徐満「炭を切らしてしまってね、寒くて眠れないんだ」
だから君にくっつきたいんだよ、が出てこないまま、満寵はわざとらしく震える指先を見せる。それから、薄闇に浮かぶ徐晃の輪郭を盗み見た。
昼間は、徐晃に――徐晃だけに、というわけでもないのだけれど――世話を焼かれてばかりで、まるで親子か兄弟のようだとからかわれてしまった。
……閨で会えば、少しくらいは何かが変わるかもしれないと思った。
「満寵殿は子どもみたいでござるな」
徐晃の声は炉火のようにすこし低くくすぶって、満寵のところまで届く。
徐晃はそんなふうに毎回笑ってから、飛び抜けて長身の男ふたりにはあまりにも狭い寝台でごろりと横になる。寝台の軋む音が、妙に早い満寵の鼓動を掻き消した。
寒いと言い訳をして布団にもぐりこんだせいなのか、徐晃は、肩が重なりそうなくらい、満寵に触れている。
「じ、徐晃殿はあったかいねえ」
この暖かさがいけない。安心してしまう。
柔らかい暖かさと少々の土臭さ、それに墨のにおいが、満寵の眠気を誘うのだ。一つ欠伸をしたら、睫毛が月影に濡れて重くなった気がした。
「満寵殿もぽかぽかしておられる……」
徐晃が、眼前で火照る頬に手を滑らせて目を細めた。瞼の裏に残る月明かりが、現実と夢の境目を曖昧にする。
*
(あー……また寝ちゃったよ……)
どうしてこうなるのだろう。昼寝をしても、疲れないように鍛錬をさぼっても、お腹いっぱいに食べないようにしても。彼の隣に寝転がるとすぐに瞼が重くなってしまって、はっと気づく頃にはもう夜も深い。
当然、隣人はよく眠っている。
「徐晃殿……」
(暖かくて眠くなるんなら、今度は薄着をしてこようかな)
小さくため息をついて、念の為、と自分に言い訳をしながら寝間着を確かめる。縦むきになった結び目が、なにも変わりないことを伝えてくる。
いつもと同じように徐晃は眠っている。
差し込む月明かりの心許ない明るさだが、あまりはっきりと見えなくてよかったとも思う。私の情けなさも、彼には見えていないだろう。
(もっかい、寝よう……)