ぼくのおとうさん○月✕日天気晴れ。
今日もこの魔王軍保育園の園児達は元気に過ごしている。
私はこの保育園で保育士をしているしがないモンスターである。
この魔王軍保育園は、魔王軍で働く者の為に開設された保育施設で、種族を問わず幼い子供たちを受け入れている。
時刻は夕方。
おやつの時間を終え、お帰りの会も終わり、保護者のお迎えを待つ時間だ。
この時間でも元気いっぱいな子供達の相手をしながら、私は彼らとの会話を楽しんでいた。
「ディーノ君のお父さんはどんなお父さんかな?」
もうすぐ父の日ということを思い出し、私は一人の園児に聞いてみた。
「あのね、おれのとうさんすっごくつよいんだよ!」
私の問いかけにニコニコと答えてくれたディーノ君は、誰とでも分け隔てなく仲良くできる優しい子だ。
「そうなんだ。たしかに強そうに見えるもんね」
「そうでしょ!かっこいいんだよ」
そう自慢気に言う彼は、ヒーローごっこでもおもちゃの剣を片手によく父親のマネをしている。
「でもね、まえにおこったときすごくこわかったんだ」
「え?おこられちゃったの?」
「うん。おそらがぐわぁーってくらくなって、かみなりがどかぁーんっておちたんだよ!こわくておれ、ないちゃった」
「そっか。じゃあちゃんといいこにしないとね」
いわゆるカミナリ親父と言うことなのだろうか……。
でも厳しそうな方(ディーノ君に向ける顔は優しいが)だから、確かに怒ったら怖そうだ。
「ヒュンケルくんのとうさんもつよいんだよね!」
そう言ってディーノ君は、一緒にブロックで遊んでいたヒュンケル君に話を振った。
ヒュンケル君は、子供の割にしっかりしていて、みんなの中でもお兄さん的存在の子供だ。
「うん。おれのとうさんはけんのたつじんなんだ。だれにもまけないよ」
いつもは大人びた彼が、父親の前だと年相応の甘えた顔を見せるのを私は知っている。
「達人なんだぁ!かっこいいねぇ」
父親を褒められて嬉しくなったのか、ヒュンケル君は食い気味に話を続けた。
「それにね!りょうりもすごくじょうずなんだよ!やさいをきりながら、おさかなもさばいて、りんごのかわむきもできるんだよ!」
「すごい!先生には真似出来ないなぁ」
確かに腕が6本あったら、ものすごく手際は良さそう。
きっといつも美味しい料理を食べているのね。
「ザムザくんのお父さんは、どんな人かな?」
私の横で静かに本を読んでいたザムザ君に聞いてみる。
ザムザ君は本が大好きな静かな子だ。
とても頭が良く、時々覚えた知識を披露しては、みんなに尊敬の眼差しを向けられていたりする。
「おれのちちうえはいろんなことをしっているよ」
「へぇー!物知りなんだね」
「うん!それにじゅもんもたくさんつかえるよ」
「そうなの。自慢のお父さんなんだね」
「うん。おれもたくさんべんきょうして、ちちうえのおてつだいをしたいんだ」
「わあ、かっこいい!ザムザ君も、先生の知らないことたくさん知ってるもんね。きっとすぐになれるよ。先生、応援するね!」
私の言葉にシャイな彼は嬉しそうにはにかむと、本で顔を隠してしまった。
残念!
でも、この間元素記号を覚えている途中だと言っていたから、本当になれそうな気がするわ。
「せんせー!おれのぱぱはねー!」
ザムザ君の座っている反対側から私に声をかけてきたのはフレイザード君。
ちょっとヤンチャなところもあるけれど、子供らしく素直なわんぱく少年だ。
彼は赤いブロックと青いブロックで、2つのタワーを作っていた。
「おれのぱぱは、ちゅうかんかんりしょくなんだって!せんせい、ちゅうかんかんりしょくってしってる?」
「中間管理職?知ってるよ。立派なお仕事してるんだね」
難しい言葉を知っているな、と思いつつそう言葉を返すと、彼はパァっと顔を輝かせた。
「りっぱなんだ!ぱぱにつたえておくね!ぱぱさいきん、ぐあいわるいみたいだから」
「え、そうなの?心配だね。フレイザード君のパパ、お仕事忙しいのかな?」
「なんかねー、いつもおむねおさえながら、おくすりのんでるよ」
「そっかあ。早く良くなるといいね」
「うん!」
仕事のストレスだろうか……。今日お迎えにいらしたら、少し話をしてみようかな。
そうこうしているうちに、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
私はお迎えに来た保護者に応対するため、玄関へと向かったのだった。
終