川の字で寝た事が嬉しくて怪異の記憶が薄い也くん大学時代、グループで話の流れで怪談話が始まり、話を振られる也くん
うちの也くんは自身が強すぎる光のため、怪異は見えない設定なので「うーん……そういうのは無いなぁ」となる訳ですが、そういえばと思い出したことがあった。
村に来てしばらくして慣れ始めた頃、高熱を出して寝込んだことがあった。当時小学生だったし、精神的な疲れもあるだろう、今日はゆっくり寝ているように、と寝かしつけられたがなんとなくK先生がおこっているように見えて怖かった。合間に富永先生が様子を見にきてくれて濡れタオルを新しくしてくれたり、水分補給を促してくれたりした。だからぽろっとK先生が怒っているのか聞いてしまった。富永先生はびっくりした顔をして、どうして?と聞き返した。僕は自分が体調を崩した事が原因じゃないかって思っちゃったんだよね。K先生がそんな事で怒るはずもないのに。そしたら富永先生は頭を撫でて「大丈夫だよ、Kが怒ってるのは別の事さ」と慰めてくれた。
「さ、これを食べて解熱剤飲んでもう一眠りしよう」
イシさん特製玉子粥だよ~、と土鍋から茶碗によそって差し出されたそれを僕は迫上がってくる涙を高熱のせいにしてかきこんだ。
次に目を覚ました時は日はとっくに沈んでいて、K先生が着替えを持って部屋に入ってくるところだった。
「起こしたか」
僕は首を横に振った。頭はくらくらして全身汗だくだった。
「動かなくていい。着替えさせるぞ」
K先生がテキパキと汗を拭いて着替えさせてくれたおかげで少しスッキリしたきぶんになった。お礼を言うと「気にするな」と頭を撫でてくれた。ご飯は食べられそうになかったからゼリー飲料をもらい、薬を飲んだ。
「少しだけ我慢してくれ」
そう言ってK先生は僕を抱き上げて別の部屋に移動した。運ばれた先はK先生の部屋だったんだけど、初めて入ったものだからどこか分からなかったんだよね。そこにはすでにパジャマを着てベッドに腰掛けてる富永先生もいて、K先生と僕の症状について話しながら僕を大きなベッドに寝かせた。富永先生は僕の右隣に横になった。えっ?って声出ちゃったよね。K先生も「戸締まりしてくる」って一回出てっちゃうし富永先生も「いってらっしゃい」って送り出しちゃうし。(別の意味で心拍数が上がったがそれは皆には言わなかった)
「一緒に寝るんですか……?」
「そうだよ、Kもね」
ぽんぽん、とお腹をあやすように叩かれて嬉しいやら恥ずかしいやらだった。そのうちK先生も戻ってきて、今思えばK先生は自分の部屋なのに「富永、開けてくれ」「本日最初の外来患者は?」「大塚さんだ」「どうぞ」っていうやり取りからおかしかった。
K先生は富永先生が言った通り僕の左隣に横になった。川の字ってやつは初めてのだったし、誰かと一緒に寝るなんて本当に久しぶりだったからやっぱりちょっと楽しかったよね。くふ、と笑っちゃったら富永先生と目が合って、富永先生もくすくす笑ってくれたから嬉しくなっちゃった。
おやすみ、おやすみなさいって言って電気を消した。
「……よく三人ベッドに寝てベッド壊れなかったな?」
話の腰を折ると分かっていても突っ込まずにいられなかった。成人女性、小学生、そしてあの規格外の成人男性の三人は普通のベッドなら壊れてしまいそうだ。ましてK先生は今の一也に劣らぬ筋肉の持ち主である。筋肉は重い。いつもならうるさいと一喝する夕紀も頷いてしまった。
「村の人が特別頑丈に作ってくれた逸品らしいよ」
大きめに作ってくれたみたい、と返すとなるほど……?と一応の決着が着いたので続きを促す。
それで何時間か眠った頃だったかな。真夜中だった。突然ダンッ!ってドアを叩く音が聞こえたんだ。僕は飛び起きて声を上げそうになったけど、富永先生が「大丈夫だから声を出してはダメだよ」と抱き抱えた。K先生は暗闇でも分かるくらい怒った表情でベッドから起き上がり、ドアを睨んだ。僕が最初に怒ってるって思った表情と同じ顔だった。
「うるさい」
ドアを叩く間隔がどんどん短くなっていってしまいにはドアが外れるんじゃないかってくらいガタガタいい始めていた。
「お前らは患者ではない。どうして診療所内に入ってきた」
K先生は何かに立ち塞がるように立っていて、富永先生もドアを睨み付けていた。
「お前達にくれてやるものはここには何一つ無い。帰れ」
K先生がドアに向かってお酒を撒いてバンッ!て叩いたらノックが止んで静かになったんだ。不思議なことにお酒の匂いはしなかった。
(ベッドと同じくよくドアも無事だったな……、と思ったが口は挟まなかった)
「……帰りました?」
「おそらく」
寝るか、と言ってK先生も富永先生もちょっとホッとした様子でまた川の字になって横になったんだ。僕は熱でよく回らない頭でなんだったんだろうって考えようとしたら富永先生に「遅いからもう寝ようね」と止められた。またぽんぽんされていつの間にか寝ていたんだ。次の日にはもう熱は下がってた。
「おはよう、熱は下がったみたいだね」
「おはようございます!はい、ご迷惑をおかけしま……」
「ストップ!迷惑だなんて思ってないからそこはありがとうでいいんだよ」
僕はそうだよなって思い直してお礼を言った。富永先生はよし!と言って頭をわしわし撫でてくれた。
「あっ!ごめん!塩触った手で撫でちゃった!」
そういえばちょっと頭がざりざりするなって思った。けど昨日の汗もあるし、シャワーでも浴びようかと思ってたから大丈夫ですって答えた。
「わー、ごめんね。次は気を付けるよ」
富永先生はそう言って持ってた紙袋の中身ーー塩を鷲掴みして窓にぶつけてた。窓には無数の手形があったんだ。もしかして昨日の……、と言ったら富永先生は「多分診療所に入れもしなかったやつだからそんなに強くないよ」って言ってまた塩をぶつけた。不思議なことに塩をぶつけたところが拭いてもいないのにキレイになってくんだよね。
熱を出したのはK先生の見立て通り、精神的な疲労もあったんだろうけど、色んな機能が弱まって向こう側に連れていかれそうになってたみたいで。それをK先生と富永先生が守ってくれてたんだ。
K先生も玄関先で真っ黒になった盛り塩を片付けてて「より強い結界を作らねば」って呟いてた。
「ーーっていうことがあったくらいかな」
「………………」
仙道ら五人は言葉を失う。最後の最後でガチ中のガチなやつがきてしまった。くらいじゃねーよ、くらいじゃよぉ……!とこちらが話を振ったにも関わらず理不尽にもはっ倒したくなった。心の準備をさせてほしい。
とりあえず次から絶対に怪談系は黒須に振らないことにしよう、と五人の思いが一つになった瞬間だった。