瓢箪の面子供は古い蔵を開けて1番古そうで大きな箱を引き出すと重くて固く結ばれた紐があった。解いてみようとするが解けなかった。
祖父へ持っていき頼むが断れる。何故なら誰にも解いたことが無い「瓢箪の面」の箱だからと。
子供は瓢箪の面?と傾げる。祖父はその箱を優しく撫でて昔話のように語り始めた。
子供は行儀よく耳を傾けた。
〽︎時を遡り語ろう。今から六百年ほどだろうか。
ある日、呪いで異形の子が生まれたし。瓢箪の面を付け畜生ともに暮らしや。
ある日、盲の琵琶法師に出会ういなや産まれた時から別れた仲のように喜びを分かち合う。
やがて共に舞うごとに異形が解かされ人間へと。
ある日、時代により分かたつ。悲しみに暮れた彼は瓢箪の面を封じ盲の琵琶法師を待ち続けておる。再び会うた時はこの封が解かれるようになるだろう。
ああ、恋しや。ああ、恋しや。彷徨い彷徨い二人はどこにいずこへ──。
長く能で語ってきたハリのある声が子供の耳によく響いた。まだ出会えていないのかな?と晴天を見上げる。
1番古そうな大きい箱、「瓢箪の面」は元の場所に戻した。早く出会えますように。と撫でて蔵の扉をゆっくりと閉めた。
もうすぐ「田村」の稽古をしなきゃと稽古部屋へ急ぐ。
真夜中に固く結ばれた紐が自然に解いていき蓋が外れる。中身は空っぽだったが置いた跡だけ残った。
一瞬に笑い声と琵琶の音が。