温かな飲み物と唇と 寒さも増していく十一月。ふと寒さと口寂しくなったロイドは何か温かい物を飲もうかと自室から一階へ降りてキッチンへと向かう。少し甘くするかと棚に置いてあったココアパウダーと砂糖を取ったのだった。
「ん、なんか甘い匂いすんな?」
軽く飲んだ帰り、裏口から帰ってきたランディは一階から漂う匂いに釣られて階段を降りる。すると小さく漏れるキッチンの光と、そこから感じる人の気配がある。
(まさか、久々の夜食か?)
そう思いながら覗くと、マグカップにココアを注ぐロイドの姿があった。すると彼はランディの気配に気付いたのか、振り向くと近寄ってくる。
「あ、ランディ。帰ってたのか」
「おう。しっかし今日はさみぃな」
ロイドが彼の頬に触るとひんやりと冷たい感触が伝わってくる。少し考えた後にあとで部屋に持ってくから待っててと言うと棚を見渡し始めた。
「やれやれ、お言葉に甘えて待ってるとするかね」
ランディはそんなロイドの後ろ姿を見ながら自分の部屋へと戻った。
「ランディならやっぱりホットワインだよな」
買っておいた赤ワインにレモンとオレンジ、そしてシナモンとクローブを取る。まずは果物類をスライスしてスパイスと砂糖、水と共に火にかけ煮立たせる。ニ、三分煮た後に赤ワインを加えて温めるというシンプルなものだ。
「これで良し。持っていくか」
少しでも温まればいいのだが。そう思いながらロイドは少し温くなったココアと共にランディの部屋へと向かうのだった。
「ランディ、入るよ」
そんな声が聞こえて扉を開けると、マグカップと耐熱のグラスを持ったロイドがいた。ランディはすぐに部屋へ入れるともう一つの匂いに気付く。ココア特有の甘さとは別の、香辛料の匂い。グラスの中身を見るとそこにあったのはシナモンスティックとレモン、オレンジのスライスが入った赤ワイン。ああ、成る程と思うと同時にそんなロイドの気遣いに胸が温かくなるような心地がした。
「ホットワインか」
「ああ、そうだよ。ランディならココアよりもこっちの方が飲みやすいかと思って」
グラスを受け取ったランディはふとマグカップの方を見る。先程は出来立てだったココアの湯気が心なしか減っている気がしたからだ。自分の分を飲んでからでも良かっただろうに、そう思いながらもきっと断固として譲らなかっただろう事も想像できる。
「ちょっとは温まったか?」
「ああ、大分な。ロイドこそ、ココアは温くなかったか?」
「ちょうどいいくらいだったよ」
それでも夜のキッチンは冷えただろうに、恐らくは火の近くにいたからそうでもないとでもいうのだろう。その姿が愛しくて、そしてもう少し自分も労って欲しいと思うのだ。ランディは一口ホットワインを口に含むと強引にロイドの頬を固定して引き寄せそのままキスをする。シナモンとワインの味が口の中に広がり、コクリとロイドが飲み干したところでそのままランディの舌がロイドの口の中を蹂躙した。
「ふ、ぁ……んッ……」
ふと我に返ってランディが口を離す。するとロイドが顔を真っ赤にして涙目になりながら彼を見つめていた。しまった、とランディは思う。ずっと内に秘めておく筈だったのに、こうして行動に出てしまった。悪い、そう言おうとしたが、ロイドはそもそも状況を飲み込めてすらいないようだった。
「ランディ、どうして」
「悪い、気持ち悪かったよな。忘れて」
「違う!嫌じゃなかったんだ、凄くドキドキして心臓、爆発するんじゃないかって」
そう訴えてくる姿は非常に可愛らしい。この反応ではもしや自分の気持ちにさえ気付いてないのでは、そう思ったランディはそのままロイドの言葉を待つ。
「嬉しかったんだ、こんな風になるのもランディが初めてでどうしてか分からないし、どうしたらいいのかも」
分からないんだ、その言葉よりも先にロイドの唇をランディの唇が塞いでいた。
「ったく、可愛すぎかっての」
そう言うところも好きなのは惚れた弱みか、ランディはそう思いながらもロイドの唇を堪能する。
「ランディは、嫌じゃないか?俺は男だし、柔らかさも可愛さもないよ」
まさか酔って、その言葉が出かかった時にランディは首を横に振った。
「好きだぜ、ロイド。お前も俺が好きかはわかんねえけど」
ロイドはその言葉で初めて自分の気持ちが腑に落ちたような気分であった。
【終】