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    こみや

    @ksabc2013

    こみやです!
    杏千界の片隅で細々とやってます

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    こみや

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    せんずろくんグッズがなかなか出ないのは、兄上の許可がおりてないから
    っていうふざけた話です

    #杏千
    apricotChien

    「さらなる商品化? 駄目だ」
     夏の爽やかな風も思わず声を潜める拒否が隠たちに突きつけられた。現炎柱である煉獄杏寿郎のものだ。普段多忙で捕まらない彼を休暇中の生家まで追いかけてきてまだ五分と経っていなかった。
     だがここで左様ですかと引き下がるつもりなら、わざわざ休暇先まで追いかけてきてはいない。隠には隠なりの理由もあるのだ。――この炎柱の愛弟、煉獄千寿郎にまつわるものである。
     鬼殺隊ではこの頃、隊や隊士になぞらえた様々な商品を作っている。例えば食器をはじめ日常品、服装品、果てには手のひらにすっぽり収まる愛らしいぬいぐるみまで。
     だが鬼殺隊は政府ですら非公認の集団であり、その存在と意義を知る一般人も決して多くはない。よって商品も一般には流通しておらず手に取るのは主に隊士たちとその家族、関係各所などに限られるが、売り上げはそれなりに上々ではあった。始めの触れ込みもまたそうさせた。鬼の被害に遭った市井の人々が、再び心と体の平穏を取り戻していく資金の足しとするのが目的なのだ。
     ならばやはり「売れ筋」というものをある程度は考えなければならなかった。だがそれも端たる問題だ。何せ鬼殺隊には圧倒的に尊敬と畏怖、そして人気を集める者たちがいる。柱だ。柱の何かが出ると聞けば、給金を投げ打って買い集める隊士もいる。さらには名の通った隊士、鬼殺隊の関係者とまで、幅広い需要に応え商品展開はなされてきたのだが――ここに来て製作元がまったく予想していなかった人物を求める声が一部から繰り返し上がるようになった。
     それが煉獄千寿郎だ。きっかけは何を隠そう炎柱本人だった。彼は唯一の兄弟である千寿郎を非常に大切に思っており、というよりもはや溺愛に近く、世間話を始めれば二言目には「千寿郎」という単語が飛び出すのが常だったのだ。そこに商品開発部が目をつけた。あの柱の兄弟だ。組にして売り出してみてはどうかと話が上がったのだ。
     そうして発売されたものが、一部の者たちに火をつけた。
    『かわいい千寿郎くんの商品はもう出ないのですか』
    『かわいい千寿郎くんの商品で生活を埋め尽くしたいです』
     発売直後からそんな声が届くようになり、続けていくらかが発売された。購入者の傾向として、広く誰もが買い求めるわけではないが、一人一人が三つ四つそれ以上と購入しているということもわかった。結果的に作成費は完全に賄えている状態だ。
     ならばさらに、と今回もまず炎柱に手紙を出したところで、思いもよらず不可の返事がやってきた。これまで許可をもらっていたにも関わらずだ。
     よって直談判に来ているのである。炎柱を前に隠たちが畳についた拳にもそれは表れていた。
    「どうしても駄目でしょうか」
    「二度は言わない!」
     さすがは柱だ。その意見一つですら揺るがない。駄目なものは駄目だの一点張りだ。しかし返すだけの理由は隠にもある。何より相手が柱であろうとも要望は伝えられる、それほどの度胸を持った人材を開発部は送り込んでいた。
     それでも柱には押された。
    「しかしですね、千寿郎さんは隊士でないながらも、一部から熱狂的な支持を集めており――」
    「だから駄目なのだと言っている!」
    「と、言いますと?」
     鸚鵡返しに近い問いかけに、いつもキリ、と吊り上がっている炎柱の眉がもう一段階立った。そもそも考えてみろ。切り出す言葉は一度落ち着きを見せていたが、それは主張をより明確にするための前哨でしかなかった。
    「千寿郎はまだ十二歳の小学生だ! そんな子を偏狂的な目で見る者がいる! それを兄として見過ごすわけにはいかない!」
    「いえ、『熱狂的』です」
    「果たしてそうだろうか」
     短いながらも、その刃の切れ味さながらの返しに隠も思わず押し黙った。炎柱はこの「千寿郎人気」の一端といえる事由に勘づいているのではないか。開発部内で懸念されているものを思い浮かべると、背中を流れた汗より冷たい声がそれを肯定した。
    「袴の中を覗いた不埒な輩がいたと聞く」
     ぎくりと揺れた肩に音がついたようであった。
    「人形とはいえ、俺の千寿郎の、袴の中を覗いた者がいるのだ」
     ことさら大切なことらしい。二度言った。
    「俺以外の者が、人形とはいえ千寿郎の袴を覗いたのだ」
     いや、三度言った。もはや念押しに近い。
    「ふぃぎゅあと言ったか。精巧な作りで素晴らしくはあった。だがそれゆえに問題もあったな」
     数ヶ月前に発売されたものだ。今までも愛らしいぬいぐるみ等はあったが満を持して、と銘打たれた本人と同頭身の人形は、造形担当がわざわざ千寿郎に会い、写真を撮りと拘り抜いたおかげか、発売に先立ち、炎柱に献上した時には彼も感心を漏らすほどの出来栄えだった。
     しかしどんなところにも不届きな輩はいる。そして悪い噂ほど伝わってほしくないところまで届くものである。千寿郎ふぃぎゅあは、袴の中まで精巧だとの「賞賛」だ。
     もちろん造形担当がそこまで考えていたわけではない。千寿郎本人に袴を捲ってくれなど頼むわけもなく、模られたものはあくまで千寿郎の体格から想定されただけのことだ。
     しかし炎柱はそこに目をつけた「愛好家」を良しとしなかった。
    「いたいけな少年にそんな興味を抱く。これにどんな正当な理由があるだろうか!」
    「よってあの類のものは一切不可とする! その他のものについてもほぼ同等と考えてもらいたい!」
     青筋まで立てそう言われてしまえばもはやぐうの音も出なかった。それでも諦めきれない。そうだ、もしかして炎柱ではなく、と一つの可能性が頭を過ったが、以前聞いた申し送りを思い出して口にはしなかった。そもそも商品化の始めは前炎柱へと手紙を書いたのだ。千寿郎の保護者に当たる者である。だが半ば想定していた通りすげなく協力を断られた。そういうことは杏寿郎にさせておけとのことだった。
     その杏寿郎こと現炎柱こそ最強の障壁であったと今更ながら知った。かわいい弟のためなら、そのうち販売された全商品を買い取るくらいの心意気すら感じる。できるだけの財力も持ち合わせている。柱の給金は天井知らず、ましてや古くより鬼殺の名家と謳われ、今座する屋敷も頷いてなお余りあるほどの邸宅だ。しかも柱直々に買い取ると言われ、固辞できるだけの気力を有する者など隊の中でも片手分いるだろうか。
     何よりそこまで行けば大ごとだ。それこそ部署が廃止される可能性すらある。そろそろ引き下がらなければ。思ってもやはり未練は残る。そこで持ち出したのが前回の件だ。
     しかしこれも突破口にはならなかった。
    「前回許可したからと言って今回もとはなるまい。そもそもあれは自分が力になれるならと言い出した千寿郎に譲ってきただけのことだ」
     そうだ。今まで商品開発を相談する席にはたまたま千寿郎本人が居合わせていた。考えてみればこれまでも炎柱は話の来るたびやや難を示していたのだ。それを千寿郎が諭し、応えてくれていた。
     今回その姿がないこともあるだろう。そういえば、とたまたまその所在を聞いた。学校は今長期休みの期間だが、ちょうど出かけているのだろうか。
     それに炎柱の眉がぴくりと動いた。
    「千寿郎は友人たちと泊まりがけの旅行に出ている」
     なるほど。納得に足る理由と同時に炎柱の裏を見た気になった。
     これは虫の居所が悪いのだな。本人は決して態度に出さず、不平を漏らすこともないだろうが。隠はそう悟った。何せ多忙の間をぬって帰省したというのに愛しい弟は不在なのだ。おそらく引き止めるようなことも言うまい。かねてより炎柱の口ぶりからして、その弟が健やかに人の子らしく過ごしていることは彼にとって最大級の喜びであると窺えていた。
     だからこれは話の間合いが悪かった。もはやそう決着をつけるしかなかった。休暇中に失礼しましたと頭を下げるしか道はないのだ。
     おかげで炎柱の機嫌も多少は上向きになったようではある。
    「うむ。遠路はるばるご苦労であった! 気をつけてな」
     門前まで見送ってくれる姿は普段よりは柔らかだった。角を曲がるまで手を振る律儀さもそうだ。言ってしまえば炎柱は基本的に、非常に気持ちの良い男であるのだ。
     ただし弟のこととなると話は別だ。しかも会話を思い出すに「俺の」と冠詞までついていた。これはもう誰であっても突き崩せない感すらある。
     だが商品開発部としてもすべてを諦めたわけではない。
    「もういっそ、千寿郎くん本人に手紙書くとかさあ」
    「馬鹿。そんなことしたらそれこそ炎柱が抜き身で乗り込んでくるぞ」
     強い夏日に黒装束をじりじりと焦がされながら帰り道をいく。眼前に広がる畑風景はどこまでも開け明るく、いっそその朗らかさが羨ましくなってくる。自分たちの前途もこうであったなら。暑さも加わってため息すら漏れてくる。
     だが前途多難であるからこそ奮い立つ時もある。話を聞いた商品開発部はさらなる策を練ることとなった。曰く「炎柱懐柔計画」だ。
     その末に「炎柱監修」という前代未聞の開発が待っていることを、彼らはまだ知る由もなかった。
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