「…というわけで彩のみなさんには今回こちらのお仕事をお願いしたいと考えています」
プロデューサーさんから渡された資料に目を通すと、そこにはとあるショッピングモールのウィンターセールと書かれていた。
「冬のせぇるのいめぇじきゃらくたーでにゃんすね?」
「はい、今回はCM撮影もありますので資料を目を通しておいてくださいね」
手渡された書類には撮影のコンセプト、衣装案などさまざまな設定が細かに書かれていた。
これは読み込むのに時間が掛かりそうだ。
「お茶でも飲みながら拝見いたしましょうか」
「ごゆっくりなさってくださいね。わたしは仕事に戻りますがなにか不明点などあれば声をかけてください」
プロデューサーさんはそう言ってソファから離れ、事務机に戻っていった。
「それならワガハイはお菓子を用意するぞなもし!しばしお待ちを!」
勢いよく猫柳さんが立ち上がる。今日は美味しいおまんじゅうを持ってきたんでにゃんす、と機嫌良さそうに鞄を取りに席を離れた。
私もお茶を淹れにいかなくては。そう思って席を立とうとすると、隣から妙な視線を感じた。
振り返ってみると、じーっとこちらを見つめる華村さんの姿があった。
「あの、華村さん、どうかなさいましたか?」
その様子が気になって問うと、華村さんは一瞬ばつが悪そうな顔をして、そして口を開いた。
「あのね、九郎ちゃん」
首筋をトントンと人差し指で軽く叩くと、華村さんはニヤリと口元を歪めた。
「ついてるわよ、お気をつけなさい」
なんのことだか分からず小首を傾げていると、華村さんはくすくすと笑った。
「季節外れの虫かしらね?」
思わずぱちぱちと瞼を瞬かせる。
もしかして…
私はひとつの可能性に思い当たり、急いで鞄から手鏡を取り出す。
首元を念入りに確認すると、左の首筋にひとつ、赤く薄い跡が残されていた。
それを確認した私は頭から足先まで瞬間沸騰したようにかあっと体が熱くなった。
顔から火が出るというのはこういうことなのだろう。
あれだけ跡をつけないでくださいとお願いしていたのに…!
真っ赤になってしまった私を見て、華村さんは微笑ましいとでも言いたそうな表情で笑っていた。
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