私を忘れないで「昔は知らなかったんだけどね」
オリンパスでの久しぶりの試合。盆栽プラザにて、レプリケーターでバッテリーを作成していると、隣の端末で操作していたアネキが話しかけてくる。俺はカタカタと鳴るレプリケーターをぼんやりと待ちながら、言葉の続きを待つ。
「この花、桜っていうじゃない?この花……いえ、花には沢山花言葉があるって、シルバも知ってるでしょ?」
レプリケーターから吐き出されたバッテリーをバッグにしまう。まだ空きがある。もう一つバッテリーを作ろうと端末へと手を伸ばす。
「なんか聞いたことあるな」
「私が知ってる桜の花言葉は『精神の美』なんだけどね。この前、ナタリーからも桜の花言葉を教えてもらったの」
「へぇ。どんなのだよ」
特に興味はない話題だったので空返事になってしまった。それを察したのだろう、アネキは「やっぱいいわ」と会話を中断してしまう。
「なんだよ。話したかったんじゃなかったのか?」
再び出てきたバッテリーをバッグに詰め込みながら問いかける。
「Nem’oubliez pas……。分かるかしら」
「そりゃ、まぁ……」
その意味はなんとなくわかった。こういうとき、幼い頃いやいややらされていた語学の勉強が役に立つものだ。お互いの言葉が紡がれなくなり、沈黙が流れる。やがて、お互いにレプリケーターで作りたいものを受け取り、リングに追い立てられるように走り出す。背後では、桜の木がリングに飲まれている。
「Je n'oublierai pas……」
「……え?」
「知りたいなら、後で調べるんだな」
「ちょっと!!」
俺は少し前にジャンプパッドを出す。何故か少し気恥ずかしくなったのを紛らわすかのように、高く高く跳んだ。