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    のくたの諸々倉庫

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    等身大のしあわせを/鍾タル

    (いや起きてるけどね。ストレートに誘わないといけないかあ……ピュアすぎるよ先生……)とか思いつつ嬉しいタルはいます

    #鍾タル
    zhongchi

    青空が夕闇への抵抗を弱め、舞台を夜に切り替える──そんな境目の時間が、思えば俺は好きなのだと思う。
    「公子殿、邪魔をするぞ」
     合鍵と上等な酒を手に、彼の住まいへと足を踏み入れた。璃月におけるその場所はどうやら、公子殿にとっては「帰る場所」というよりは「雨風をしのぎ眠る場所」という認識のようで──家具も生活感もろくにない室内、寝台に横たわる彼は微動だにしない。
    「……公子殿?」
     おかしい、なんの反応もない。彼の立場や職業上、来客が全て好意的なものでないことなど明らかで。それでもただこんこんと眠っている辺り、何かあったのだろうかと胸中が波立つ。
     慌ててその口元に手をかざせば、すうすうと規則正しい寝息を感じた。とりあえず生きていることは分かったが、それにしても不思議なほど、起きない。
    「……薬でも盛られたのか?」
     しかしその寝顔はひどく安らかで、年相応の幼さすら感じられる。これはただ、本当に寝入っているだけか……?
    「公子殿」
     試しにもう一度呼んで、滑らかな頬へと指を這わせた。んん、と少しだけ眉がひそめられるが、やはりそれ以上の反応はない。
    「……相手が俺でよかったな」
     ほんの小さく、苦笑する。さすがに寝込みを襲うほど欲求不満ではないし、今日はこの寝顔を堪能しているのもいいな、と。
     近くのテーブルに酒やら何やらを置き、上着を脱いで隣に横たわる。ずり落ちかけていた布団を戻してから、至近距離で見つめた寝顔に音もなく、頬が緩むのを感じた。
     ……出会った頃より少し、まつ毛が伸びただろうか。当たり前のことながら、他者に見える位置に痕跡を残されることを彼は嫌う。そんな中で俺が与えたささやかな変化に、溢れるのは愛おしさばかりで。
     まさかこんなにも誰かを、更に言うなら人間を愛することになるとは思わなかった。手を伸ばし、彼の体を抱き寄せる。
     しあわせだなあ、なんて、あるいは口に出していたかもしれなかった。だがそれもいいだろう、どうせ誰も聞いていないのだ。
    「俺のことを選んでくれて、ありがとう」
     囁いて目を閉じた。寝るにはまだ少し早い時間だが、それもたまにはいいだろう。
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