たりないふたりその日も、下等吸血鬼を退治人と吸血鬼対策課が連携して退治し、VRCに引き渡したあとだった。夜明けが近い、いちばん深くて暗い濃紺の下、赤と白がだらだらと歩いている。
「ドラ公にさ、」
赤い退治人はその夜もいつもと変わらぬしぐさでなんてことないように言う。そろそろおでんがおいしい季節だ、だのと話していた延長線上で、星を見上げながら。
「みれんをつくれ、って言われたんだよな」
――俺はうっかり死にそうなんだと。
その言葉に半田は隣をみた。腹立たしいほどに整った横顔だった。まるで、にんげんではないみたいに。そんなことが頭を過ぎって、半田桃は思い切り顔を顰める。
「配偶者でも作れと? 結婚など、お前なんぞにできるのか」
なにが正解か分からない頭が、未練に紐づけられたありきたりを言葉にする。それを、ロナルドは、不貞腐れた声で子供っぽくかぶりを振って否定した。
「いや、どうにもそういうんじゃないみたいでさ」
君が死ぬのを躊躇ってくれるといいのだが、と。
「死にたい訳ないってのに。訳分かんなくていっかい殺したわ」
そう言う男に同居人が伝えた意味が痛いほどにわかる。わかってしまった。ロナルドというおとこがそれを理解しえないことも。それくらいに、半田はロナルドの隣にいたし、会話も重ねて、著書を紐解いて、うらんでにくんでいたのだから。
「お前が馬鹿だからドラルクも不安になるんだろう。馬鹿すぎて」
眉間の皺をそのままに吐き捨てれば、半田の心情などお構い無しに能天気は真昼の空色を友人へと向ける。
「おまっ、バカバカ言うけどなあ。兄貴もヒマリも困るだろうし、それに」
「お前が、」
はく、と口をわななかせて出た言葉に驚いたのは言った本人だった。眉間の皺が深くなる。
「俺がなんだよ」
「死にたくない理由くらい他人を使わず言えんのか、バカめ!」
問うてはいけないと分かっていた。得られるこたえはきっと、半田桃の理解の埒外にある。
「俺はそう簡単には死なねえ」
その予感はあたる。質問の意図ともずれたこたえ。そのひずみがどうしようもなく、腹立たしい。その衝動のまま、胸ぐらを掴む。
「なってやる」
「は」
「俺を、お前の未練にしろ」
「、えっ、どうしたんだよ」
困惑の声に我に返った。
「……っ、愚かにも死ぬなどしたら貴様の墓前にセロリを供えてくれるわ!」
「なんでだよぉ!」
半泣きになる愚者を置き去りにして、高笑いしながらダンピールはひとり帰路についた。いつもの新横浜の夜みたいに、なにもかも有耶無耶にしてしまいたかった。
退治人の顔を、その夜はもう振り返ることはしなかった。