ケサランパサランの木 ふわふわと、千寿郎の前を真白の綿毛が横切った。
初夏の抜けるような青空によく映える拳大のそれに、千寿郎の心はひとたびかかりきりになった。
たんぽぽかな。それにしては大きいな。そよぐ風に再びさらわれないよう両の手のひらで迎え、顔を近づけてみる。種のようなものは一見窺えないが、埃などとは思えない。きっと綿毛の真ん中に種を抱えていて、辿り着いた地で花を咲かすのだろう。そう算段をつけた。
ならば改めて旅立ちへと送ってやるべきか。考えた末、庭の隅の、ほんの少し日が当たる場所にそれを埋めた。父が気付いたら咎められるだろうか。そんな不安も過ったが、そもそも芽が出るかは半々、育つかも半々。どうにかなるだろうと千寿郎は、密かに愛らしい双葉の芽生える様を思い描きながら眠りについた。
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