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    いそこ

    @IsonoYan
    小官が馳せ参じましょう…!!

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    いそこ

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    DNT/コプヤン

    🌹に懸想するモブの話

    ※注意
    関係性は完全なるコプヤンですが
    モブ隊員はシェを右に見ています。

    #コプヤン

     お手つき 逞しい首元を飾るスカーフは、将官の証。

     自らの手で堕とした難攻不落のイゼルローン要塞。その地で要塞防御指揮官に就任したワルター・フォン・シェーンコップ准将は、おれの憧れだった。
     彼はもう薔薇の騎士連隊第十三代連隊長ではない。昇進に伴い、敬称も閣下へと変わった。
     イゼルローン攻略という華々しい功績を打ち立て、さらに一段上へと昇ってしまった彼。だが、いまだ接点は残されていた。
     要塞防御指揮官となっても薔薇の騎士連隊に顔を出す機会は多い。現隊長を相手に修練を積む様子も時折見かけた。
     傍らにカスパー・リンツ、ライナー・ブルームハルトの両名を従える彼は、隊の長を離れてなお猛獣たちを束ねる群れの王だった。
     白銀の戦斧を軽々と操る姿は気迫に満ち、他を圧倒する。この同盟において向かうところ敵なし。頂点に君臨するその佇まいは高貴な獣のようだった。
     うつくしく洗練された仕草から匂い立つ男としての色香、そして滲み出る家柄の良さ。端正な容貌は、ときに近寄りがたくさえ映った。
     名指揮官と謳われる、知勇兼備の漢。それでいて気さくで面倒見もよく、信頼も厚い。まさに彼こそが最強の名に相応しい。軍人として、同じ男として憧れないわけがなかった。
     訓練においては一切の手抜きを許さない厳しさを持っている。准将がいるだけで場が引き締まった。
     おれと同じように彼を慕う兵士は多いのだろう。言葉にせずとも、要塞防御指揮官の来訪により士気が上がるのを肌で感じた。
     どこにいても不思議と彼の輪郭だけが浮き上がって見える。せめて個として認識されたい。そんな期待を胸に日々ひたすら訓練に励む。
     崇拝に似たこの気持ちは単なる憧れか。
     自分でも、もはや判別不能だった。

     認められたい。少しでも近づきたい。
     その一心で手に入れたのは、准将が纏うものと同じ香水だった。だが、自らが身につけるのはあまりにおこがましい。
     陸戦部隊で着用する白のアンダーウェア。まっさらなそれに彼の香りを吹き付ける。顔に押し当て深く息を吸い込めば、芳香が肺の細胞ひとつひとつにまで染み渡るのを感じた。
     憧れが恋情に変わったのはいつからだろう。
     抱かれたいのではない。
     抱かせて欲しい。そう熱望するようになった。あの芸術的な身体を組み敷きたい。そんな倒錯した妄想に支配される。
     無論この想いが白日の下に晒されれば、身の程知らずと憐れみの目を向けられるのは確実だった。
     なにせ向こうは最上位の雄だ。おれのような一般兵が懸想していい相手では決してない。
     以前、思慕を拗らせ狂った兵士が彼に襲いかかったことがあった。
     准将は冷静だった。隣にいた隊員の胸からボールペンを抜き取ると、ペン先を僅かに拳から出した状態で暴漢の胸をトンと突いた。前かがみになった相手の肩をすかさずねじりあげながら、脇の付け根に再度ペンを突き立て圧迫する。痛みに呻く無法者をうつ伏せに転がし、そのまま体重をかけ拘束した。
     瞬きひとつの出来事だった。無駄のない華麗な動き。流れるような拘束術は見事としか言いようがなかった。
    「代われ」
     准将の一声で我に返った周りの人間が、床にのされた兵士を慌てて捕らえる。
     立ち上がった彼は何事もなかったような態度で軍服についた埃を払った。涼しいその横顔に、おれは一瞬で心を掌握されてしまったのだった。
     何があっても動じないその視線を独占できたら。
     誰のものでもないあの笑みを、おれだけに向けてもらえたら。
     叶うはずのない願望は、亡命二世としてのルーツである帝国よりもはるか遠く思えた。おれにできることといえば、日々会えた回数を指折り数え、シルエットを目で追う。
     それだけだった。

     星々の煌めきを反射してなお唯一無二の存在感を放つ、美しい流体金属。今や同盟軍が有するこの軍事要塞に、彼はよく似ていた。
     ひと言でいえば見飽きないのだ。
     今も視線の先、准将がこちらに背を向け佇んでいる。その対面にいるのは、要塞司令官であるヤン・ウェンリー提督だった。
     艦隊戦による激しい砲火の中にあって、提督ほど頼りになる人物はいないだろう。不敗の魔術師。その異名が示す通り、彼の艦隊に所属していればどれだけ劣勢におかれようと必ず生還できる――そう信じる者も少なくなかった。
     それほどの智将だ。さぞ切れ者だろうと思いきや、意外なことに平素はごく自然体だった。物静かな印象からは英雄のオーラなど微塵も感じられない。
     要塞司令官と要塞防衛指揮官。その肩書きから二人が並び立つシーンは多いが、正直、部下である彼の方が格段に華があった。
     初めのうちは注意深く盗み見ていたが、准将がこちらの気配に気づく様子は一向にない。そのため日を追うごとにおれは大胆になっていた。
     軍服の襟足にかかる柔らかな髪の流れを目で撫でる。筋肉のついた広い肩からはリラックスしている様子が窺えた。しなやかで強靭な背筋をなぞり、引き締まった腰を愛でる。
     一心に見つめていると、ふと、その向こうにいる提督と目があった。もしかしてずっと見られていたのだろうか。提督の表情が僅かに固くなる。
    「!」
     非難めいた視線に込められた圧。射るような眼差しに心臓が大きく跳ねた。見たこともない漆黒の深さに思わずたじろぐ。
     確かに無遠慮だったかもしれない。だが穏やかな人柄で知られる提督が、なぜあんな目でおれを見る?
     警告とも牽制とも取れるような鋭さを飲み込めずにいると、それまで前を向いていた准将がゆっくりと振り返った。
     何らかの指示があった訳ではない。だが焦がれ続けた灰褐色の瞳が、提督の視線を追うように真っ直ぐおれの姿を捕らえた。
    「失礼」
     准将は提督にひとこと断りを入れると、かかとの向きを反転させた。
     悠々とこちらに歩いてくる姿はやはり大型の獣めいていた。防衛の臨界距離を易々と突破した准将によって、あっという間に壁際へ追い詰められる。
     かつて、これほど間近でその美貌を見つめたことはない。
     彫りの深い双眼にじっと見据えられ、足が竦む。
     夢にまで見たシチュエーションであるはずなのに、余裕を湛えた顔つきが今はひどく恐ろしかった。
     喰い殺される──。本能が鋭く警鐘を鳴らす。
    「用件は?」
     短く問われる。
     おれは必死でかぶりを振った。
    「ッ、いえ」
     カラカラに干上がった喉を叱咤しなんとか声を絞り出す。
    「おい」
     疚しさから顔を背ければ、心の奥まで見透かすような瞳がおれを覗き込んだ。
    「……そろそろ慎んだらどうだ」
     有無を言わさぬ口調でやんわり詰められる。
     何を、とは聞けなかった。そんなこと自分が一番わかっている。
     彼はおれの劣情に気づいていたのだ。もうずっと、ずっと前から。
     その身体に、手足に、絡みつく欲深い視線はさぞ不快だったに違いない。准将が苦言を呈するのももっともだった。
     これまで温情により看過されてきたのだ。過ぎた無礼を謝罪しなければ。
     焦る心とは裏腹に、舌が縫いとめられたかのように動かない。
     黙り込んでいると准将がさりげなく背後に視線を流した。
    「どうやら、不興を買ったようでな」
     紡がれた含みのある言葉に瞠目する。
    (――そうか、そうだったのか)
     誰が、との具体的な言及はなされていない。だがその瞬間、はっきりと分かってしまった。
     察するにはあまりに遅すぎる事態に唇を噛む。いったい、おれは今まで何を見てきたのか。己の鈍感さを呪う。
    (まさか、提督のお手つきだったなんて)
     狼狽をあらわに見返せば、准将がかすかに眉尻を下げた。憐憫の浮かぶその表情はひどく柔らかなものだった。少しだけ高い位置にある端正な顔が触れそうなほど近くに寄せられる。
     視界の端で柔らかに流れるアッシュグレーの髪。夜毎彼を想って嗅ぐ香りが、圧倒的な存在感をもって鼻腔を塞いだ。
     准将が密やかに耳打ちする。
    「お前がおれに寄越す、その目つき……」
     熱を孕む吐息が耳朶をくすぐった。艶めいた囁きがねっとりと耳を犯す。
    「そいつが、我慢ならんらしい」
     恍惚とした物言いの奥に内包された凄みに、全身が一気に総毛立つ。
    「シェーンコップ」
     提督が背後から彼の名を呼ぶ。その声は若干、不愉快な響きを帯びていた。
    「ご安心ください、閣下」
     振り返らぬまま、准将が落ち着いたトーンで返す。
    「何の問題も、ありませんでね」
     覆い被さるようにしていた准将の身体が緩慢に離れてゆく。それを契機に、緊張から解き放たれた脚が役割を放棄した。背をつけたまま壁伝いにズルズルとへたり込む。
    「しかし……」
     情けなく項垂れたおれの上に微かな呟きが落ちてくる。恐る恐る頭上を見上げれば、片手を腰に当て立つ准将が尖った顎を撫でていた。
    「ここまで心を揺らすとは……。よほど不安を掻き立てられたと見える」
     予想以上の収穫だった。そう独り言ちた唇がついと弧を描く。
    「今夜はじっくり機嫌を取って差し上げなくてはなるまい」
     ひとひらの喜色が言葉尻に滲んだ。
     提督が見せた眼差しの意味。
     したたかに、巧妙に隠されていた真意。
     すべてがひとつに繋がった瞬間、背筋を冷たい汗が伝った。
     耽るように遠くへ遣られていた視線が、ふと落とされる。
    「礼になるかどうかわからんが、ひとつお前さんに助言をやろう」
     口の端に笑みをひらめかせた准将が、一転芝居がかった調子で両手を広げた。
    「高い場所へ躍起になって手を伸ばすのもまあ悪くはないがな。少尉。人生はだいぶ短いんだ。そう悪戯に時間を浪費するもんじゃあない」
     さあ立て。眼前に大きな掌が差し出される。伸ばされた武骨な長い指をしばし呆然と見つめ、それからハッとしてその手を取った。
    「も、申し訳ありませ……」
     引っ立てられるようにして立ち上がる。おずおずと准将を窺えば、逞しい首元を飾るスカーフが目に入った。
     純白の首輪は、手懐けられた獣の証。

    「所詮、お前におれは飼えんよ」

     声を抑えてささめく男が陶然と目を細める。
     たわむ灰褐色に浮かぶのは、上官から寄せられた独占欲に対する紛うことなき愉悦だった。
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