休校期間〜重大な決断〜「これと……あとこれもか……」
多分今までで一番自分としては頑張った1週間の成果を揃え、鞄に仕舞う。
おれが通うアカデミーが休校になって、今日は7日目の夜。
明日は、アカデミーへの登校日だ。
この一週間、おれが何をしていたかと言うと、誰かとどこかで何かをするということもなく、ひたすらこの部屋に篭り、宿題に向かっていた。
多少の散歩には出たけれど、本当に、それ以外は家にいた。
決してそうしたかった訳じゃなくて、そうせざるを得なかったからだ。
なぜそうなったかと言えば、全部おれが悪いんだけど……。
休校期間に入る前日、おれは色々な人に声をかけられた。
最初に声をかけてきたのはやっぱりポップで、久しぶりだしと思っておれはポップの誘いに乗り、一緒に帰ろうとしたんだ。
だけど、おれの剣の判断は「NO」だった。
おれの目指すエンディング、つまり「誰ともそこまで深い仲にならないギリギリの所にあるエンディング」にたどり着くには、ポップとこれ以上仲良くなってはいけないらしい。
ポップの誘いを断ると、今度はアバン先生がおれに声をかけた。
どうやらおれの宿題の仕上がりを心配して声をかけてくれたみたいで。
自分でもそれはすごく不安だったから、おれは先生に個人レッスンをお願いしようと思ったんだ。
でも、それもおれの剣は許さなかった。
自分の判断の甘さに、おれはちょっと情けなくなった。
でも、もうおれの剣に迷惑はかけられない……!
そう思ったおれは、帰り際、一緒に帰っていたヒュンケルから修行に誘われたけれど、ちゃんと断った。
ヒュンケルと別れた後家に向かうと、家の前でノヴァが待っていたんだ。
ノヴァも、休校期間の宿題の仕上げと修行の誘いに来たようだったけど、念の為ノヴァの誘いもおれは断った。
みんながせっかくおれに好意で声をかけてくれているのに、それを無下に断らなくちゃいけなくて、すごく申し訳ない気持ちになった。
でも……仕方のないことなんだよね、きっと。
そして休校期間1日目。
初日から苦手な宿題に取り掛かる気にもなれず、おれは街に出る選択肢を選んだ。
ところが、家から外へ一歩出た途端、またあの現象が起こったんだ。
気づけばおれは、おれの部屋の机の前にぼうっと立っていた。
そして机の横には、宝玉を不気味に赤く光らせたおれの剣が。
──もしかして……怒ってる?
どうやらおれは、また、選んではいけない選択肢を選んでしまったらしい。
「ご……ごめんよ……。また、助けてもらっちゃったね……」
おれが剣に謝ると、少し光は収まった。
再び選択肢が出て、今度は宿題に手を付ける選択肢を選んだ。
でもおれが苦手とする宿題なだけに終わるはずもなく、おれは夕方、気分転換に出かけることにしたんだ。
外出先では、早速ポップに出会った。
家に来ないかと誘われたけれど、絶っっ対おれの剣に怒られると思って、おれは行かなかった。
どうやらその選択は正しかったらしく、おれは無事に家に帰って来る事ができほっとした。
そうやって、おれはひたすら(恐らくピンチを)一週間乗り越えてきた。
2日目は父さんの屋敷に行かず、家にいた。
3日目は、前々からロン・ベルクさんと約束していた、真魔剛竜剣を見せに行くという目的を達成する為に父さんを彼の所に送った。その後、父さんの屋敷に泊まりに行ったけど、そこからは不用意に出ず、大人しくラーハルトの帰宅を待った。
四日目以降は特に選択肢は出なかったけれど、おそらく休校前に選んだ選択肢によってはイベントが発生していたんだろう。
そして迎えた7日目。
1週間……おれは本っっ当に頑張ったと思う。
それぐらいこの期間は、とても長く感じられた。
「よかった……宿題終わって……」
──それに……無事に過ごせて。
おれが安堵のため息をついた時、ぽふんという音が部屋に響いた。
「やあ、ダイ!」
「あっ!ゴメちゃん!」
「1週間ぶりだね?その後どう?」
「多分……順調だと思うよ。おれの剣には1回助けてもらったけど」
「そっかあ……」
「今日はどうしたの?また何かお知らせ?」
「まあお知らせと言えばお知らせなんだけど……」
「?」
どうしたんだろう。
なんだかゴメちゃんにしては歯切れが悪い。
「今日は、キミにとってのいいお知らせと悪いお知らせを伝えに来たよ」
「いいお知らせと悪いお知らせ?」
「そう……どっちから聞きたい?」
「え……」
一抹の不安を胸に、おれはゴメちゃんに返事をした。
「じゃあ……悪い方から」
「わかった……!悪い方だね……‼」
なんだろう……?まさか……おれが元の世界に帰れないとか
「あのね……」
すうっとゴメちゃんが息を吸った。
「キミ、今のままだとエンディングに辿り着けないよ」
「…………え……それ……どういう……」
「エンディングって言うのは、キミが、目指してるエンディングのことね」
「おれの目指す……誰とも深い仲にならないエンディング?」
「そう……とても残念だけどね」
悲しそうな顔で言うゴメちゃんと困惑するおれ。
「な……なんで……?」
「ええとね……単刀直入に言うと……」
「うん」
「……キミ、好感度上げ過ぎなんだよ……!」
「……は……?……ええぇぇっっっっ」
そ……そんな……!
「どうして!?おれ、選択肢ギリギリ回避してるはずなのに……!」
「うん。ギリギリ回避、出来てなかったんだよねぇ……」
ゴメちゃんは、呆れたような目でおれを見てる。
「実は……もう好感度130になっちゃったんだよね……みんな」
そう、おれの目指す「誰ともそこまで深い仲にならないギリギリの所にあるエンディング」は、好感度を120〜130の間に収めるという難しいもの。
130を超えてしまえば、条件に合わず、このエンディングにはならない。
「そんな……!!!だっておれの剣は何回もおれを助けてくれたよ!?」
「うん……多分それは、なるべく君が無事に済むようにしてくれたんじゃないかな……」
「そう……なんだ……」
チラッとおれの剣を見ると、まるでそれを肯定するように、宝玉がキラリと光った。
「あれ……?でも、今のまま、ゲームをクリアしたらどうなるんだい……?」
ふと、おれは気になって、ゴメちゃんに聞いてみた。
「ええっと……このままエンディングにならない場合は、っと……」
ペラペラと攻略本を捲るゴメちゃん。
「あっ!あった!好感度130以上で各個のエンディングに到達しなかった場合は……」
ごくり。
「最終戦で勝利後、黒の核晶の爆発とともにオープニングに戻されます、だって」
「じゃあ今までやってきたことは、結局意味ないってこと!?」
「その通りなんだよねえ……」
おれの目的は、元の世界に帰ること。
それが出来ないのならば、これ以上進めても意味がない。
──というか……また、黒の核晶爆発しちゃうんだなぁ……。
「……おれ、どうすればいいのかな?」
「うーん……そうだねぇ……もうやり直すしかないんじゃない?」
「えっ……!?やり直すって……まさか最初から?」
「うん、最初から」
そんなぁ……!せっかくここまでやって来たのに……
おれは思わず、がっくりと膝をつく。
下を向いたおれの目の端に、キラリと光るおれの剣が映った。
「あっ……!おれの剣で、ギリギリのところまでロードすれば……!」
「あのね、ダイ。言いにくいんだけど……」
名案だ!そう思ったおれにゴメちゃんのかけた言葉は辛辣なものだった。
「最初の選択肢から間違ってるんだよ、キミ」
ぴしりと何かが固まる音がした。
「キミさぁ……アカデミーの初日、ポップと帰ったらダメだよ!」
「えっ……そこ!?そこなの⁉」
確かにポップと一緒に帰ったような気はするけど……だからってそんなにシビアなの⁉
「それにさ……」
「まだあるの⁉」
なんだか似たような会話を以前もしたような気がするけど……。
「バランさんに初めて会った時、抱きついたでしょう?あれは良くないよ」
「……あー……アレかあ……」
それについては……なんとなく自覚はある。
「でっ……でもさ!あっちにしないと父さんと戦うことに……」
「ならないよ。ラーハルトがいるじゃないか」
「えっ!?」
「ラーハルトがバランさんを説得……もといお説教するから、戦うことにはならないんだよ」
「なあんだそっかあ……って、おれそんな展開知らないし!」
「うん、そうだよね。だから次はダメだよ」
「……はい」
ゴメちゃんに叱られ、おれはしゅんと項垂れた。
「バランさんもだけど、ポップの好感度はぐんぐん上昇するんだから、選択肢のミスはマズイよ……!」
「でも……1回ぐらいなら……」
「ダイ……キミ、そんなにポップとのエンディングに進みたいのかい⁉」
「うっ……!」
「それに……ちょっとみんなと仲良くなりすぎだよ……全く」
ジロリとゴメちゃんがおれを睨む。
「わ……わかったよ……。それじゃあ最初からやり直すしかないんだね……」
こっちに来てから約2ヶ月半。
またおれは同じ期間をこっちで過ごさなくちゃいけないらしい……。
確かにこれは悪いお知らせだ……。
「まあまあ、あまり気を落とさないで。いいお知らせもあるんだから」
「……!そうだった……!」
すっかり忘れていたけど、いいお知らせもあるんだった!
「好感度130超えてるから、もう1つの条件だったら、最短ルートで進めるよ!」
「……え?」
ゴメちゃんは楽しそうに言ったけど……。
元の世界に戻る為のもう1つのエンディングっていうのは確か……好感度130以上で開放されるエンディングを10以上体験する事。
そして130以上のエンディングっていうのは……!!
「ちょ……ちょっと待ってよ、ゴメちゃん!!それ、全然いいお知らせじゃないと思うんだけど!?」
「えー、どうして?こっちだったらすぐにでもエンディングに突入できるよ?」
「いや……だって……こっちって……その……」
しどろもどろになるおれの台詞を読んだように、ゴメちゃんは続ける。
「あっ!やっぱり10回エッチするのが心配?大丈夫だよ!その為にアップデートしたんだからさ、キミの身体」
「……!!!」
顔を赤くしたり青くしたりと忙しいおれのことなんか気にも止めず、ゴメちゃんは語る。
「そもそもキミの性格じゃあ、難しいと思ったんだよね。目的があるとは言え、キミが仲間に冷たく接するなんて出来っこないもの」
「ううう……」
ゴメちゃんに話を聞いて、おれはようやく理解した。
どうしておれの剣が、あんなに必死になっておれを守ってくれようとしていたのか。
──おれ……ホントにみんなとエッチしちゃうところだったんだああぁぁぁあああぁぁっっっっっーーーーーー!!!!!!
呆然とするおれを流石に可哀想だと思ったのか、ゴメちゃんは優しく言った。
「ダイ……元気を出して。まだキミは選ぶことが出来るじゃないか」
「選ぶこと……」
「そう。時間はかかるけど一番最初まで戻って選択をやり直すか……。それとも、早く元の世界に戻る為、好感度130以上のエンディングを体験するか……。……どうする?」
「おれ……おれは……」
さあ……どうする……!?
▶最初からやり直す
好感度130以上のエンディングを体験する
▶最初からやり直す
「おれ……やっぱりみんなとエッチするなんて出来ないよ!時間はかかっちゃうけど、最初からやり直すことにするよ」
「そうかぁ……。それだけキミの意志は固いんだね……!……わかったよ!ボクも応援する!」
……そうだ。戻るのが遅くなる分みんなに心配はかけちゃうけど、ひとつずつちゃんとやっていこう……!
じゃないとおれ……あっちに戻った時、みんなに合わせる顔がないもん……!
決意を新たにしたところで、おれの中にふと疑問が生じる。
「あれ?……ねえ、ゴメちゃん。その場合、おれの剣ってどうなっちゃうの?」
「そうだね……武器としての装備は出来ないけれど、機能は使えるはずだから、部屋にはあるんじゃないかな?」
「じゃ、じゃあロン・ベルクさんに剣を作ってもらうイベントは……?オリハルコンだって無いし……」
「えーと……オリハルコンはザムザ編が終わると、クローゼットに出現します、だって。剣を作ってもらったら、自動的にこっちの剣は消える仕様じゃないかなぁ?」
「そうなんだ……。とりあえず問題なし……ってことでいいんだよね?」
「うん、そうだね。……よし!そうと決まったらオープニングに戻ろうか!」
ゴメちゃんが明るく言う。
「うん!頼むよ、ゴメちゃん、それにおれの剣!」
こうしておれは、再びオープニングの朝からスタートする事になった。
今度は選択肢を間違ったりしない……!
そう決意したおれは、2ヶ月半後、ようやくみんなの好感度を下げた状態で同じ日を迎えることになるのだった。
→好感度調整し、再スタート。
▶好感度130以上のエンディングを体験する
「おれ……エンディングを……体験してみるよ……っ!」
あっちへ戻るのが遅くなって、また地上に危機が迫ったら……!
おれはそれが気がかりだった。
みんながいるとはいえ、魔界には冥竜王ヴェルザーもいる。
とにかくおれは早く元の世界に戻りたかった。
きっとおれがエンディングに耐えられればいいだけの話だから。
みんなには、ちゃんと隠し通せばいいし。
そう思ったおれは、攻略ルートを変更する事にした。
「いいのかい……?ダイ。本当に……」
「うん……!おれ……頑張ってみる……!!」
「分かったよ……キミが、そう言うのなら、ボクもキミの努力を見守るよ」
「ありがとう……ゴメちゃん」
「じゃあキミの剣も、これからはそっちのエンディングを目指すことになるからね」
「あ……そっか。じゃあ、おまえに助けてもらうこともあまり無くなるんだね……」
おれは剣に向かって話しかけた。
「まあ、でもひたすらエンディング攻略する訳だから、ロードはどんどんしてもらうことになるけどね」
剣は話すことは出来ないから、ゴメちゃんが代弁する。
「それもそうか。……エンディングってどんな感じなんだろ。初めてだから緊張するな……」
「百聞は一見に如かず、だよ!早速やってみる?」
「え……あ……うん……」
こうしておれは不安と緊張を抱えながら、新たなエンディングを目指すことを決意したのだった。
──大……丈夫だよ……ね……?
続く
ダイの剣は必死こいてご主人を守ろうとしてくれましたが、既に時遅し……。もう130超えちゃってて、実はどうしようもなかったよ、という結果に。
ポップと下校してもエンディングにはならないんだけど、更に好感度が上がってしまうので、剣君さんは回避させたのでした。
さて次回は10エンド攻略のダイ君の予定です……!
表でギリ上げられる内容……にはしたいな。