ゴメずきん昔々、ある所に一人の可愛らしい少年がおりました。
少年はダイという名前でしたが、祖父が作ってくれた、ゴールデンメタルスライムの形を模した頭巾を普段から被っていたので、みんなからは「ゴメずきん」と呼ばれていました。
ある日ゴメずきんは、姉のような立場であるレオナに呼ばれました。
「ゴメずきんちゃん、森に住むヒュンケルが瀕死の重傷らしいから、お見舞いに行って欲しいの」
「ヒュンケルの所へ?でもそれならエイミさんの方が……」
「エイミはダメよ。行ったら帰ってこないから」
「そっかあ……」
何やら難しい大人の事情があるようです。
「彼の事だからお見舞いなんて不要でしょうけど、一応ね。はい、これ」
そう言ってレオナは、ゴメずきんにバスケットを渡しました。
ゴメずきんがバスケットに被せられた布をめくると、中にはせかいじゅのしずくとクッキーと紅茶が入っていました。
「それじゃあ頼むわね。あ、道草しないようにね」
「はぁい。行ってきまーす!」
ゴメずきんは元気よく返事をして、出かけていきました。
ヒュンケルの所へルーラで行くこともできましたが、それだと話がすぐに終わってしまうので、ゴメずきんはとことこと歩いていくことにしました。
ゴメずきんが鼻歌を歌いながら歩いていると、声をかける者がおりました。
「よう、ゴメずきん!」
「あっ!ポップ!!」
ポップは黄色いバンダナがトレードマークのオオカミで、ゴメずきんの親友でした。
イヌのように大きな耳と、イヌのようにふわふわの足、それにイヌのようにふさふさの長い尻尾がありますが、呪文が使えるように人間と同じ手をしていました。
「なーんか説明が気に食わねえけど……まあいいや。どこ行くんだ?」
「ヒュンケルの所にお見舞いに行くんだよ!」
「見舞いぃ?アイツがそんなタマかよ……」
「でも瀕死の重傷だって……」
「んなモン、アイツなら寝てりゃ治るって!それより、あっちに花畑があったからおれと楽しいコトしようぜ?」
ポップはゴメずきんがどこかへ行こうとすると、いつもこうやって楽しい遊びに誘うのです。
ゴメずきんは困ってしまいました。
ゴメずきんはポップのことが大好きでしたので、誘われてしまうと断れないのです。
「ほら、行こうぜ?」
ポップがゴメずきんの肩を抱き寄せた時、不意に声がかかりました。
「ちょっとポップ!何やってるの⁉」
「いっ……!?マァム……!どうしてここに……⁉」
腰に手を当てて二人を見ていたのは、素手で熊を倒すことが評判の狩人のマァムでした。
「レオナに頼まれたのよ!ポップが邪魔するだろうから何とかしてくれないかって」
「クソ……!あの姫さんめ……!」
「聞けばこの間も、ゴメずきんがお父さんの所へ行くのを邪魔したんですって!?」
「あ……いや……それはだな……」
ポップにチラチラと助けを求めるような目で見られ、ゴメずきんはポップを助けてあげることにしました。
「ま、待ってよ、マァム!それはおれが悪いんだ……!」
「え?そうなの?」
「うん……ベンガーナのデパ地下でお土産を買って行ったら父さんが喜ぶ、ってポップが教えてくれたから、おれが連れてって、って頼んだんだよ!」
「あ……バカ……ッ!」
「ふーーん……そうなの…………」
マァムがポキリポキリと拳を鳴らしながら、ニコニコとした顔でポップに近づきます。
「ゴメずきん……悪りい……!……また今度なっっ!!!」
「あっっ!!ちょっと待ちなさいっっっ!!!」
ポップとマァムはそう言うと、全速力で追いかけっこをしながら去っていきました。
「行っちゃった……おれも今度混ぜてもらおうっと!」
ゴメずきんも走るのは得意です。
みんなで競争をしたら誰か一番になるかな、などと呑気に考えながら、森を奥へと進んでいきました。
森の奥深くの地底魔城に、ヒュンケルは住んでいます。
「ヒュンケル、具合はどう?」
ゴメずきんが訪ねて行くと、ヒュンケルはベッドに横にもならずに、半裸でトレーニングをしていました。
「ゴメずきんか……どうした?」
「どうした……って、瀕死の重傷だって聞いたからお見舞いに来たんだけど……」
「ああ、あれは……寝ていたら治った」
「あ……そうなんだ」
ポップの言ったとおり、ヒュンケルは特殊な体質で、寝ていると勝手に体力が回復するスキル持ちでした。
「わざわざすまなかったな。ん……?それは……?」
「せかいじゅのしずくとクッキーと紅茶だよ。レオナが持たせてくれたんだ」
「そうか。ではクッキーと紅茶だけいただこう。おまえも食べて行くといい」
「うん!ありがとう」
そうしてゴメずきんは、すっかり全回復したヒュンケルと一緒に楽しいティータイムを過ごしたのでした。
おしまい
せかいじゅのしずく……仲間全員のHPを完全回復するアイテム
ゴメずきんちゃんは、ちゃんと後でパッパの所にも、デパ地下土産を持って遊びに行きました。