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    yktuki

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    yktuki

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    知らぬ間に同人誌が発行される鍾タルの話。
    10割モブしか話してないです。

    #鍾タル
    zhongchi

    それでも筆を取るのでしょう


    桃白は瑠璃亭で働く従業員の一人だ。
    店内の清掃に始まり、倉庫の整理、入荷伝票の確認、接客、会計、顧客の管理まで幅広くこなすことを要求される瑠璃亭の従業員の中でも勤務期間で言えばちょうど中堅といえるような従業員である。大きなミスもなく、調理師や管理人との仲も悪くもなく、もちろん同じ従業員たちのなかでも“普通に優秀”と言われるような、瑠璃亭の従業員であることに恥じない品行方正な人間であると自負している。
     そんな桃白の最近の悩みの種であり生きる糧でもあるのが、作家活動である。
     …作家などとおこがましいのだが、他にどう言って良いのか分からない。同好の士が集まる中で更に同じ趣味嗜好を持つ同人たちで活動を行っており、桃白は文字を綴り、本を作っているというだけの話であることは最初に言わせて貰いたい。
     自分で言うのもどうかと思うのだが、桃白は手際が良く仕事を苦だと思ったことはない。なので、その傍らで活動をしていても今までは全く問題がなかったのだが、最近はそういうわけにもいかなくなった。
     その理由の一つが璃月の変化である。
    迎仙儀式を機に暗雲が立ちこめはじめた璃月が、おかしな災害の後に迎仙儀式を迎え、彼の岩王帝君が天に還ったのだと報告された。あの岩王帝君が、璃月の民を支え導き愛し続けてくれた岩王帝君がこんな急にいなくなることがあるだろう、あるわけがない、あるわけがないのだけれど七星がそうだというので私たちは従うしかなかった。問い詰めるには相手が悪すぎたので桃白は本を書いたがこれは今までの活動の中で一番の大作になってしまい様々な感想と多少の文句をいただいたがそれは別の話だ。
    とにかく、岩王帝君がいなくなったことで璃月は人が治める国へと変化を余儀なくされた。元から商人たちが活発な国だったが、神からの信託が無い以上これからの対策も流行もなにもかもを自分たちで作り出し備え発展させていかなければいけない。
    なので、当然の様に商談が増えた。
    高額なモラが動く様な商談は各商会の商談室やもっと密やかな個室で行われるが、それよりももう少しカジュアルで気安さがある商談は瑠璃亭や新月軒のような高級料亭で接待混みで行われることが多い。
    つまり、瑠璃亭は桃白が務めはじめて以来、類を見ないほどの大繁盛なのだ。
    元から三ヶ月後まで予約が一杯という程の人気料亭なところを、「なんとか瑠璃亭で」とモラを積まれそれなりの条件を満たせば急ぎの予約をいれられることがそれなりに知れ渡ってしまったことで以前よりも急な予約が増え、更に元からの予約をないがしろにすることも出来ず、そこに更に数ヶ月先の商談のためにと予約は増え続け、以前よりも勤務時間も出勤日も増えた。
    それにより、手際が良く作業効率の良い桃白であっても執筆活動にかける時間が以前よりも短くなってしまったのだ。働き終わって家に帰ってご飯を食べてさぁ書くぞ!と机に向かう頃にはもう月は夜空の真上に来ている日ばかりで、いざペンを握っても疲れのせいであまり筆が乗らない日も少なくなかった。
     …それでも、桃白は今までで一番の大作を書き上げたのだ。だから、こればかりが問題という訳では無いし、なにより今の桃白を悩ませているのは疲労だとか時間が足りないと言うことでは無い。
    つまり、もう一つの問題こそが桃白の今一番の悩みなのだ。
    「やぁ、鐘離先生は今日も早いね」
    「公子殿こそ、待ち合わせ時間にはまだ早いが?」
    「俺は接待する側だからね、相手を待たせるのはマナー違反だろ?」
    これだ。…いえいえお客様に対して、しかもかなりの上客に対して“これ”だなんて言ってはいけない。この方々こそが悩みの種そのものである。
    一人はスネージナヤからやって来たファデュイと呼ばれる集団に所属する外交官。「公子」タルタリヤ様。
    璃月港でも見逃すことが難しいほど影響力を持ち始めた北国銀行の現在の最高責任者である青年で、間違いなく桃白よりも若いが間違いなく桃白よりも収入が多い青年だ。なにせ初めての来店時から急な予約をモラを積んで通し、食後には対応への感謝と「今後もご贔屓にと言う意味だよ」とかなり色の付いた金額を当然の様にこちらに握らせてきた猛者だからだ。もしかしたら経費なのかもしれないが、その経費を動かせる人物というだけで既に桃白が負けていることは想像に難しくない。
    そしてなにより、送仙儀式前後に流れた悪評の根元に常にいる人物こそが彼だ。
    突然の嵐を呼んだ犯人だとか、そもそも岩王帝君を殺害した張本人だとか、璃月で起こる事件の裏にはまずこの男がいるのだとか、もう何でもありな時期があった程だ。
    もちろん、もちろん桃白はそんな噂なんて信じてはいなかったが、…だって帝君が人ごときに負けるなんてことあるわけがないのに、お客様がそんな噂話をする度に「あらやだおほほ」と言いながらお水の杯を頭から被せたくなった事が何度もあったのでその時期の桃白は荒れに荒れていたし、そのおかげで本はどんどん厚くなっていった。
    閑話休題。
    良くも悪くも目立つこの青年は、客として見ればとても優秀なお方で、予約が急なことを除けば金に糸目を付けずに注文をし、店員に偉そうに振る舞うことも無く、慣れない食文化に対しても文句を言うことも無く「美味しい」となんでも食べ、はじめは下手くそだった箸の使い方もいつの間にか上達させ、商談の度に瑠璃亭を贔屓してくれている。
    立場が上になればなるほど人は高慢になっていくものだが、公子様は従業員にそんな態度をとったことは一切無く、店を出るときには俺だとチップを握らせてくることもある。それは困るのでお断りしているが。
    そして、とても即物的な話なのだが、なかなかの美形なので従業員たちの中でも評判はとても良い。異国からやって来た美形の好青年なんて年頃の女の子たちからしたら話題の種でしか無いのだ。
    たとえそれがテイワットに武人として名を知らしめている傑物だとしても、うら若き乙女たちには関係が無い。せいぜい筋肉もしっかりしているのね!という黄色い歓声に変わるだけだ。
    そして、もう一人が往生堂の客卿である鐘離様。
    往生堂で主に仙を送ることを目的にした葬儀を担当し、それ以外の場面でも広く深い知識で璃月港の様々な人々に助言を行っている御仁で、桃白も個人的に何度が尋ねては璃月の歴史について教えて貰ったことがある。
    その知識の深さは正に海のようで、尋ねれば大抵のことは彼の意見も添えながら丁寧に解説をされ、まるで本当に見てきたかのような鮮明な知識を耳にした者は彼に対する尊敬の念を深めていく。
    噂では岩王帝君の送仙儀式を行ったのも彼だと言われているが、これに関しては怖くてまだ聞けていない。そもそも仙を送るための儀式なんて探しても書物として残っていないことを本当に行えるのだろうかという疑問もある。あるのだが、きっと彼ならば出来てしまうのだろうと誰からも思われるようなそんな人だ。
    そんな知識人なのでお堅い人なのかと思いきや知識を求められれば快く語りだし、穏やかに茶を飲み、以外とよく笑う。特に璃月の話をするときや、璃月の事を褒められたときは凄く嬉しそうにするので勝手に親近感を抱いていたりする。璃月、良いですよね。
    そしてなにより、鐘離様もとてもお顔か美しい。ご尊顔というに値する。
    もちろん見た目の美しさだけではなく、立ち姿も所作も全てが美しいので若い女の子だけではなく港のご婦人方からの人気も高い。
    「こちら、天枢肉となります」
    「ありがとう」
    「それでは、いただこう」
    そんな二人が、何故かとても仲が良いのだ。
     もちろん、他人の交友関係に口を出すつもりは無く、お二人の関係性も一応は把握しているのだが、仕事上での雇用関係に近いギブアンドテイクの関係…と言うには、あまりにも距離が近い。
    まるで数年来の友人のような、ともすれば気の置けない家族のような親しみを感じることもあるし、時には一線を引いたような仕事人としての会話をする場面に出くわすこともある。
    「それで、先日依頼した調べ物は終わった?」
    「無論だ。後日エカテリーナ殿に届ける手筈になっているが」
    「手間じゃない?帰りに往生堂寄るからその時渡してよ」
    「了解した」
    新しい杯にジャスミンティーを注いでいる間にも軽快に会話が進んで行く。
    仕事仲間にしてはあまりにも気軽で、しかし無駄の無い会話は聞いていても不快感が無く気持ちが良い。お二方の会話は常にそんな感じで、会話のテンポが早く、回答までの間が短いが見当違いな返答をすることはお互いにあまりないような気がする。
    商談にありがちな相手に対して優位に立とうという虚栄や見栄のようなものも、威厳を出すための恐喝めいた言葉も使われず、淡々と進んで行く会話は桃白が友人たちと交わすそれとよく似ていた。
    「それでは、ごゆっくりお召し上がりください」
    そんなお二方が瑠璃亭にはそれなりの頻度で訪れるのだ。
    それもこれも舌の肥えた鐘離様の推薦と、その権力と財力で瑠璃亭の予約を取れてしまう公子様のおかげなので店としても桃白としてもとてもありがたいのだが…そのありがたさこそが一番の問題なのだ。
     もう明け透けに言ってしまうが、ネタにしたい。
    そもそも桃白が日頃書いている話は“姿を変えて現在の璃月で生活する岩王帝君”が主題となっているものなのだけれど、そんな“現代にいそうな岩王帝君”として一番理想に近いのが鐘離様なのだ。
    汲めども枯れることの無い泉のような知識や、この世の全てを見極めることが出来るのでは無いかという審美眼、凜と立つ姿は不動の岩のようで、石珀色の瞳は璃月の鮮やかな色彩を映して孤を描く。青年の姿の帝君を想像(創造かもしれない)する際にこれほどまで理想通りの人物は今の璃月にいないのでは無いかと思う。
    そんな鐘離様が、往生堂で働いていることもあり余り人付き合いが広いとも深いとも言いがたいあの鐘離様が週に3度は食事をされている相手がいて、しかもそれが異国の武人ときたものだ。
    これほど物語映えする組み合わせが他にあるだろうか。
    ない。
     しかし桃白にも瑠璃亭の従業員としての責任や人としての常識が備わっているので「良い!」と思ったからと言って即座に物語にしてしまうようなことはしなかった。自分が楽しくても見識の広い鐘離様がなにかのきっかけでその本を読んでしまったら?異国の文化に触れるということで公子様の手に渡ってしまったら?往生堂の従業員や北国銀行の異邦人たちの目に入る可能性は?もしそれを読んで、知り合いを好き勝手に書かれて楽しい気持ちになるだろうかと考えれば否なのだ。
    だからずっと我慢をしていた、どんな素晴らしい題材が目の前にあろうとも、いつ見ても鐘離様が理想通りのお方だとしても、公子様の意外な一面を知ってしまっても、桃白はちゃんと耐え続けていた。
    だというのに。
    「それよりどう?俺と手合わせする気になった?」
    「そんな契約をした覚えは無いが」
    「つれないなぁ」
    ある日には鐘離様は武道も堪能であると言うことを知ってしまったり。
    「ふむ…この味は以前どこかで」
    「俺が作ったやつじゃない?出汁の味が似てる」
    またある日には公子様は料理を嗜み、それを二人で食べる様な仲であることを察せられたり。
    「はい、お会計ね」
    「先に出ているぞ」
    先日は鐘離様がどうやらモラの扱いに関してかなり緩い方であると知ったり。
    日々新しい発見があり、そんな凸凹なコンビで物語を書いたら絶対に面白いに決まっていると営業スマイルの裏で歯を噛みしめること数十回。
    気がつけば、プロットができあがってしまっていたのである。            鐘離様の姿形を惜しみながら大部分変更し、公子様の出身地を変え、ついでに年齢も変え、当然職も変えた…それでも自分で読むと本人たちの名残が残ってしまっているような気がして、一夜で書き上げてしまったプロットも気の迷いであったと燃やしてしまおうと思ったのだが。
    「今日はスネージナヤから手紙が届いてね」
    「ほう、上機嫌の理由はそれか」
    「そうそう、可愛い弟たちから贈り物まで!こんな日は飲むしかないね!」
    今日、公子様が故郷の家族に対してそれはもう顔を緩ませ、そんな公子様を見て穏やかに微笑む鐘離様を見てしまったのがいけなかった。
    なんとか営業スマイルを保ったままお二方をお見送りし、閉店までの作業を黙々とこなし、早足で家に帰って燃やそうと思った原稿用紙を掴んでからの記憶は曖昧で、朝になったころには原稿の束は昨日よりも厚くなっていた。
    作家のはしくれとして、もうここまで来てしまったらどんな歪でも一度形にしてしまった方が楽だと腹をくくり、友人たちに相談をしながら設定を詰めていく。
    絶対にバレてはいけないし、匂わせてはいけないと念押しをしながらの話し合いの中で友人たちは何度も「今までで一番狂ってる」「設定は最高」「あの顔を活かせないとか本気ですか?」と呟いていたが、そんなことは桃白が一番思っていることなのでこれ以上揺らがせるはやめて!と嘆くとこ幾度か、ついに設定が固まり、それを元に再度プロットを練り直し、そして気がついたら本ができあがっていた。
    ここ最近では一番の発刊スピードである。フォンテーヌから取り寄せたタイプライターを操る手は自分のものとは思えない動きをしていて我ながら少し引いたが、長い間ため込んでいたあれやこれが形になったことで桃白はつい気持ちが大きくなり、絶賛する友人たちに乗せられその本をモンドの出版社の新人発掘企画とやらに応募してしまった。
    まぁ今までの本だって璃月の小さな即売会で数十冊売れれば良いほうと言うような趣味の発散でしかなかったし、応募したからと言ってどうなるとも思えないちょっとした記念受験の気持ちというか、言ってしまえばランナーズハイでしかなかったのだが…なんとうっかりその新人発掘企画とやらに受かってしまったらしいと通知の手紙に気がついたのが返信期日の二日前で、瑠璃亭でのバタバタとした常務の傍らで混乱しながら返信をし、その後の対応に目を回している間、いつの間にか岩王帝君の化身である骨董屋の青年とフォンテーヌの少年武人が出会い事件を解決していくバディ本はモンドでハードカバーで発刊され、それなりに売れ、売れ行きが好調だったので璃月でも販売されることになった。
    「やはり帝君は最高…」
    「フォンテーヌ行きたくなっちゃったなぁ」
    「帝君こそやはり全てを見守り庇護する存在」
    「少年の行動原理が家族って知って駄目だった」
    そして、気がついたらこの有様である。
    いつもよりライトな話を書いたという自覚はあったが、まさかここまで民衆に読まれ話題になるとは思わなかったのだ。
    もうどうせなら盛りに盛って自分の趣味をぶつけた方がバレないのでは無いかと酒の入った友人たちと練った設定はとてもキャッチーだったらしく、気がつけば瑠璃亭の中にも桃白の本を読んだ従業員が増え、フォンテーヌに聖地巡礼に行きたいなどと言いだしはじめたのでさりげなく止めた。写真と新聞で見ただけの付け焼き刃のフォンテーヌ観光名所であって、決して聖地と呼ばれるような場所では無い。
    しかしそれだけなら…良くはないがまだ良かった。
    流石に本人から魔改造したことによって北国銀行からも往生堂からも苦情が入ることも無く、桃白にも少しばかりではあるが印税というものも入ってきて悪いことばかりでも無いなと思い始めて来た頃、世の中に二次創作というものがあることを知ってしまった。
    そう、出ていたのだ。骨董屋帝君と少年武人の二次創作と言うものが。
    モンドにはそのような文化があることは知っていたが、まさか璃月でも発足するとは思わなかった…が、確かに璃月は芸術を愛する国、人をを見ては詩をうたい、景色を見ては絵を描き、書に感銘を受ければ書にしたためるのは道理なのかもしれない。

    真実を知っているのは桃白本人と数人の友人たちだけで、友人たちは対岸の火事であると焦る桃白を酒の肴とし笑いながら「大丈夫」と言ってくれている。
    しかし今日も今日とて職場で元凶…いや、もうここまで来れば彼らこそが被害者なのだが、そんなことは露も知らないお二方を相手にしなければいけない桃白はそこまで暢気にもなれないのだ。
    …なれないのに、つい好奇心で読んでしまった二次創作を思い出しては、百面相をこらえて営業スマイルを浮かべ、今日もお二方の背中をお見送りしながら懲りずにこう思うのだ。

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    yktuki

    DONE遊ロア。逆襲のシャイン放送前捏造。砕けてもダイアモンド


    様々な事情から遊我、ロア、ネイルの3人チームでのラッシュデュエル大会の出場が決まった夕刻、今日はチーム登録を済ませるだけで解散だと各々の家へと帰ろうとした遊我の腕をロミンがぐいとひっぱった。
    「どうしたの、ロミン」
    「ロアのやつ、何でもないみたいな顔してるけどきっと凄く落ち込んでると思うの」
    「そうかな」
    「そうよ!」
    こそこそと話すロミンの横ではルークが明日に向けて今夜はラーメンで乾杯だ!と腕を振り上げ、ラーメンは飲み物ではありませんよと学人が苦笑いを浮かべている。
    「私が一緒にいるべきかもしれないけど、ルークの奴がチームで決起集会だって言うから…」
    どうしたどうしたとこちらに寄ってくるルークに見えないように手を合わせて頭を下げるロミンに、なるほどと笑って遊我は頷いた。
    「分かった、ロアはボクのチームメイトでもあるしね」
    「流石遊我!ありがと!」
    「なんの話だ?俺たちは今からラッシュラーメンを食べに行く。チームの決起集会ではあるが?遊我がどーーーしても来たいというなら仕方がない一緒に――」
    胸を張りながらもチラチラとこちらを伺うルークに申し訳なく思いながらも 4090

    yktuki

    DONE知らぬ間に同人誌が発行される鍾タルの話。
    10割モブしか話してないです。
    それでも筆を取るのでしょう


    桃白は瑠璃亭で働く従業員の一人だ。
    店内の清掃に始まり、倉庫の整理、入荷伝票の確認、接客、会計、顧客の管理まで幅広くこなすことを要求される瑠璃亭の従業員の中でも勤務期間で言えばちょうど中堅といえるような従業員である。大きなミスもなく、調理師や管理人との仲も悪くもなく、もちろん同じ従業員たちのなかでも“普通に優秀”と言われるような、瑠璃亭の従業員であることに恥じない品行方正な人間であると自負している。
     そんな桃白の最近の悩みの種であり生きる糧でもあるのが、作家活動である。
     …作家などとおこがましいのだが、他にどう言って良いのか分からない。同好の士が集まる中で更に同じ趣味嗜好を持つ同人たちで活動を行っており、桃白は文字を綴り、本を作っているというだけの話であることは最初に言わせて貰いたい。
     自分で言うのもどうかと思うのだが、桃白は手際が良く仕事を苦だと思ったことはない。なので、その傍らで活動をしていても今までは全く問題がなかったのだが、最近はそういうわけにもいかなくなった。
     その理由の一つが璃月の変化である。
    迎仙儀式を機に暗雲が立ちこめはじめた璃 6778

    yktuki

    DONE鍾タルは添えるだけ。
    誤字脱字は後々直します。
    智の渦に溺れるなかれ

    香菱がいる時の万民堂に外れはない、と言うのは璃月では知る人ぞ知る有名な話ではあるが、大衆食堂という形式をとっている以上それが例外になる場面は稀にある。
     例えば、千客万来で店が一等忙しいとき。それかお酒が回った客がはしゃぎすぎたとき。そしてなにより、今。
    「はじまりました!万民堂格付けチェック!今日の特別ゲストはスネージナヤの使節様だよ!」
    いや、なんだこれ。
     仕事が終わった足で旅人に呼ばれるままにタルタリヤが万民堂に来てみれば、夜の璃月には珍しくもない酔っ払いたちの真ん中で万民堂の人気を支える件の看板娘が木べらを片手に椅子の上で音頭をとっていた。お行儀が悪いから止めた方が良い。
     その直ぐ横には香菱の言葉に併せて楽器をかき鳴らす娘さん(たしか辛炎と言ったか)がこちらもご機嫌に身体を揺らし、その横ではニコニコと笑う少年が暢気に茶を啜っていた。
    「提供は飛雲商会さん!代表代理として行秋君から一言どうぞ!」
    「皆さん頑張ってください。あと僕の独断なので兄たちにはご内密にお願いします」
    いや、なに言ってんの本当。
     重ねて言うが、仕事が終わった足でここに訪れたタルタ 5408

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