覚えたての学生みたいにがっついて、みっともなくて気持ちいい事をしている。跨って見下ろし、転がって見上げて、肌を舐めて、歯を立てて。汗を吸った布団でそのまま眠るのだって嫌じゃない。思い出しているとまた昂ってしまいそうで、煙を深く吸い込んでは吐き出す。
     がちゃり、と背後でドアノブの回る音がした。それからサンダルの足音がして「キラウㇱ、俺にも一本ちょうだい」と続く。煙草の箱を手渡す。ライターは箱の中に入っている。門倉の貰い煙草はいつもの事だ。昔は吸ってたけど今は会社で結構嫌がられるでしょ、だからあんまり吸わなくなっちゃってね、といつだったか話していたこの人は、最初の一口をやけに美味しそうに吸う。そのわりに口に上がった煙草の名前が古いので、吸わなくなった理由は他にあるんだろうな、とキラウㇱは勝手に思っている。門倉が煙を吐き出しながら隣に立ち、同じように柵にもたれた。普段は台所で吸っているが、換気扇が回らなくなったと言うので今日は外だ。ベランダもないのでアパートの外階段に立ち、駐車場を見下ろしている。キラウㇱが煙草を吸いに出てから数分、車どころか人も通らない。深夜なので当然だった。時折、アパートの裏の大きな道を車が過ぎる音だけが聞こえる。
     門倉は静かだった。ゆっくりと味わうように煙を吸い、吐いて、また吸っている。キラウㇱも二本目に火を付けた。門倉のスウェットの伸びた襟から痣のような濃い色が見えている。少し考えて、それがつい数十分前に自分が必死に吸い上げた箇所だと気付いた。怒られるだろうか。空いている方の手でうなじに触れる。シャツを着れば隠れる位置だ。本人は気付いてもいないかもしれない。指先に感じる短い毛の感触を楽しみながら、もう一度煙を吸う。襟足をぞろりと撫で上げると、どこを見ているのかわからない横顔のまま門倉が口を開いた。
    「キラウㇱはさ、好きな人とかいんの」
     なんだその質問、と思った。つい先程までキラウㇱを布団に押し付けて首筋をなぞっていたのと同じ唇で、そんな青春真っ只中の学生のような台詞を吐く。腰の奥がむずむずした。「お前の事が」と返してしまうのは惜しかった。男が好きなのだとはまだ言っていない。言わなくてもいい。都合の良い勘違いをして、この人が自分のものになってくれるなら。唇の裏側に触れられた時のように身体が熱を帯びる。期待している言葉があるくせ、どうでもいいというような雑さで投げかけられて、素直に答えてやれない。
     まだ長さのある煙草をゆっくりと吸い上げた。ちりちりと紙が焼けていく。肺がいっぱいになったところで門倉の頭を両手で挟んでこちらを向かせ、顔に思いっきり吹きかけた。そのままの勢いで口付ける。門倉が咳き込む。それでも離してやらない。身体を押し退けようと突っ張る腕を無視して唇に噛み付く。咳をするたびに場所がずれて、頬や顎にも歯が当たった。今にも陥落しそうな外階段に足音が響く。後退った分だけ距離を縮めて、とうとう端まで追い詰めてしまった。唇をくっつけたまま咳をするので、息が口の中に入ってくる。抵抗が止んだので舌を差し入れた。前歯から犬歯までの形をなぞる。頬を押し潰していた手の力を緩めると、歯の奥から舌先を出してくれた。同じ煙草のはずなのに唾液と混ざって違う味がする。門倉の平くて薄い舌を味わっていると「熱っ」と急に舌が引かれ、今度こそ身体を離された。
     足元に短くなった煙草が落ちていた。キラウㇱの煙草はまだ指に挟んでいる。門倉の吸っていた煙草がいつのまにか短くなって、指を焼いたようだった。門倉の足先が煙草の火を消す。しゃがんで拾い上げ、自分の煙草と一緒に携帯灰皿に押し込んだ。まだ胸が騒いでいる。なんとなく目を合わせられなくて門倉の手に触れた。
    「火傷したか」
     いつも左手の第一関節と第二関節の間に煙草を挟んで吸っている。そんな事さえ覚えてしまった。指の間に鼻を押しつけると煙草の匂いが強くなる。火傷はしていない。門倉。この人がどうしても欲しかった。
    「門倉、お前が決めていいぞ」
     そっと指に舌を這わせる。煙草の、害のありそうな苦味で舌先がぴりぴりと痺れた。
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    calabash_ic

    MOURNING
    夜 くだらない会話の一例/キラ門 それぞれの部屋に寝具はあるが、共寝する夜もそれなりにある。数ヶ月前に布団からベッドへ買い替えてからその頻度が上がった。新しいマットレスが気持ち良いだの睡眠時無呼吸症候群が心配だの色々と理由を並べているキラウㇱにも思うところがあってやっているのだと察しているので、門倉は特に何も言っていない。真夜中、いつも先に寝てしまう門倉のベッドの脇にキラウㇱがのそりと立つので、布団の端を捲り上げてやる。キラウㇱは身体を滑り込ませて、大抵の場合は門倉の首の下に腕を差し込み、頭を抱えるようにして眠る。これが六割くらいだ。門倉の腕の中に潜り込んで、脇の辺りに顔を押し付けて眠るのが三割。残りの一割は、ほとんど手も触れず、ただじっと門倉の眠る様子を眺めている。同居を決めた際に「眠っているのを起こしたくないから寝室は別々に」と言い出したのはキラウㇱの方だったので、その彼がこういう風にする事でしか片付けられない感情を持て余しているのならなんでも許してやりたかった。今夜は三割だ。門倉がしてやれることは少ない。精々キラウㇱのために布団の隙間を開けてやり、朝は何食わぬ顔をしてくだらない言葉のやりとりをするくらいだ。
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