Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    晴れ🌞

    @easy_pancakes

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍃 🌹 🍀 🍓
    POIPOI 13

    晴れ🌞

    ☆quiet follow

    ガスマリワンライ「ポップコーン」「映画」「初恋」(+2h)
    付き合ってるガスマリの、ポップコーンが弾けてるあいだの時間のお話です

    🍃🌹 リビングに漂う香ばしいバターの香りと砂糖をちょっと焦がした甘ったるい匂い、ポンポンと弾けるような軽快な音。そしてキッチンから聞こえてくるご機嫌な鼻歌。どうやら今日はポップコーンパーティーが開催されるようだ。
     キッチンを覗くと、そこには予想どおり、フライパンを揺すりながら器用に鍋でキャラメルを作るマリオンの後ろ姿があった。誰に聴かせるでもない鼻歌に合わせ、片足でパタパタとリズムを取っているマリオンは絵に描いたような上機嫌で、そんな年相応の姿をガストはたまらなく愛おしく思う。
    「いい匂いだな」
     そう言って、ガストはマリオンの背後から鍋を覗き込んだ。とろりと甘く溶けたキャラメルを火から下ろし、今まさに味見をしようとしていたマリオンは、ポップコーン作りに水を差されて少し眉を顰めた。心なしか頬がうっすらと色付いているのは、鍋から甘く立ち上る湯気のせいか、それともひとり口ずさんでいた鼻歌をガストに聴かれたためだろうか。
    「火傷するだろ」
    「邪魔はしないようにするって」
     マリオンはふい、と顔を逸らしてキャラメルをスプーンに掬い、おもむろにガストの口元に突きつけた。
    「味見しろ」
    「いや、それこそ火傷するだろ、見るからに熱そうじゃねぇか」
    「ただ突っ立っているだけなら邪魔だからあっち行け」
    「喜んで味見させていただきます」
     ガストが口を開くと、マリオンは満足そうな笑みを浮かべ、スプーンをガストの口に差し込んだ。ただ口の中にキャラメルを流し込めばそれでいいのに、いたずらにスプーンで舌をなぞっていくからタチが悪い。ガストは堪らずマリオンの腰に手を回そうとしたが、華奢なくせに力でガストに勝る腕に押しやられてそれは叶わなかった。
    「上手くできているだろ?」
    「そうだな、甘くてうまかったよ」
    「相変わらずオマエは食べ物の感想になると幼児以下の語彙力だな」
     マリオンが軽くフライパンを揺らしながら言った。呆れたような口ぶりとは裏腹に、マリオンは楽しそうな笑みを口元に浮かべている。
     先ほどまではポップコーンが飛び跳ねる音はまばらに聞こえていたが、今は途切れることなく弾ける音が続き、蓋の隙間から食欲をそそる香ばしい匂いが溢れてきた。
    「今日はどんな映画を見るんだ?」
     ガストが弾ける音に負けないようにマリオンの耳元に顔を寄せてそう言うと、マリオンはくすぐったそうに少し身を捩って答えた。
    「ジャクリーンが見たがっていたやつだ。女優と本屋のラブストーリーで、もう何回か観たことがあるから内容は全部覚えてしまったけど曲がいい」
     それでマリオンは先ほど上機嫌に鼻歌を口ずさんでいたのだろうか。どこかで聴いたことがある曲のような気がしたが、もしかしたらガストもマリオンとその家族との団欒に招かれてその映画を観たことがあったのかもしれない。甘いラブストーリーを観ながら甘ったるいキャラメルポップコーンを食べるなんて、どこまでもあの家族は甘党だ。しばらくするとポップコーンが弾ける音がだんだんと静かになり、マリオンがフライパンの蓋を開けると、濃厚なバターの香りがキッチンに広がった。ガストはポップコーンはしょっぱい出来立てのやつが一番うまいと思うのに、あのポップコーンは溺れそうに甘いキャラメルと絡められてしまうんだろう。
     フライパンが空になると、マリオンがまたポップコーン用のとうもろこしをさらさらと入れてバターをひとかけら落とした。
    「また作るのか?」
    「オマエは甘いポップコーンは好きじゃないんだろ?」
     なんと今日のポップコーンパーティーにはガストも招待してもらえるらしい。ガストはマリオンの頬にキスをした。
    「塩とバターだけもいいけどチェダーチーズも好きだぜ」
    「調子に乗るな、自分でやれ」
    「甘いラブストーリーを観る時は味の濃いポップコーンがうまいって知ったんだよ。ジャクリーンが好みのやつは幸せなハッピーエンドになる恋の話が多いからな」
     ポップコーンがまた勢いよく弾けはじめた。
    「……なぁ、マリオンの初恋って誰……とかって聞いてもいいか?」
     コーンが小さな爆発を繰り返す騒がしい音に紛れて、ひとりごととして湯気みたいに消えてしまったっていいと思って呟いただけだった。けれどもマリオンは耳聡くそれを拾って、怪訝そうな表情で振り返りガストを見やる。
    「いや!マリオンに他に誰か初恋の人がいても俺は気にしないし、ちょっと気になっただけっていうか、俺は過去にマリオンに他に好きな人がいたって気にしないんだけどさ!俺だけ初恋が誰なのかがわかってるのってなんか……ちょっと……いや、なんでもない、忘れてくれ……」
    「知りたいか?ボクの初恋の相手が誰か」
     マリオンがまっすぐガストの目を見て尋ねる。ガストは小さく息を飲んで口を開いた。
    「い、いつ頃……その人と……」
    「出会ったか?まだ小さな頃」
    「っ……歳上?それとも歳下……?」
    「そうだな、歳上だった」
     ポップコーンはいよいよクライマックスとばかりにフライパンの蓋の下で暴れ回り、ガストの心臓も同じくらい騒がしくばくばくと音を立てて、耳の奥を轟々と血が流れる音が聴こえるような気がした。
    「身長はボクより高かった。髪の毛は今のオマエよりは短いかも。他に聞きたいことは?」
    「……好き、だったんだな」
    「ずっと小さな世界で生きていたボクに外の世界を教えてくれた、大切なひとだ。まだこの話続けるのか?もうポップコーンができあがるケド」
     マリオンがIHヒーターを止めて、ポップコーンが温かいうちに塩をまぶそうと棚に手を伸ばす。けれども伸ばしたその手を背後に立つガストが絡め取り、後ろからぐっと抱き寄せて、マリオンを腕の中に閉じ込めた。マリオンが「苦しい」と言ってガストの腕を叩くが、本当に嫌だったらとっくに張り倒されているはずと、ガストは更に腕に力を込める。
    「でもマリオンが今好きなのは俺だし、俺たち付き合ってるよな」
     マリオンはひとつため息をつくと、肩に顔を埋めるガストに頬擦りをするように頭を傾けた。
    「付き合ってるとか恋とかがなんなのかやっぱりボクにはよくわからないけど、こんなことされてもイヤじゃないし心地いいって思う相手はオマエだけだ。安心したなら離せ、ポップコーンが冷める」
    「好きだ、マリオン」
    「ボクも」
     ガストが腕の力を緩めると、マリオンがするりと抜け出して冷蔵庫のドアを開けた。少しだけ背伸びをして冷蔵庫を漁るマリオンの上半身がドアの向こうに隠れ、ガストはきっととんでもなく情けない顔をしているであろう自分の顔面を両手で覆う。
    (こっちはマリオンにだけずっと恋してるのに、惚れたもん負けだよな、ほんと)
     ガストの心を掻き乱すたったひとりのその相手が、鼻歌を唄いながら冷蔵庫のドアから顔を覗かせた。
    「ボクの初恋かもしれない相手だけど、オマエもよく知ってるひとだ。チャーミングで行動力があって、自分が決めた道に真っ直ぐ向き合う気高い女性で、ヨーロッパのどこかの国の王女様」
     してやったりという顔で心底楽しそうにくすくすと笑うマリオンの様子に、ガストは頭を抱えるしかなかった。マリオンが手にチーズの塊を持っていなかったら、今すぐきつく抱きしめて、キスをして、小さな口の中を好き勝手荒らして、ご機嫌に笑う彼を黙らせてやりたい。
    「ポップコーンパーティーの後、覚悟してろよ」
    「ふぅん、ボクより弱いクセに偉そうだな。でも、楽しみにしてる」
     チェダーチーズポップコーンによく合う香りのいいビールが冷蔵庫にあったはずだが今日はおあずけにしよう、いろいろと、念のために。ジンジャーエールと甘くてしょっぱいポップコーン、それに生意気で愛おしい恋人と見る映画。最高の夜が始まる予感にガストの胸は期待で膨らんだ、まるで弾けるポップコーンのように。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤👏😭❤❤❤❤❤💖❤💖❤💖🌽🌽🌽💒🍃🌹🌹💖💖💞💘❤💖💖❤❤👏👏👏💖💖💖👏💖👏💗💯💯💖💖💖🎃🎃🎃🎃🎃💖👏👏😭❤☺🔟🔟ℹ🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    晴れ🌞

    DONE青の街にてお茶会を開催ありがとうございます!

    ホワイトデーまではバレンタインだし、無自覚両片思い強化月間です!
    🍃🌹「いや、お前らが気にすることじゃねぇって。マジで」
     空が白み始めたニューミリオンの大通りを、ガストはひとり足早に歩いていた。

     冷え切った朝の空気は鼻の奥を刺すみたいに冴えていて、呼吸するごとに肺がじわりと熱くなる。昨夜の酔いはすっかり覚め、残るのは鈍い頭痛と少しの後悔。吹く風に背中を丸めると、上着のポケットの中でクラフトビールの王冠がかちゃりと音を立てた。
    「ふたりで一度にしゃべったら何言ってるかわかんねぇよ。あー、まぁ後で俺も覚悟決めて見てみるって。飲みに付き合ってもらってサンキューな」
     ロイとチャックからかかってきた通話を終わらせると、ガストはスマートフォンのディスプレイのメッセージアプリに付いた、たくさんの通知にため息を吐いた。届いたメッセージは開く気になれない。反応したら最後、何人かの同期たちにとっておきのおもちゃとして扱われるってわかっているからだ。溢した白い吐息が空気に溶けぬうちにまたひとつ、メッセージを知らせる通知が表示される。こんな早い時間に事をおもしろがって連絡を寄越してきたのは、やはりと言うべきかニューミリオンきっての情報屋を自称するガストの同期だった。茶化すようなメッセージに続いてSNS投稿記事のリンクが送られてくる。
    5907

    晴れ🌞

    DONE捏造しかない研修チーム2年目の春
    無自覚にマリオンを好ましく思っているガストと、一歩踏み出したいかもしれないマリオンと、ほんのり甘いイチゴタルトのおはなしです

    DMH3の展示で掲載していました!見てくださった方、いま見にきてくださった方、ほんとうにありがとうございます!!
    🍃🌹 甘い、甘い、小麦粉と砂糖と卵の匂い。
     ノースセクターの共同スペースが焼きたての空気で満たされている日は、マリオンの機嫌がいい日だ。
     昼までのパトロールの後、弟分たちとのランチと買い物で束の間の休息を楽しんだガストは、陽が落ちる前にタワーに戻った。マリオンから明日も早い時間のパトロールなんだからあまりハメを外さずに早めに帰れと釘を刺されていたし、配属から一年半ほど経って、早出のパトロールの前の晩にアルコールを入れるものではないということくらいガストももう分かっている。
     帰りに寄ったスーパーマーケットで買ったものを冷蔵庫に入れようとキッチンへ行くと、そこには真剣な面持ちで鍋をかき混ぜるマリオンの姿があった。マリオン・ブライスは真面目で几帳面なようで、意外と大雑把なところもある。シンクには半分に割れた卵の殻がいくつも転がっていて、なんとなくガストは微笑ましい気持ちになった。時折マリオンがポケットにものを入れたまま洋服をクリーニングに出してしまって、ジャックに注意されているのを見ることもある。隙のない見た目とは裏腹に、マリオンにはそんな抜けたところもあることを、共に生活する中でガストは知った。
    4509

    recommended works