今夜は、帰らない。
彼の車のオーディオからは小さくラジオが流れ続けている。
海沿いの駐車場に車を停めて、私達は静かに夜明けを待っていた。
二人の間に会話はない。
時折、彼の手が躊躇いがちにこちらに伸ばされ、私はそれを受け入れる。
きゅっと握られた右手は指を絡め改めて握り返された。
ざざあ、と波の打ち寄せる音が遠く聞こえる。
まるで世界でふたりきりになったみたいだ。
少し体を起こして顔を少し傾け、彼を見つめる。
それに気づいたのか、彼もこちらを見て顔を寄せてきた。
触れるだけの幼いキスをする。
閉じた瞼は微かに震え目線を下に落とした。
彼の唇は水分を失って少しかさついていた。
この時間が永遠に続けばいい。
そう思って、私は小さく息を吐き、そのまま瞳を閉じる。
朝日が世界を起こすまでは、まだ時間があった。
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