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    calabash_ic

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    #キラ門
    Kirawus/Kadokura

    犬とキラ門(ふせったー再録)結局このときに引き取った犬は7年くらい生きて老衰で穏やかに死ぬんですけど、

    死が近くなって歩行はおぼつかなくなり、量を食べられないし漏らしたりもするし、門倉もキラウㇱも働いてるから気が気じゃない。キラウㇱは仕事中にちょっと帰って様子を見たりもするけどそれでもほぼ半日は犬を一匹にしているわけだから、いつもずっと心配してる。門倉もできるかぎり早く帰るようにしてる。そうなってからはもちろん帰省なんかもできないし、それはある意味では窮屈で、でもすごく大切な時期だと2人ともわかってる

    でもある日曜日の午前中、門倉が家にいる時に、居間に敷いた毛布の上でとうとう息を引き取るんだよね。キラウㇱは仕事中で、門倉からの「死んだよ」ってメールで知る。もう心の準備を終えていた事だから驚いたりはしない。「なるべく早く帰る」って返事だけして、その日の仕事もきっちりやる

    それで家に帰ったら犬の亡骸の前に門倉が座っていて、キラウㇱが帰ってきたのに気付くと「明後日(キラウㇱの店の定休日)に火葬場の予約したから。俺も年休取った」って言われる

    長生きしたから骨も脆くて、小さな骨壷に収まってしまったときには「こんなに小さかったか」「大きい骨を入れ忘れてたりしてな」ってちょっと笑ったりして、それでも火葬場からの帰り道が砂利道であんまり揺れるのでなぜか泣いてしまったりする

    帰ってきたら居間にある本棚(ほとんど門倉の本が入っている)から数冊抜いて隙間を作って、そこに骨壷を入れる。そうして生活は続く



    キラウㇱは犬を連れて山や海に出掛けたことをずっと覚えているし、ずっとスマホの壁紙を犬の写真にしてる。門倉は、犬の死ぬ間際に名前を呼んだ時、もう耳なんてほとんど聞こえていないはずなのにぎこちなく首を上げて門倉を探そうとした事をずっと忘れない
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    calabash_ic

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    早く家に帰りたい/キラ門 昨年の言葉が耳に残ったまま新年を迎えた。葉の落ちた枝に雪が重く積もっている。長く真っ直ぐな道の両脇の林から時折エゾシカが顔を覗かせるので、その度に軽くブレーキを踏む。峠が吹雪いていなければ無事に帰り着けるだろう。自然と気が急くのを落ち着けようと冷めてしまった缶コーヒーを啜る。今夜帰ると伝えておいた。冷蔵庫の中身は減っただろうか。酒ばかり飲んでなければいいが。そんな事ばかり考えている。アパートから運んできた炬燵のある我が家。きっと今も門倉が背中を丸め、テレビを見るか、本を読むかしているのだろう。我が家、と心の中で思う時、キラウㇱは切ないような誇らしいような気持ちになる。
     初めて好きだと言われた。門倉は帰省に着いてこなかったからだ。その心苦しげな、まるで謝罪のような響きが頭から離れないでいる。申し訳ない、と直ぐにも言い出しそうに眉根に寄せて「キラウㇱくん、好きだよ」と言った。これから長距離の運転だとキラウㇱが玄関の扉を開けたところだった。振り返ると半纏を羽織った門倉が壁にもたれかかるようにして立っていた。まだ眠たげで、目の端が少し汚れていた。うん。俺も好きだ。澱みなく溢れるように返事をしながら、そうか、俺はすっかりこの人が好きになってしまったのか、と頭の端で考えた。キラウㇱから言葉にしたのもおそらくこれが初めてだった。それから、本当に一人でいいのかとここ数日で何度もした質問を繰り返そうとして、口を噤んだ。寂しさはキラウㇱのものだった。門倉を置いていくキラウㇱが寂しいのであって、けれどそれがこんな表情をさせてしまっているのなら、それこそ本意ではなかった。代わりに「そのうち一緒に行こう」と言って、膨らんだ鞄を肩に掛けた。結局いつまでもどこか寂しいのだ。一人でも生きていける人間が二人、一緒にいようとする事はきっとそうなのだろう。キラウㇱは別にそれで良かった。ただ、あの朝、わざわざ寝床から出て見送ってくれた人のいる我が家に、少しでも早く帰りたいだけだった。
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