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    POIPOI 57

    また明日/類寧々
    前に書いていたものその3

    #類寧々
    ruinene

    「最近、お前はよく笑うようになったな」
     言われて少し考える。それはとある教室にて、机についた僕を見下ろし──我らが座長が、ふふんと胸を張った。
    「……僕は元から、よく笑う方だと思っていたんだけど」
    「いや、なんかこう……ドヤ顔に近いというか……うまくは言えんのだが、今までのお前の笑顔は何か違った」
     果たしてそうだろうか。だが彼やえむくんが僕に見せるものと、確かに僕のそれは違っていただろう。それはちゃんと、理解している。
    「……けど、最近の僕は君の言う『笑顔』を浮かべられていると?」
    「ああそうだ! 最近のお前はなんとも優しげな……いわゆる微笑みというやつを頻繁に浮かべている気がする。ステージ上でのファンサービスとも違う、心からの笑みなのだろうな、と思って見ていた。なんとも喜ばしいことだ!」
     なるほど、少なくとも僕が浮かべているのは、司くんたちのように華やかなそれとは違うらしい。だがそれを「喜ばしい」と表現されるのは、なんとも不思議な気分だ。
    「……君は僕のお母さんなのかな?」
    「ええい、そこはお父さんだろう! ともあれ出会ったばかりのお前と、最近のお前は少し違う、ということを言いたかっただけだ」
    「そしてそれは、君にとって喜ばしい変化である、と?」
    「そうだ。お前はショーの観客に『ミステリアスでかっこいい』『類さま』『感情も何もかも全部作りものみたいな冷たい綺麗さがいい』……などなどと好評でな。だがお前は間違いなく人間だろう? ならば笑って当然だ。ロボットと人間は違うのだからな」
     言って微笑む彼の言いたいことは分かる。きっと僕のことを心配していたのだろう。一度はすれ違い、けれど心を通わせてから……僕はほんの少しだけ、彼らに昔のことを話したから。
    「……大丈夫だよ、僕はちゃんとここで生きてる。心配は無用だけど、気持ちは嬉しいよ」
    「ならいいんだ。それじゃあオレはそろそろ帰るぞ、またな類!」
     ……相変わらず嵐のような人物だ。だが数秒経って、「言い忘れていた!」と戻ってきた彼は何やら意味深に笑って。
    「ちなみにその理由とやらに、お前は気付いているか?」
    「気付くも何も……君たちといるのが楽しいからじゃないのかい?」
    「……類、オレから一つ助言がある。オレは鋭く賢いからな!
     ──馬鹿と天才は紙一重だ! 覚えておくといいぞ!」


     そんなこんなで駆け去っていった彼を見送り、教室を出る。そろそろ寧々が下校の準備を済ませる時間だろう。
    「……類」
    「やあ寧々。一緒に帰ろうか」
     どこか嫌な顔をされつつも、いつもの反応なので気にしないことにする。並んで校舎を出て、家に着くまでの短い距離を、こうして並んで歩き始めてからどれほど経っただろうか。
    「今日はね、司くんに『最近よく笑うようになった』と言われてね」
    「……授業中に上げてるっていう笑い声のことじゃなくて?」
    「違う違う。曰く、僕が優しく微笑むようになった、と言われたんだ。
     けど正直なところ自覚がなくてね、寧々から見てどうだい?」
    「別に、いつも通りじゃない……?」
     ふふ、そうだよねと笑えば、僕を見上げる彼女と視線が絡んだ。何か言いたげなその表情に、小首を傾げて言葉を促す。
    「……でも、確かに……類は、変わったよ」
    「へえ、詳しく聞かせてくれるかな」
    「それは……嫌」
     言ってふい、とそっぽを向く彼女。陶器のようになめらかな頬が夕日に照らされ、ほんのり染まっているようにも見える。
    「相変わらずだね、寧々は」
     だがきっと、それは希望的観測だ。いつからか抱いていたこの恋心が、実ることはきっとない。だからそっと、しまっておくつもりでいる。
    「……そうだよ、わたしたちは『いつも通り』でいい」
    「と、いうと」
    「教えてあげない」
     長い髪が風に流れる。そうして一瞬だけ、こちらを向いた彼女は優しく笑っていた。
    「それじゃあ家、着いたから。また明日」
     その笑みに自然と目を細めていた。口角が上がる。ひらひらと手を振る寧々に、手を振り返して玄関に向かう。
    「また、明日」
     馬鹿と天才は紙一重だ、という司くんの声が、その時どうしてか脳裏によぎったような気がした。
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