すやすや眠るダイ君と悶々とするポップその晩も、ダイとポップは二人でひとつのベッドに入り、他愛もない話をしていた。
年も近く、最初からこの冒険を共に歩んできた二人は、それが当たり前のように宿でも同じ部屋を充てがわれることが多い。
勿論それぞれにベッドの用意はあるのだが、旅の心細さと、また二人ともそこまで身体も大きくないことから、一緒のベッドに入るようになった。
多少の狭さはあっても、二人くっつき合って休めば心も身体も暖かい。
その為、その晩もいつものように共にベッドに入り、話をしていたのだが。
話をしているうち、やけに隣が静かなことにポップは気づいた。
「ありゃ……寝てる……」
いつの間にか隣のダイはすうすうと寝息を立てていた。
何の夢を見ているのか、寝ながらもごもごと口を動かす寝顔は幸せそうだ。
「なんだ?食いもんの夢でも見てんのか……?」
ポップはベッドにうつ伏せになると、頬杖をついてダイを眺める。
その内ダイは、うにゃうにゃと何やら呟き始めた。
「ぷっ……寝言言ってら……!」
何を言っているのかと、ポップは少しだけダイの口元に耳を寄せる。
するとダイのあどけない寝顔が、眉を顰めた悩ましげな顔に変わった。
「……だめ……!」
突然ダイの口から漏れた言葉に、ポップはどきりとした。
──うおっ……。いきなりおかしな声を出すんじゃねえってーの!
どきどきとしながら様子を見守っていると、ダイはまた新たな言葉を口にした。
「だめ、だって……!ポップ……」
──お、おれ?おれが何してるんだよ……。
ポップは少々顔を赤らめながら、ダイの言葉を待つ。
「そんな……ちゃ……だめ……」
──だから!何がだよ、ダイ……!
「……ゃうからあ……!待って……だめ……!」
ダイは夢の中で、必死にポップに呼びかける。
「ああっ……ポップ……!」
──だあぁぁーーーっっっ!!!
ダイが何の夢を見ているのかは定かではないが、発言だけで容易にいかがわしい想像がてきてしまう、ポップ15歳。
ダイの方は、夢のワンシーンは終えたのか、また穏やかな表情で眠りについていた。
──気になって寝れねえ……!
一度脳内に浮かんだ映像は簡単には消えてくれず、ポップはその夜悶々とした夜を過ごした。
「おはよー……あれ?ポップ、どうしたんだ?」
「あー……ちょっとな……」
「ふうん……?」
「おめえよう、昨日何の夢見てたんだ?」
「え?夢?」
うーんと考えるダイ。
「……あっ!ご飯の夢だよ」
「ご飯?」
「そうそう……!」
夢の内容を思いだしたのか、ダイは笑いながら言った。
「ポップがレオナの手料理食べようとしててさぁ」
「へっ!?姫さんの……手料理だぁ!?」
「うん。おれ、そんなの食べちゃだめだ、お腹壊しちゃうからって言ったのに、おまえ全然聞いてくれなくて」
「あー……」
「オニオーンとたこまじんにバブルスライムが乗っかったような料理、一口で食べちゃったんだよ」
「……それは止めてほしかったぜ」
何と言う恐ろしい夢なのだろうか。
だが、夢でよかったとポップは思った。そして同時に、何故か少々残念な気持ちになった。
──断じて姫さんの手料理を食べれねえのが残念な訳じゃなくて!……何だ?このスッキリとしねえ気持ちは……。
後々、ポップは別の意味で眠れぬ夜を過ごすことになる……。
終
姫の料理は、タコのカルパッチョ バジルソースがけ ですw