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    のくたの諸々倉庫

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    鍾タルワンライお題「俺のもの」「もう待てない」

    #鍾タル
    zhongchi

     璃月に限らず、港の朝は早い。やけに早く目が覚めてしまって、埠頭をうろついていれば見慣れた背中を見た。
    「あ、おはよう公子野郎! 突然だけどよ、誰かに言われてドキッとするセリフとかないか?」
    「……確かに随分と唐突だね、どうしたのかなおチビちゃん」
    「あー……それがね、別の世界にある恋愛小説の話をしたら、パイモンすごく盛り上がっちゃって」
     ぴょんぴょん、くるくる宙を舞う少女の隣、苦笑するのは旅人だ。ふむ、と顎に手を当て考えてみる。
    「……もう待てない、こいつは俺のものだ、とかかなあ。もちろん相手が強敵であることに限るけどね!」
     そりゃそうか、という反応。当たり前である。タルタリヤがときめくのはいつだって強者との闘いであり、俺が焦がれるのは強者との出会い。つまりはそういうことだった。
    「むう、公子野郎に聞いたのが間違いだったぞ!」
    「そりゃそうだよ、タルタリヤは恋する乙女みたいにはならないよ」
    「そもそも俺男なんだけど……?」
     言いながら、ふと辺りを見回した。少しばかり霧が深い。なんなら今まで隣にいたはずの旅人たちの姿が、ない。
    「……あのねえ鍾離先生、凡人は霧の中に人を隠すなんてしないんだよ」
    「む、バレていたか。だが隠されたのは旅人たちではない、公子殿の方だ」
    「えぇ……?」
     そうして霧の向こうから歩いてきた、見慣れた姿に息をつく。神隠し、という言葉がふとよぎるけれど、少なくともそのようなことをされる仲ではないだろう。
    「何が目的? 戦いたいっていうなら歓迎するよ」
     鍾離が一歩、一歩と足を進めるたび、気圧されている自分がいることを痛感する。心地よい緊張感だった。けれどなぜ、と思う間にも、鍾離は目の前までやって来ていて──
    「もう待てない、お前は俺のものだ」
     ……ん?
    「え、いや何」
     あまりにも殺気がなかった、というのが、動くのが遅れた理由だというのは認める。けれどなぜ、鍾離に顎をすくわれているのだろう。訳が分からない。
    「……む、このようなことを言われればときめくのではないのか?」
    「うわ、さっきの聞いてたの? あはは、それは俺を殺そうとしてくる相手に限る話で」
     ──ぎん、と。
     言い終わることもできない。直後死角から飛んできた、岩の槍を双剣で斬り飛ばした。
    「……どういうつもりかな、殺し合いたいならそう言ってくれ」
     飛び退り、言ってもなお無言のまま槍は降った。かがみ、かわして斬り飛ばし、全ていなせば棒立ちの鍾離はさもつまらなさそうに呟く。
    「……公子殿は嘘つきだ」
    「だから何の話かな……」
    「俺はお前の心を手にするために、こんなにも苦心しているというのに」
     ──沈黙が落ちた。
    「え、先生俺のこと好きなの?」
    「むしろ伝わっていなかったことに今驚いた」
    「いや無理でしょ、殺意マシマシで槍降らすやつに好かれた憶えないよ」
    「ならどうすれば、俺のことを好いてくれる?」
    「知らないよ……」
     さすがの傲慢だった。一気に肩の力が抜ける。
    「やっぱあんたには、一生かけても凡人は無理だよ……」
    「……そうか!」
    「あっこら嬉しそうな顔しない、強いからじゃなくて考え方の癖が人間じゃないって言ってるんだよ」
     いやもちろん、強いのは間違いないけど……と続けようとして、タルタリヤははたと気付く。この流れはまずいやつだった。
    「……もしかしてここ、好きって認めるまで出られない空間とか……」
    「俺がそのような安い男に見えるか」
    「比較的見える」
    「…………はあ」
     刹那、ぶわりと霧が晴れた。旅人たちこそいないものの、先ほどまでの埠頭で間違いない。
    「今日は帰る。次は落としてみせるぞ公子殿」
    「そういうところが安いって言ってるんだよ」
     ほんとにポンコツなんだから、と肩をすくめていれば、しかしまた目の前に転移してきた。だから凡人無理って言われるんだよ、とは言うまい。
    「……だが、お前を俺のものにしたいのは本当だ」
     石珀の瞳が、タルタリヤを射抜く。
    「忘れるな、公子殿。どのような手を使ってでも、必ず」
     動けなかった。眉を下げて微笑む姿が、うつくしい、とすら。
     頬に添えられる手。人のように、やわらかな体温。
    「俺はあとどれだけ、待てばいいだろうか──」
    「……いや、俺に訊かれても」
     だから極力、平坦な声で。告げて「またね」とその場を離れる。
     心臓がうるさいのは気のせいだと思いたかった。自分がそのような手段で口説き落とされるなど、そんな安っぽい話があるか!



    「見てパイモン、あれが下手な小細工より正面から挑んだ方がいいっていういい例だよ」
    「なるほどなあ!」
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