私はドランブイになりたかった(sct)ラスティーネイルを好んで飲む彼女は僕の隣で笑っていた男しか目に入っていなかった。
「魔女の知ってはいけない秘密を知ってしまったから」
そう言って苦笑した彼女はただの一般人だったのに、魔女により暗闇へ引きずり込まれたらしい。まだ引き返せる、そう手を差し伸べても彼女は首を横に振った。
「やらなきゃならないことがあるの」
そう言って望みが無いとわかっている男へ声をかけにいく。僕に落ちてくれれば丸く収まるのに。どうしてあいつじゃなきゃいけないんだ。
それから、僕の隣で笑っていた男は組織に身元がバレて自害する。
彼女は泣きもせず笑みを浮かべているが心では泣いていた。本気で愛していたのだろう。ずっと見つめてきたんだ、僕にはわかる。
「ねぇ、私と手を組まない?この組織、一緒にぶっ潰しましょう」
なんの迷いもせず口にした言葉に嘘偽りは無かった。彼女は初めからこの組織を壊滅させたくてこの薄暗いところへ居残っていたらしい。
「私、全部知ってるの。でも一般人に出来る事なんて微々たるものでしょう?私に足りない部分を補えるような大きな権力を持つ、信頼できる人をずっと探して待っていた。あなたなら出来るでしょう?ゼロのお兄さん」
彼女の情報提供により組織は壊滅した。でもその彼女は爆発に巻き込まれて瓦礫の下敷きになっている。僕を庇ったのだ。
「貴方は……あの人の、何よりも大切な人だから」
最後まで僕のことは眼中に無いらしい。むしろ恨めしげな視線を向けてくる。
「こんなクソみたいなコードネームつけられるくらいなら、私はドランブイになりたかった」
愛してくれなかった彼女の、最期の言葉だった。