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    さらさ

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    さらさ

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    遅刻大魔王によるすったもんだクロリンがバレンタインデーにくっついて分校全体に知られるまで。ポイピク練習も兼ねてる

    #クロリン
    chlorin

    舌先の魅惑


    「え、え~!?クロウくんにチョコレートあげてないの!?」

     トワの素っ頓狂な声が、第Ⅱ分校の食堂に響き渡った。七耀歴1208年、2月。もうすぐバレンタインデーだ、食堂やら寮のキッチンを貸し切っての菓子作りに女子生徒たちが浮足立っている。去年の同時期と言えばクロスベル解放作戦当日だ、直接参加した訳ではないとは言えど親しみある教官と生徒が参加するともなればムードもそれどころではなかった。実質、今年が初めてのトールズ第Ⅱ分校バレンタインデーである。男子生徒も一部落ち着かない様子ではあるが、それも今更と言ってしまえばそれまでなのだが。ともあれ、青春では割とお約束のイベントが差し迫ったことを踏まえ、生徒たちの押しに負けて食堂にやってきたリィンなのだが。

    「えっと、俺はクロウとは何もないですしチョコレートもあげてませんよ?」

    という言葉で冒頭に戻る。指し手であるミュゼでさえ予想外だったその回答に、誰もが頭を抱えた。この朴念仁め、は共通の認識であるが故に誰も口には出さないが。

    「で、でもでも!リィン教官はクロウさんのこととても好きですよね!?」

    ここでもユウナから容赦ない一言が飛んでくる。それについては彼も否定するつもりもない。まあ、肯定もしないのだが。というよりも、この気持ちが果たして好きと呼んでいいものなのか分からないのが本音だ。

    「いや、でも男からの貰い物だぞ、明らかに落胆されないか?」
    「あの距離感見せつけられて流石にその言葉には納得いきませんが……」

    アルティナはそっとため息をつく。かつて内戦の折、パンタグリュエルに招待されたリィンを一番気にかけていたのは間違いなくクロウという男だった。フェイクという建前は一体どこに置いてきたんだという話にもなってしまいそうだが。

    「とにかく!受け取って貰えるかは別にして、手が足りないので手伝ってくれると嬉しいんですけど」
    「ああ、そういう事なら勿論喜んで手伝うさ」

    この教官は、とにかく生徒の押しに弱い。ユウナの誘いに乗るならばここからはミュゼの領分だ。如何にしてリィン・シュバルツァーにクロウ・アームブラストへの贈り物を作らせるか。彼女たちの戦いは影でひっそりと火蓋が切って落とされた。

    「結局俺も作ることになってないか?」
    「いいじゃないですか!バレンタインデーにはクロウさんもこっちに顔を出すんですよね?」
    「ああ、どう言う理由かは知らないがな」

    それはリィンのチョコを期待してのことだという言葉を誰も口にしなかったのは正直称賛に値する、とトワは思う。否、もう周知の事実であるが故に誰も口にするような愚かな真似をしないというだけなのだが。

    「ラッピング手伝うよ?ほらほら、リィンくん選んで!」

    箱に綺麗に詰められたトリュフに空と海の境界を思わせる蒼のラッピングペーパーで包んでいる時点で答えは明白なのに、彼自身全く気付かないのだから困り者だ。これは、クロウの根気が試される所だろうか。

    「うん、綺麗にできたね。クロウくんもきっと喜ぶよ!」
    「いや、なんでクロウに渡す前提になっているんですか……?」

    この状態では、世も末である。


     2月14日、バレンタインデー。日が落ち、空も暗くなり始めた頃にクロウは第Ⅱ分校に顔を出した。と言っても元より用は分校長であるオーレリアにであるし教官室に顔を出せるのはその後である。といっても大人しくそこにいるとも限らないのだが。

    「そうか、やはりこの日に顔を出したか」
    「顔を出せっつったのはそっちだろうが」

    これも指し手と目の前にいる女傑の掌の上かと思うと少しだけ面白くないのだが、態々そうしたという事は期待してもいいのではないだろうか。

    「先日、食堂でシュバルツァーがハーシェルたちに巻き込まれているのを目撃してな」
    「……あの嬢ちゃんの仕業か。ったく、誰に似たんだか」

    クロウはため息をつけど、どうやら満更でもないらしい。否、そもそも貰えないとしても彼からは何か渡すのだろうが。

    「世の中には当たって砕けろという言葉があるくらいだ。精々意識させるがいい」
    「砕ける事とリィンに気付かれないことを前提に言うのはやめて貰えねぇか?」

    どうも勝てる気がしない、この《黄金の羅刹》と呼ばれる彼女には。ともあれ目的は達した、これ以上長居する必要もないだろうと分校長室を出る。あとは校内を動き回っているであろうリィンをどの程度で捕まえることができるか、それが問題であった。

    「あ、クロウさん!リィン教官にはもう会われましたか?」

    卒業を控えた新Ⅶ組のメンバーがクロウを見かけて声を掛けてくる。彼らもリィンの人となりをよく理解しているし、ひょっとしたら行先も知っているかもしれない。

    「あー、まだだわ。行先知らねぇか?」
    「教官室だと思います。クロウさんがいつ来てもいいように」

    成程、とクルトの言葉に頷いた。確かに校内を回っていて行き違いになるなんてことはザラにあるし、そのせいで会えなかったという事も少なくはない。クロウは大陸に股を掛けた情報収集をしているし、リィンは教官という職を続けているとはいえお人好しの所は未だ健在だ。誰かが困っていると放っておけないのも今に始まった話ではない。

    「わりぃ、ありがとな。そんじゃあ卒業までお前らも頑張れよ」

    卒業していない自分が言えた事ではないがという言葉は飲み込んで、クロウは教官室に足を向ける。ポケットに入れた掌で収まる小箱をそっと撫でながら心を落ち着けた。これをどうしても、リィンに渡したい。黄昏が終焉を迎えて一年と少し。大陸各地を回って自分探しを続けて、自分がどうあるべきかをずっと考え続けていた。そうして先延ばしにしてきたのだ、学院にいた頃からリィンが好きだったという事実を認めるのを。しかし、二度に渡る『12月31日』を経て理解してしまったのだ。お互いに必要な存在であることを。不安定な彼を支える存在でいたいと願う自分がいた事を。そして気付けばバリアハートで職人に指輪の作成を依頼していたのだが、十分それに足りえる出来事だったのだ。

    「失礼するぜ」
    「入ってからノックするのはやめてくれないか」

    机に向かって書き物をしているリィンが溜め息をついてゆっくり振り返る。困ったように笑った彼はおかえり、と言ってくれる。それが何よりの楽しみで、癒しだった。

    「おう、戻ったぜ。つっても俺ここに住居持ってる訳じゃないんだが?」
    「え、だってクロウは俺の所に帰って来てくれているんじゃないのか?」

    違うのか、と言われると正解のど真ん中を突き抜けているが故に反論できない。一度失われた命は確かに帰る場所を失っていた。そして必要だと言ってくれたリィン。そうもされてしまえば、帰る場所が《リィン・シュバルツァー》となるのは必然だった。

    「そうだ、クロウ。チョコレート作りの手伝いをしていて俺も作ることになったんだ。クロウにあげるよ」
    「は~~~~~。この朴念仁はよぉ」

    どうせ義理だ、それはクロウもよく分かっている。だが不意打ちをされて平静いられるほど彼もできた人間ではなかった。

    「これは義理か?本命か?」
    「うーん、世に言う友チョコというものが義理なのであれば義理になるかな?」
    「へぇ、じゃあそんなリィンに俺からプレゼント」

    ポケットから取り出した小さな箱を、クロウはリィンの掌に乗せた。サイズに既視感があった彼はまさかと箱を開けた。曇りない銀色の指輪、それが藍色の箱の真ん中で光を受けて輝いていた。これではまるで。

    「クロウは、その。俺の事がこういう意味で好きなのか?」
    「おう、それこそトールズにいた頃からな」

    捨てなくてはならなかった恋心を、この歳になって拾う事になるとは思わなかったがとクロウは苦笑する。勿論、逃がすつもりもない。帰る場所は今ここにしかないのだから。

    「すまない、その……。俺も好きかもしれない。ただ確証がなくて」
    「ふぅん、じゃあ試してみるか」

    何を、とリィンに言わせる前にクロウは己の唇を彼のそれに重ねる。下唇を軽く舐めてやるとそれに驚いたのか、ほんの少しだけ結ばれた唇が開かれる。そこからゆっくりと舌を侵入させてリィンのを絡めとっては吸い上げる。ひくりと反応して見せるが、抵抗らしい抵抗は一切見えない。クロウが唇をそっと離すと、互いの下に結ばれた透明の糸が引かれる。なんの抵抗もなく、ただ茫然と受け入れた彼の表情は煽情的だった。

    「どうだ、嫌だったか?」
    「ううん、全く。それどころかもっと欲しくなってしまったかも、しれない」

    クロウは分かっている、これは無自覚な上に成り立っている事であると。それでも少し耐えるには彼の理性は忍びなさすぎる。先ほどの感触と、舌先から感じさせる情はどうも頭から離れそうにない。

    「意味ちゃんと分って言ってるか?」
    「えっと、そういう事をするって意味だよな……?クロウにならいいと思っているよ」

    こうも何度も煽られて黙っていられるほど、クロウも廃れてはいない。

    「クロウ、好きだよ。やっと分かった。全て受け入れたいと思える程俺はお前の事が好きだよ」

    そう言って微笑まれてしまえば限界を迎えている理性も更に繋ぎ止める必要がある。ふと目の前の机に目が行く。封筒にはクロウの名前が書かれており、手に取って封を切る。中に入っていた便箋にはこう書かれていた。『明日も授業があるから手出しも程々に!』――ようは明日に支障が出なければいいという事か。お膳立てもここまで露骨にされれば彼も後には引けない。ARCUSを取り出してその手紙の主に連絡する。もうこれは外泊許可が出ているということでいいのか、と。すると、彼女はこう返してきた。

    「出てるも何も、何が何でもクロウくんの所に向かわせて帰ってくるなって言うつもりだったから問題ないよ」

    ――お膳立てどころか最早世話焼きではないだろうか、クロウは頭を抱えた。ともあれ、このままお持ち帰りをしていいという許可は得た。今夜は程々にであれば楽しんでもいいらしい。

    「リィン、そいつは急ぎの仕事か?」
    「いや、今週中でいいって言われたけど……」
    「んじゃ、切り上げて帰ろうぜ。そんでもって、俺がどれだけお前が好きかを教えてやるよ」

    耳元で少し熱を含ませて囁けば、リィンの顔はたちまち赤くなる。恥ずかしさの余り、彼は鳩尾めがけて拳を入れてしまったが。そうして彼らは宿の一室へと消えていった。翌日不自然に腰を庇うリィンに分校にいる全員が昨晩に何があったかを察し食堂で赤飯を炊き始めて彼を卒倒させてしまった事を、クロウは知る由もなかった。――知られるのも、時間の問題だが。

    END
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    さらさ

    CAN’T MAKE多分もう書かないと思われるオメガバースランロイの序章を見つけたので私のメンタル維持のためにあげておく

    バース性関係なく一緒にいたいαランディといつか来るだろう未来に諦めを抱いているβロイド


    このあとロイドくんがΩになっちゃっててんやわんやするんだろうなぁと思いつつも断念
     ずっと、思っている事がある。もしも自分がΩだったなら、この不毛な関係にも意味を持たせられたのではないかと。Ωとは第二の性にして産みの性。男女問わず妊娠し、出産する事が出来るのだ。そして対になる性、αと番関係を持つ事が出来る。俺には恋人がいる。ごく一般であるβの俺とは違う、約束された相手がいるはずのαの男だ。俺の心にどうしても惹かれたのだと言われるものの、俺には分かる。この関係にいつか終わりが来る事を。惹かれあう番に、俺が敵う筈もない。もし俺がΩだったとして、番になれるのなら。そんな叶いもしない願いを抱きながらいつか来る終わりに怯えながら今日も一日過ごすのだ。

     ずっと思っている事がある。もしも俺がβだったなら、愛している相手をこんなにも不安にさせなくていいのかと。言葉にはしてこないが、ずっと不安そうにしている事は気付いていた。恐らくそれは、俺の性に関係がある事だろう。俺が惹かれた相手はβだった。βというのは良くも悪くも普通で、実質第二の性がないようなものである。αやΩとは対極にいるような存在で、自分の意思で相手が決められる。俺達は結局フェロモンの匂いに充てられればいとも簡単に相手を変えてしまえるような最低な性だ、そんな相手と付き合っていられる精神性に最早脱帽だった。いつか運命やΩの匂いに充てられて今の恋人を捨ててしまったら。きっと俺は自分自身を殺したい程憎むだろう。仕方ないって笑うあいつの姿が目に浮かぶ。諦念を抱かせる位ならいっそ俺がβになるかあいつがΩになればいいのに。そんな叶いもしない願いを抱いて今日も一日人知れず怯えるあいつの背に歯噛みしながら過ごすのだ。
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    「えっと、俺はクロウとは何もないですしチョコレートもあげてませんよ?」

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    「で、でもでも!リィン教官はクロウさんのこととても好きですよね!?」

    ここでもユウナから容赦ない一 4406

    さらさ

    MOURNINGフォロワーさんのネタをサルベージした一品。二パターンのうちの一個。曰くフォロワーさん的にはこっちがお望みだったようなのでこちらを先にアップ。
    でも本当に様になるねこの男は。

    尚そんなに活躍していない偽名は、私の趣味です(特にローデリヒ)
    踊ってください、愛し君「あれが例のターゲットか」
    「そうみたいだな。さぁて、どうしてやろうか」

     帝国のとある貴族邸にて。一時期帝国とクロスベルを行き来していた偽ブランド商がこの屋敷にて開かれる夜会に紛れてどうやら密談を行うらしい。そこでクロウとリィンには穏便な形での取り押さえるという依頼が舞い込んできたのである。相談した結果、ターゲットが女性である事とクロウ曰く二人そろって見目もいい事から凝った変装は必要ないだろうという事になった。ただリィンの場合は顔と名前を知られすぎているので、一工夫必要だとクロウの手によって好き勝手され。ラウラやユーシス、時間が出来たからと顔を出したミュゼの審査を受けてようやく目的地に辿り着いたのだが。如何せん、そこまでの振り回されたこともあって少々疲弊していた。潜入捜査に男二人は流石に目立たないだろうかとは思ったものの、その手のプロから珍しい事ではないとのアドバイスをもらったので女装させられるよりはましかと腹を括った。
    1996

    さらさ

    MOURNING閃Ⅰでの8月の自由行動日、例のイベントで香水の匂いが移ってしまった後の話
    無自覚だった恋心を自覚してしまうクロ→(←)リン

    いつか続きは書きたい
    『ラベンダーの誘い』

     その日の夜、話題になったのはリィンがどこかの女性に迫られて香水の移り香をつけて帰ってきたという事だ。発端は委員長ちゃんだったが、それは瞬く間に第三学生寮へと広まっていった。女性陣から詰め寄られているのを遠目に、匂いはラベンダーだったと聞いたことを思い出す。この近郊で、ラベンダー。そして今日は日曜日。そのピースが揃ってしまうと嫌でもあの魔女の姿を思い出す。全く、純朴な青年に一体何をしているのやら。からかいついでにリィンに近付いてみれば、確かに思い浮かべた人物が使っている香水と同じ匂い。曰く、彼女の使う香水のラベンダーは特殊なものだそうで。俺で遊んでいるというのを嫌でも分かってしまう。

    「いやぁ、まさかリィンがそんな風に迫られちまうとはなぁ」
    「だから違うって言ってるじゃないですか」

    正直、腹が立つ。その反応さえも面白がられているのだから、余計に。そこでふと、どうして自分が腹立たしく思ったのかを考えてしまった。ただの後輩、今はクラスメイト。お人好しで他人優先、自由行動日や放課後に何もしない彼を見たことはない。危ういバランスの上で成り立ついたいけな青少年、それだ 904

    さらさ

    SPUR ME12月12日に出す予定の展示品を尻叩きとサンプルを兼ねて一章丸々アップ。こんな感じのクロリンの話が五感分連続していく感じです。シリアスが続きますがハピエン(にしてみせる!)

    ちなみにタイトルは全て「五感に関する部位のことわざ」を当てはめています。変わるかも。
    医者と味噌は古いほどよい リィンは《黒の工房》から救出されて以来、違和感に気付いた。《巨イナル黄昏》より前に感じ取れていた味が、分からなくなっていたのだ。一か月近く食事をしていなかったこともあり気付かなかったが、しばらく食べているうちにようやくその違和感に辿り着いた。原因は分からないが、相克に向かうこの状況で他の心配事を出来ればリィンは作りたくなかった。だから、黙っている事にした。――目に見えて減っている食事量を前に、既に全員が気が付いているだなんて思わないまま。

    「そういうワケでクロウ、よろしく」
    「いや待て、どうしてそうなる」

    セリーヌとデュバリィに足止めさせて始まる新旧Ⅶ組大会議。答えは出ているも同然だったが、それでも認識の擦り合わせが必要だと集まったのだが。驚く程分かりやすいリィンの事だ、擦り合わせる間でもなかったが。それが分かれば押し付ける先は一つしかない。フィーの直球な言葉にクロウは予想もしていなかった為狼狽えた。リィンは無自覚ではあるが彼に甘える。そしてクロウは彼が甘えてくる自覚はあれど甘えさせているという自覚はなかった。何も自分に持ってくることはないだろうに、それがクロウの言い分だがそれに呆れている様子もまた感じ取っている事もあって困っている。
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     トワの素っ頓狂な声が、第Ⅱ分校の食堂に響き渡った。七耀歴1208年、2月。もうすぐバレンタインデーだ、食堂やら寮のキッチンを貸し切っての菓子作りに女子生徒たちが浮足立っている。去年の同時期と言えばクロスベル解放作戦当日だ、直接参加した訳ではないとは言えど親しみある教官と生徒が参加するともなればムードもそれどころではなかった。実質、今年が初めてのトールズ第Ⅱ分校バレンタインデーである。男子生徒も一部落ち着かない様子ではあるが、それも今更と言ってしまえばそれまでなのだが。ともあれ、青春では割とお約束のイベントが差し迫ったことを踏まえ、生徒たちの押しに負けて食堂にやってきたリィンなのだが。

    「えっと、俺はクロウとは何もないですしチョコレートもあげてませんよ?」

    という言葉で冒頭に戻る。指し手であるミュゼでさえ予想外だったその回答に、誰もが頭を抱えた。この朴念仁め、は共通の認識であるが故に誰も口には出さないが。

    「で、でもでも!リィン教官はクロウさんのこととても好きですよね!?」

    ここでもユウナから容赦ない一 4406

    さらさ

    MOURNING『瞳の交換』

    Q.何日遅れましたか?
    A.三日です(大遅刻)
    バレンタインデーの続編のつもりで書いたクロリン。ホワイトデーの昼から夜にかけた二人の話。
    「よっす、トワ。リィンいるか?」

     三月十四日、世間ではホワイトデーと呼ばれる日。バレンタインデーのお返しをする日と言われる今日は、当然のごとくクロウは先月から晴れてお付き合いを始めた恋人の所に顔を出す――つもりでいた。しかし、尋ね人はどうやら不在らしく。

    「今日は自由行動日だし買いたいものがあるからって、帝都に行ったみたいだよ。珍しいよねぇ」

    トワの言葉にクロウは同意する。何せ、自由行動日ともなれば率先して依頼を引き受けては忙しなく動く性分なのだから。だからこそ、これは珍しい。

    「今日はホワイトデーだし、クロウ君が来るのは予想してると思うけど……。先月の事、まだ気にしてるのかなぁ?」
    「ああ、あの赤飯事件な……」

    東方に伝わるという不思議な風習に倣って、勘のいい生徒の一部が赤飯を炊いた事件があった。勿論、ある程度東方由来の文化に通じている当事者がその意味を知らない筈もなく。その場で倒れてしまい大騒ぎになってしまった。分校中に広まってしまったそれは彼にとっては勿論羞恥以外何もなく。主導者が彼の教え子だった事もあり、新Ⅶ組を中心にその話題は御法度となった。ただ、そうなる前にクロ 3650

    さらさ

    MOURNING「何かあって不機嫌そうなクロリンが戦闘では息ピッタリな話」の続き。やっとくっつきます。
    付き合ってないのに痴話喧嘩は犬も食わない リィンとクロウの不仲騒動から数時間。第五階層の最奥まで回って《円庭》に戻ってきた面々は二人を除いて疲れ切った表情をしていた。余りにも不毛な痴話喧嘩、それでいて付き合っていないというのだから手に負えない。瞬く間にそれは広がり、新旧Ⅶ組は総出で溜息をつき、他の面々も事情を察したように苦笑いをしていた。一部生温かい目で見る者もいたようだが。

    「全く、本当にいいのかい?リィン君だって同じ気持ちを持っているのだろう?」
    「……あいつには悪いが、応えられるほど真っ直ぐじゃねぇんだ」

    テーブルを囲って、かつて試験班だった面々がクロウに詰め寄る。アンゼリカの言葉に彼は首を振った後、真剣に迫ってきたリィンの事を思い出す。構えば構う程、愛情と執着心そして独占欲が生まれ、その度にクロウは己を律してきた。果たしてそれは必要か、と。必要であるならばいくらでも利用できる。だと言うのに彼の場合はどうだ、根も真っ直ぐでたくさんの人から慕われている。そんな彼を利用するだなんて出来ないし、したくもなかった、これはフェイクでも何でもない本音であった。未だに《C》だったころの話も出してネタにするのは正直言ってやめて欲しいのだが。
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    さらさ

    SPUR ME12月12日に出す予定の展示品を尻叩きとサンプルを兼ねて一章丸々アップ。こんな感じのクロリンの話が五感分連続していく感じです。シリアスが続きますがハピエン(にしてみせる!)

    ちなみにタイトルは全て「五感に関する部位のことわざ」を当てはめています。変わるかも。
    医者と味噌は古いほどよい リィンは《黒の工房》から救出されて以来、違和感に気付いた。《巨イナル黄昏》より前に感じ取れていた味が、分からなくなっていたのだ。一か月近く食事をしていなかったこともあり気付かなかったが、しばらく食べているうちにようやくその違和感に辿り着いた。原因は分からないが、相克に向かうこの状況で他の心配事を出来ればリィンは作りたくなかった。だから、黙っている事にした。――目に見えて減っている食事量を前に、既に全員が気が付いているだなんて思わないまま。

    「そういうワケでクロウ、よろしく」
    「いや待て、どうしてそうなる」

    セリーヌとデュバリィに足止めさせて始まる新旧Ⅶ組大会議。答えは出ているも同然だったが、それでも認識の擦り合わせが必要だと集まったのだが。驚く程分かりやすいリィンの事だ、擦り合わせる間でもなかったが。それが分かれば押し付ける先は一つしかない。フィーの直球な言葉にクロウは予想もしていなかった為狼狽えた。リィンは無自覚ではあるが彼に甘える。そしてクロウは彼が甘えてくる自覚はあれど甘えさせているという自覚はなかった。何も自分に持ってくることはないだろうに、それがクロウの言い分だがそれに呆れている様子もまた感じ取っている事もあって困っている。
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    さらさ

    DONEクロリンwebオンリーのエア小話より「内容指定無しの更紗が書いたクロリン」です。
    12月に不安定になっちゃうリィンが今年はしっかりしなきゃと思いながらクロウにメールすることから始まるシリアスクロリン。



    ランディが出てくるのは私の趣味です(書き分け難しかったけど楽しかった)
    慣れぬくらいならその腕に ――冬、か。リィンは仕事が一段落した寮のベッドで、バタリと倒れながらそう思う。《黄昏》が終結してから三度目になるその季節に、そろそろ拭えていい筈の不安がまだ心の奥底で突き刺さっていた。

    「流石に通信は女々しいかな」

    流石に三度目ともなれば慣れなくてはならないと、彼は思う。今は異国を巡りながら情報収集やら遊撃士協会の協力者やらで忙しい悪友を、年末には必ず帰ってくる優しい人を心配させない為に。開いたり、閉じたりしてどうも定まらない思考をなんとか纏めようとする。

    「今年は帰ってこなくても大丈夫だって、言おうかな……」

    移動距離だってそんなに短くないのだ、忙しい時間を自分に割かせるには余りにも勿体無さすぎる。そもそも、帰ってくるという表現さえ正しいのかは分からないが。導力メールで今年は帰ってこなくても大丈夫だという旨だけ書いて送信して、そのまま目を閉じる。通信を告げる着信音がやけに遠く感じながら、リィンはそのまま眠りについた。
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