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    のくたの諸々倉庫

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    桜の樹の下には / 鍾タル

    #鍾タル
    zhongchi

    「きれいな桜ですね」
     ざあ、と風を受けて花びらを散らす、一本の木の根元にて。腕を組み、その花を見上げていた青年がこちらを向いた。
    「ああ、そうだろう。自慢の桜なんだ」
     言いながらその幹に触れ、微笑む姿になぜか、背筋を恐怖に似たものが駆けた。いっそ人間とは思えないほどの美丈夫が、うつくしく笑っただけだというのに。
    「……誰かを、待っているんですか?」
    「ああ、そうだ。この桜の花が散るころ、また会いに来ると」
     だから待っている、と幹にもたれかかる青年。まだ若いはずなのに、どうしてこんなにも老人めいた雰囲気をしているのだろう。まるでとても長い間、この木の下でその人物を待ち続けているかのような──
    「……っ、でも本当にきれいだ。桜の樹の下には死体が埋まっている、だからこんなにも美しい……なんて小説もありましたね」
     話しかけたのはこちらだったというのに、話が続かないことがどうしようもなく怖かった。だからそう言った、それだけのはずだった。
    「ああ、その通りだ」
     男は言う。まるで愛おしい者を見つめるように。
    「言っただろう、自慢の桜なのだ、と」
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