「お見せしたいものがあるんです」
そう言ってプロデューサーはごそごそとダンボールの中身を漁った。
そこから出てきたのは、自分たちを模したぬいぐるみだった。
「315プロダクションのアイドル全員をぬいぐるみ化する企画が立ち上がっているのは以前お話ししたと思いますが、サンプルが上がってきたんです」
プロデューサーから手渡されたそれは、手の平に収まってしまうほどの小さなぬいぐるみで、髪型や目元など各パーツがそれぞれのアイドルの特徴をよく捉えていて、忠実に再現されていた。
「おっ、俺のギザ歯なんかもいい感じにデフォルメされてるな」
「英雄さんのちょっと怖い目元なんかもよく似てますね!」
「おい龍!」
「痛っ!英雄さんギブギブ!」
握野さんと木村さんのいつものやりとりを、信玄さんが笑って見ている。
私の隣に座っている猫柳さんのぬいぐるみは、口元が猫のように愛らしく結ばれていた。
「なんとも可愛らしいねェ、つい家に連れて帰りたくなってしまうよ」
華村さんが小さなぬいぐるみを手の平に座らせて目尻を下げていた。
私もつい、手元にある小さな自分の丸い頭を優しく撫でてみる。
「そちらはサンプルになりますから、どうぞお持ち帰りください」
「もらっていいでにゃんすか!?」
「はい、正式なものが出来上がりましたらまたご連絡しますね」
プロデューサーが席を外すと、まるで休憩時間になった学生のように事務所がざわついた。
皆ぬいぐるみを互いに見せ合ったり、写真を撮ったりしている。
「なあなあ、清澄のぬいぐるみも見せてくれよ」
先程まで向かいにいた木村さんがいつの間にか隣りに座っていて声を掛けてきた。
「はい、どうぞ。木村さんのもお借りしますね」
彼からぬいぐるみを受け取って手の平に座らせてみる。
きりりとした眉毛、いつもセットしている髪型、元気な口元…木村さんの特徴をよく捉えている。
「清澄のぬいぐるみもよく出来てるよな!ほら、この目元とか睫毛の長い感じ、よく似てる!」
「木村さんもよく似ていますよ。デザインされた方はすごいですね」
二人でお互いにぬいぐるみと顔を見比べながら思わず笑みが溢れる。
「なあ、清澄」
「はい?」
突然、木村さんが少し声のトーンを下げた。まるで私だけにしか聞こえないように。
小首を傾げて反応すると、木村さんは自分の手元にある私のぬいぐるみの顔を、私が持っている木村さんのぬいぐるみにそっと近づけた。
ぬいぐるみ同士は真正面からぶつかって、それはまるで唇が触れ合うような形におさまった。
「これならバレないよなー…なんて、」
驚いて顔を見ると、仕掛けた本人であるにも関わらず木村さんは顔を真っ赤に染めてこちらを見つめていた。
人前で出来ないことをぬいぐるみに託したということなのだろうけど、みなさんがいる前でこんな熱烈な…!
私もつられて恥ずかしくなってしまい、熱くなった顔を隠そうと思わず俯いてしまった。
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