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    のくたの諸々倉庫

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    バッドエンド。捏造しかないです

    #鍾タル
    zhongchi

    過去のあしたにさようなら 見上げた空は、いつまでも遠い夕焼けの色。凪いだ風の中で、それでも踏み分けた草木は生を主張する。
    「……鍾離先生。こんなところにいたの」
    「おや……珍しい、客人だな」
     そうしてひとり、ぼんやり佇む後ろ姿に。笑みを向ければ俺のものではない名が呼ばれて、そうして彼はわらうのだ。
     誰が呼ばれているのかは、残念ながら聞き取れない辺り余程昔の友人なのだろう。もしくは俺が、理解したくなかっただけかもしれないが。
    「久しいな。息災だったか」
    「そりゃあもちろん。
     ……先生こそ、元気?」
    「はは、何を言っている。これからこの地に、港をつくるのだと話したばかりじゃないか」
    「そっか。そう、だったね。たくさん人が、増えるといいね」
     きっと今、彼が見ているのは積み重なった記憶の断片たちなのだろう。話すたび、時系列がおかしくなっていることなんてザラだし──たまに殺気と槍を向けられることもある。並の人間だったら殺されているだろうから、こうやって彼の様子を見に来るのは俺だけでいい。
     ──結論から言えば、岩神モラクスは──否、鍾離という男はもうどこにも、いない。
     かつて相棒がきょうだいを取り戻し、全てが平和に終わったように見えて、テイワットには深い傷跡が残っている。鍾離先生もまたそのうちの一人で、とある戦いで力を使い果たし──その身に傷ひとつ負わなかったくせに、未来を見据える力を失った。
     となれば今、ここにいるのはかつての友と過ごしていたころの、悲しい笑い方を知らなかった彼だ。俺を俺と認識することもできず、自らの洞天でひとり、命が尽きるのを待っている。そんな虚しい余生を過ごす彼に、会いに行きたいと言い出したのは俺だ。
    「……ね、先生。先生は今、幸せかい」
    「ああ、とても。隣にお前がいて、この美しき世界があって……それ以上に望むものなどないさ」
     そうして伸びた手に、俺の体は一瞬拒絶するように跳ねたけれど。そっと俺の頭に触れ、よしよしと撫でてくる手は泣きそうなほど心地いい。
    「許されるなら、永久に……こうして肩を並べて、お前と」
     それでも今、先生が囁いている愛は俺へのものなんかじゃない。いつか愛した末に亡くした、俺の知らない誰かの幻。身代わりにされるのなんてまっぴらだと思っていたのに、さも愛おしいものを眺めるような、とろりと溶けた目で見つめられるのが俺以外だなんて嫌だった。
     ……いつからこんなに、女々しくなってしまったのだろう。俺たちは単なる酒飲み仲間程度の仲だったはずだ。それでも今、こうしてここにいるということは……無意識のうちに懐に入れてしまう程度には、先生を気に入っていたということなのだろうか。
     分からない。問うてももう、彼は答えられないし──俺にだってもう、理解できない感情だった。
    「……『   』?」
     そしてまた、彼は誰かの名を呼んで。泣くな、と腕に抱き込んでくる。泣いてないよ、なんて強がりが通じる相手じゃないことはもう分かっていたから、黙って抱きしめられていた。
     戻せるのなら、顔の形が変形するまで殴ってもいい。けれどそれが無駄なことも理解しているし、何より彼の心はとうに限界だった。分かっている。
     ……俺たち人間が一生に経験できる別れの数の何倍を、彼は受け止め続けてきたのだろう。今そうやって彼が生きている世界は、これ以上ないほどやさしくあたたかいものだと想像がつかないほど俺もバカじゃない。
     忘却は死だと、誰かが言った。けれどもし、そこから立ち直ったところで思い出は生き返らない。むしろ今までの苦しみが倍になって襲うだけで、戻りたくなかったなんて言われたら。それこそ俺が、単なるエゴを押し付けただけになる。
     ねえ先生、俺あんたのこと好きだったのかな。頑固で金銭感覚ダメダメで、俺のことなんか愛してくれなかっただろうあんたのこと。もしかしたら俺、とてつもなく好きだったんじゃないだろうか。
    「……っなんだよ、ほんと……」
     この世にハッピーエンドなんてない。俺も彼も、死ねば地獄に落ちるだろう。それでもこんな仕打ちなど、やりすぎじゃないのか神様、なんて。
     その罰を受けている彼もまた、神であったことを思い出す。笑えない、話だった。
    「……どうして、泣く」
    「先生が……あんまりにも、かわいそうだからだよ」
    「……はは、俺を可哀想なんて言えるのはお前くらいだろうよ。なあ、『   』」
     だってほら、こうやって抱きしめられているのは、涙をぬぐわれているのは俺なのに。先生の目はひどく遠くを見据えていて、前を向いて歩く俺とは反対方向に流されていく。いつか俺が死んで、この場所に誰も来なくなったとして──それでも彼はひとりではないのだ。ならそれでいいだろうに、全て忘れるべきは俺、だっただろうに。
     優しく俺の背を撫でる手は、槍の握り方を静かに忘れていく。俺を見つめる瞳には、もう光が映ることもないのだろうし──何よりもう、その唇は俺の名を紡がない。


     あいしている、と頭上から降る声。答えることはかなわない。
     こうなる前に伝えておけば、結末は変わったのだろうか。今更だった。けれど亡霊にすがりついて泣く俺の方が、もはやよっぽど可哀想じゃないか。
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