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    shibuki_yu

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    shibuki_yu

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    ritkワンドロワンライ 演目:🍫 お借りしました。
    🎈に片思いしている🌟がどうにかしてチョコを渡そうとするおはなし。付き合ってないです。

     ーーこれは、もしかしなくてもまずいかもしれない。
     
     ツヤリと輝くサテンリボンのついた小包をジロリと睨む。二月十四日、世間がバレンタイン一色に染まる中、司もそれに乗じて妹と一緒にチョコレートを準備していた。無論、心に巣食う相手に送る、本命のチョコレートを。
     同級生で、ショーユニットの仲間である、神代類。今思えば、あれは一目惚れだったのかもしれない。彼のショーに目を惹かれて、一緒にやろうと声を掛けた。初めてのショーが失敗に終わった時は、司の失態のせいで、一度離れていってしまったけれど。それでも諦めずに手を伸ばし続けて、また一緒にショーをしたのも、今では良い思い出だ。
     好きになったきっかけと言っても、特別何かあったわけではない。ただ、ショーの打ち合わせのために二人だけで集まったり、実験と称して学校で何かに付き合わされたりと、二人で過ごすことが多かった。その時に、気がついたら目で追っていることが多くて、ふとした瞬間に、好きだなと思った。それだけだった。

     司は、この想いを伝えるつもりは無かった。変に伝えて気まずくなるぐらいなら、これは誰にもバレないように墓場まで持っていこうと、本気で思っていた。そんな矢先に、バレンタインデーだ。普段振り回されているのだから、たまには意趣返しをしても良いだろうと、この日ぐらいなら許されるだろうと、チョコレートを作り始めた。
     それが、まさかこんなことになるとは。簡単に作れるレシピを調べて、その通りに作って、少しだけデコレーションに凝っただけなのに、店頭に並べられていてもおかしくない程の出来になってしまった。仕方がないから、チョコレートに見合うような洒落た小箱に入れて包装してしまえば、とても手作りとは思えないぐらいの見た目になった。
     こんなに綺麗に出来てしまうなんて、自分の才能が恐ろしいな、と思ったのも一瞬で、これを一体どうやって渡そうかと今になって焦り始めた。もう少しだけ、不恰好に作っていれば。そうしたら、友チョコだとか、失敗したとか理由を付けて渡せたのに。これでは、誰がどう見ても本命チョコだとバレてしまう。……類のことが好きだと、バレてしまう。そうしたら、そうしたらーーどうなる?
     根が優しい類のことだ、受け取ってくれるとは思う。ただ、司の想いを知った後で、今の関係が変わらないかといったら、きっと、変わってしまうだろう。そのせいで、ショーに悪影響が出るのなら、これは、渡さないほうがいい。そう思って、勿体無いが処分してしまおうと、チョコレートを手に取った時に、一緒に作った妹の顔が思い浮かんだ。

     ーーだめだ、捨てたことを咲希が知ったら、悲しんでしまう。
     お兄ちゃんは誰に渡すの、と何度も聞かれたけど、秘密だと押し切った。そうしたら、渡した時の感想は絶対に教えてね! なんて花の咲くような笑顔で言われてしまったから、妹のためにも、どうにかして渡さないといけない。それに、渡さずに処分したなんて言ったら、咲希も悲しむし、司の想いを、無かったことにされたような、そんな気になってしまう。
     でも、どうやって渡したら。そう考えた時に、ふと、去年のバレンタインデーの類との会話が頭によぎる。確かあの時、今時下駄箱に入れる人なんているんだね、なんて言って笑っていなかったか。
     丁度いい、その中に紛れ込ませてしまおう。どうせ今年も去年と同様に、下駄箱に溢れかえるぐらいのチョコレートが入っていることだから、その中に匿名のチョコレートがあっても、不審がられるだけで、司からのチョコだなんて、バレやしないはずだ。
     ふっふっふと笑いながら鞄の底にチョコレートを忍ばせて、類が持ち帰る時に困らないように、大きめの紙袋を用意しておけば、準備万端だ。脳内で完璧なシミュレーションを済ませたら、あとは決行の日を待つばかりだ。

    ***


     ーー翌朝。普段と変わらない時間に登校し、目的の場所へ辿り着く。二年B組の、類の下駄箱。唾を一度飲み込んで呼吸を落ち着けてから、周りに誰もいないことを確認して、意を決して類の下駄箱を開けた。
     するとそこには、思っていた通りの数々のチョコレートーーは一切なく、その代わりに、ファンシーなロボットがぎゅうぎゅうに押し込まれていた。
     なぜ、こんなところにロボットが。もしや忘れていったのかとも思ったが、果たしてこんな不自然なところに入れるのだろうか。教師たちに見つかったら、一発で呼び出しをされてしまいそうなのに。
     それにしても、だ。このままの状態だと、チョコレートが入れにくい。せっかく綺麗に出来たのだから、類の手に渡るまでは綺麗なまま留めておきたいのに、これでは形が崩れてしまう。何とか入れようと奮闘するも、ロボットが我が物顔で居座っているせいで、どうすることも出来ない。
     もういっそのこと、ロボットがどこかに落ちていたことにして、下駄箱から取り出してしまおうか。それなら、このチョコレートも入れられるし、たとえ第三者からの物に紛れさせることが出来なくても、匿名だから司からだとバレる心配もない。我ながらいい案だ、早速やってしまおうと、ロボットに手を伸ばしたときに、パタパタと複数人の足音が聞こえた。
     このままここにいたら見つかってしまう。それは非常にまずい。校内では知らない人はいないであろう司が、下駄箱でコソコソ何かをしていた所が見られたら、また変人ワンが変なことをやっていたと、一日中その話で持ちきりになってしまう。もしこれが察しの良い類にバレたら、きっと面倒なことになる。それだけは避けたかった。
     素早く類の下駄箱を閉じて、近づいてきた生徒たちから見えない位置に隠れる。誰にも見つかりたくない、ただ何をしているかは知りたい。そんな思いで、恐る恐る頭を出して覗き込むと、案の定、そこには女生徒たちがいた。そして、近くには、類の下駄箱。もしや、彼女たちも類にチョコを渡したいのか、そう思ったが、女生徒たちは司の予想に反して、二言三言話して立ち去っていく。
     考えすぎだったか、と安堵の息を吐いた時、ポンと肩を叩かれた。驚きのあまり全身を跳ねさせてから、ギギギ……と油の切れたロボットのように振り返ると、思った通り、今一番会いたくない奴がそこにいた。

    「ぎゃ〜〜〜〜〜〜!!」
    「やあ司くん。君は朝から元気そうだね」
    「る、るるる類!! 朝から驚かせるんじゃない!」
    「いやいや、驚いたのは僕もだよ。どうしたんだい、こんなところで小さくなってしまって」
     
     よりにもよって、見られたくない相手に見られてしまうだなんて。一体どこから見られてしまったんだろうかと焦るが、それを悟られないように表情を引き締める。

    「小さいは余計だ! ……女生徒が集まっていたからな、誰かの下駄箱にチョコレートを入れるんじゃないかと思って、隠れていただけだ」
    「ああ、成程。司くんでも、そう言ったことは気にするんだね」
    「だから一言多い! あの場に男がいたら、嫌でも気にしてしまうだろう」

     それもそうだね、と笑い、普通に下駄箱から上履きを取り出して履く類に違和感を覚える。普通に、とは言っても、ロボットがいたから、一度取り出してはいたが。去年は下駄箱にチョコレートなんて、と目を丸くしていたのに、今年は一つも無い。そのことは、類は何も思わないのだろうか。あまりにも自然に教室に向かおうとするから、おい、と思わず突っ込んでしまう。

    「類、お前去年は下駄箱にチョコレートが入っていたのだろう? 今年は無かったのか?」
    「……ああ、多分無いと思うよ。それに、今年は断ることにしたんだ」

     そのためにこの子を入れておいたんだよ、とわざわざロボットを取り出して、眼前に突き出された。数分前に嫌というほど見たそのロボットは、役目を果たせたと言わんばかりに、どこか満足そうに笑っている。それにしても。
     ーーわざわざ、置いていったのか。確かに、忘れたにしては変なところだとは思ったが、まさかチョコレート対策だったとは。しかし、そんなことをされては、正々堂々渡す以外に方法が無くなる。

    「断るって……どういう風の吹き回しだ」
    「別に深い意味はないさ。ただ、好きな人からのチョコだけを受け取りたいなと思ってね」

     耳を疑うような衝撃的な言葉にピシリと固まる司は、じゃあね、と手を振って教室へ向かう類を黙って見送ることしかできなかった。
     類、好きな人がいたのか。それに、あの自信のありそうな顔は、両思いだと確信しているように見える。類が日頃あまりにも司と共にいるから、もしかしたらと、淡い期待を抱くこともあったのに。類と出会ってから、隣を譲ったことは誰にも無かったのに、司じゃない、他の誰かを好きになったのか。
     まるで、告白をする前に、振られた気分だ。朝から沈んだ気分になり、チョコレートの入った鞄を抱えて、重い足取りで教室へ向かう。当然、こんな気分のままでは授業に集中できるはずもなく、昼休みは勿論一人で食べた。約束をしているわけでもないし、別にいいだろうと心の中で言い訳をして、徹底的に類を避けた。
     本当は、このまま授業が終わると同時に帰りたかったのだが、今日はショーの練習がある。いつもだったら、類と寧々と一緒にフェニックスワンダーランドへ向かうが、そんな気分にはなれそうもなかった。せめて、類の顔をなるべく見ずに、一人で行こう。そう思った時、スマホから一件のメッセージ通知が鳴った。

    『ホームルームが終わったら、荷物を持って屋上まで来て』

     何でよりにもよって今なんだと、声に出して叫びたかった。今だけは、類に会いたくない。練習を始めるまでには心の整理をするから、今だけは勘弁してほしい。すまないと心の中で謝罪をして、トーク画面を開かずにスマホをポケットに仕舞った。すると、またメッセージ通知が鳴る。今度は何だと思い、真っ黒の画面をタップすると、ワンダーランズ×ショウタイムのグループトークに、今日は司と所用を済ませてから行くから、練習に少し遅れると類からメッセージが送られていた。
     どうしても、司と話をするつもりなのか、類は。しかし、司は屋上へ行くことを了承していないし、第一あのメッセージに既読を付けていない。素直に屋上へ向かうか、無視をしてそのまま練習へ向かうか。どちらにしようか悩むまでもなく、一人でそのまま向かうことにした。そして、メッセージは見ていなかったと、すまなかったと、誠意を込めて謝ろう。
     ……そうしようと一歩踏み出そうとした時に、えむと寧々から、了承のメッセージが送られてきてしまい、類に会いに行く以外の道が無くなってしまった。肺に溜まっていた重い息を吐いて、類からのメッセージに今から行く、と返答をすると、重い足取りのまま屋上へと歩き始める。
     長いようで短い道のりは、歩いてみるとあっという間で、屋上へと続く階段を登り切ったところで一度深呼吸してから、扉に手を掛けた。何度も開けたことがあるはずの扉なのに、なぜか重く感じたそれは、まるで今の自分の気分を表しているようだった。

    「やあ司くん。待っていたよ」
    「お前なあ……、オレが返事をする前に二人に伝えるんじゃない! オレが見ていなかったらどうするつもりだったんだ」
    「ふむ、それは考えていなかったな。僕の知っている司くんは連絡がマメな人だから、そんなことは起こらないと思っていたよ」

     司の気持ちなど知らずに微笑む類を見て、少しだけ寧々のように悪態を吐きたいと思った。こっちはまだ傷心中だというのに、呑気に微笑んでなんかいられない。さっさと本題を済ませてしまおうと、急かすように口を開く。

    「それで、わざわざ屋上に呼び出した理由はなんだ? まさか、また何か爆発させるんじゃないだろうな」
    「ふふ、それも興味を唆られるけど、違うよ。ちょっと司くんに話があってね」
    「ん……? オレに話をするだけなら、尚更ここじゃなくてもいいだろう」
    「君が聞かれてもいいなら僕はどこだって構わないけど、きっと人がいない所の方がいいと思ったんだ」
    「……そうか。ならば、もう話してもいいんじゃないか? どうせここに人は来ないだろう」

     平然とした様子でとんでもない発言をしているのだが、果たして気づいているのだろうか。それに、人がいないところでしか話せないようなことは、司には思い当たらない。事あるごとに類の実験に巻き込まれているせいで、変人ワンツーフィニッシュなんて不名誉な通り名を付けられているから、変な会話をしていても今更だろう。

    「それもそうだね。……ねえ司くん、どうして今日はお昼を一緒に食べてくれなかったんだい?」
    「……ああ、なんだ、その事か。別に特に理由は無い。今日は一人で食べたい気分だったんだ。別にお前と約束をしていたわけでもなかったしな」

     どうしたもこうしたも、朝の類の言動のせいだ。あんな自身有り気な表情で、好きな人からのチョコを待っているだなんて、遠回しに両思いの相手がいると言われたみたいだった。類と出会ってから、司は隣の座を譲ったことなどなかったのに。それなのに、どこの誰かも分からないような人に、その座を奪おうとされている。

    「そうだね、約束はしていない。でも暗黙の了解で、昼休みは屋上で集まってショーの話をしていただろう? それが今日は無かった」
    「だから、その気分じゃなかったんだ。元からオレは一人ランチ派だしな」
    「そうかもしれないけど、それならそうと、君は連絡をするだろう?」

     核心をつかない話し方に、眉間に皺を寄せる。実は類に想いを寄せていたが、勝手に振られた気分になってしまった、なんて言えるはずもなく、それらしい嘘を吐いたのに、追求の手を止めてはくれない。いつもは類が司の手から、のらりくらりと躱すことが多いのに、これはあまりに理不尽では無いだろうか。

    「だからね、屋上に来なかった理由を僕なりに考えたんだ。昨日の君は普段と変わりなかったから、何かあったとしたら今朝だ」
    「……何が言いたい」
    「僕よりも早く来る君が、僕が登校する時間になっても下駄箱にいた。そして、誰かがチョコを入れるかもしれないから隠れていた、と言っていたけれど……。隠れる前に、君は何かしようとしていたんじゃないかい?」
    「なっ……」

     ーー類の良く回る頭を、今ほど恨んだことはない。朝の些細なやり取りの一つ、たったそれだけで、ここまで導き出されてしまった。図星を突かれて思わず漏らしてしまった声を、類は聞き逃してくれなかった。

    「ふふふ、その反応、もしかしなくても当たりかな? 何をしようとしていたのか、教えてくれないかい?」
    「それは……。そ、れは……」

     このままでは、類に知られてしまう。伝える気など、これっぽっちも無かったはずなのに、この想いは誰にも見つからないように大切に胸にしまって、墓まで持っていこうとしていたはずなのに。
     何か、ないだろうか。バレない方法は。肩からずり落ち掛けていた鞄を抱え直すと、チョコレート以外に入れていたもう一つの存在を思い出す。どうか、これで騙されてくれないだろうかと、鞄から紙袋を取り出して、類の顔を見ずに渡した。

    「……女生徒から隠れていたのは本当だ。それと、去年は困っていたから、今年はお前が困らないようにと、紙袋を持ってきたんだ。……まあ、それも意味が無かったんだがな」
    「うん、今年は好きな人以外からは受け取らないことにしたからね」
    「何で急に……。お前に渡したいやつだっていただろうに」
    「何人かからは渡されそうになったから、きちんとお断りをしたよ。それに、あまり誠実じゃ無いかなと思ってね」

     下駄箱に例のロボットが占領していたせいで、チョコレートを入れられなかったのに、それでも渡したいと諦めなかった生徒たちからのチョコレートも頑なに受け取ろうとしないのは、その好きな人のためなのだろうか。そんな事をしたら、渡したかったはずの人は、笑顔ではなくなってしまうのでは? 

    「……いや、人からの好意を無下にする方が不誠実じゃないか?」
    「そうかい? バレンタインデーにチョコレートを受け取ることって、好意を受け取っているようなものだろう?」
    「まあ、そのためのようなものだからな……」
    「だろう? 好きな人がいるのに、その人以外の好意を受け取ることは、したくないなと思ったんだ。好意に応えられないのにチョコレートを受け取ってしまったら、渡してくれた人にも、不誠実になるからね」

     向けられた好意すらも断るなんて、笑顔が好きな類らしくないと思ったが、今の言い分を聞いて納得した。これを説明されたら、泣いて帰る人は、きっと一人もいないだろう。むしろ、相手からの好感度が高くなってしまうのではないかと、危機感を覚えたぐらいだ。

    「なるほど、お前の言いたいことは理解した。……それで、話は終わりか? それなら早く行くぞ、えむと寧々が待っている」
    「いや、まだだよ。むしろここからが本命だ」
    「は……? ならば手短に頼む。ここは寒いからな」

     雪が降っていないとはいえ、寒いものは寒い。冷たい風から身を守るように肩をすぼめると、なぜか類が小さく笑う。なんだ、そう言おうと口を開いた時、唇に人差し指を当てられて、耳へ触れるように囁いた。


    「ねえ司くん。ーー僕に渡すもの、まだ持っているだろう?」


     鋭く細められたトパーズが、ぴたりと司を捕らえて離さない。
     類が何を言っているのか、分からなかった。……いや、理解したくなかった。類に渡すものなんて、もう一つしか残っていなかったから。  

    「……は、なに、言って」
    「僕の思い違いでなければ、その鞄の中に入ってると思うんだよね」
    「な、にが」
    「入っているんだよね? ……僕宛のチョコ」

     一歩ずつ、ゆっくりと類が近づいてくる。後ずさることは容易なはずなのに、床に縫いとめられたかのように動けない。

    「僕、幼い頃から人付き合いがあまり無かったせいか、人よりも視線には敏感な方だと自負しているんだ」
    「いきなり、何の話だ」
    「実はね、君から向けられる視線には、気づいていたんだ。その視線に他の人とは違う熱が篭っていたのも、ね?」
    「な……」

     嘘だろうと、まるで鈍器で頭を殴られたような衝撃が走る。類を見ていたことがバレていた。それに、その視線が特別なものだと気がついていた、だなんて。意図的に見つめていても、普段と何も変わらなかったから、気づかれていないものだと思っていた。……いや、気が付いていたけど何もしなかったのは、完全に脈無しという事だろう。

    「……最初はね、僕にはその熱は勿体無いと思っていたんだ。もっと他に向けるべき相手がいるだろうって」
    「そんな、ことは……」
    「だからね、距離を取ろうと思ったんだ。……でも、出来なかった。君の隣は、あまりにも居心地がいいから、他の誰にも譲りたく無いって思ってしまったんだ」
    「…………類……」

     他の誰にも譲りたくない、それは司も同じ気持ちだ。あの日、類のショーを一目見た時から、ずっと類を目で追いかけていた。それに気がつくまでに時間がかかったけれど、誰よりも類のことを想っている自信があるし、隣に相応しいのは司だと、胸を張って言える。

    「ねえ、良かったら貰えないかな? 君の想いを」
    「……好きな人以外のチョコレートは、受け取らないんじゃ無かったのか」
    「うん、そうだよ。だから待っているんだ。君が僕に渡してくれるのを」

     司くん、と甘い声で呼ばれて、手を取られる。この想いは、伝える気は無かった。けれど、ここまでされてしまったら、もうお手上げだ。赤くなった顔を、もう片方の手で覆いながら、大きく息を吐いて座り込む。ゴソゴソと鞄を探ってチョコレートを取り出すと、司に合わせて屈んだ類の目の前に差し出した。

    「……ほら、お望みのものだ。スターの手作りだからな、味わって食べるがいい」
    「ありがとう、司くん。大切にいただくよ。……早速だけど、お返しは何がいいかな?」
    「む、気が早いな。でも、そうだな……」

     誰にも聞かれないように、静かに耳打ちをする。その内容が予想外だったのか、口元を綻ばせた類につられて司も笑い、どちらからともなく、コツリと額を合わせた。二人の視線が甘く絡んで、やがてその影は重なり合う。お互いの愛を確かめるように、何度でも。

     唇からじわりと伝わる熱が、身体中に広がっていく。うっとりと蕩けるようなキスは、まるで甘いチョコレートのようだった。
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    3iiRo27

    DONEritk版深夜の60分一発勝負
    第二十五回 お題:「身長差」「紙飛行機」
    司視点 両想い
    30分オーバーしました
    それは、ある日の練習終わりのことだった。


    練習終わりに昔何をして遊んでいたのか話していて。
    その時に、今の紙飛行機は折り方さえしっかり学んでいれば、とても遠くまで飛ばせるということを教えてもらって。



    えむがあまりにもわくわくしながら聞いているもんだから、折角だし皆で作って飛ばしてみよう、なんて話になって。

    皆で一斉に飛ばして飛距離を楽しんだり、折る動画を見てた類がこうすれば更に飛べるんじゃないかとかって言い出したり。

    皆で折り方を変えてみて。でも紙を無駄にはできないから、同じ紙を広げて元に戻してからまた折って。
    折っては飛ばし。折っては飛ばし。

    そんな、類がよくやるような実験を、皆で楽しんでいた。
    その時だった。





    「司くーん!変なとこ行きそうな子、捕まえてー!」
    「ん?…おお、あれか!わかった!」

    ちょうど自分の紙飛行機を拾った時、えむに呼ばれてその方を向くと、客席から逸れて林の中に突入しそうな紙飛行機が少し手前を飛んでいた。

    同じ紙を使っていることもあり、あまり傷つけてしまうと飛ばせなくなってしまう。
    実際遊びすぎて、ダメになってしまった紙飛行機は何体か 3624