進パパを説得(やや力業)する人先生父である進太郎がわざとらしいタメ息を大袈裟に吐く。
「K先生からも言ってやってください。出会いなんぞ無いんじゃからとっとと見合いして身を固めろと」
「………………………は?」
岐路で自然消滅かなと思っている富と遠距離になったと思っている人が無駄なきで再会して収まるところに収まる話
「私はこの先、富永研恵以外の女性を愛することはありません。………お嬢さんを私以外と結婚させると仰るのなら、Kの系譜が一つ消えますね」
明らかな脅しに進太郎の方が息を飲んだ。神のごとき技術を持つ『スーパードクターK』の伝説は進太郎世代の方がよく知っている。まさかそれが現実にいようとは思わなかったが。ましてや神代は当代のKである。その血筋を絶やすのも絶やさないのも富永に血を繋ぐことを強要してきた進太郎の言葉一つという脅しがのし掛かる。
「……か、研恵が良いと言うか……」
「おや、本人の意思を無視して見合いをしろと仰ったのに?」
今日のKはとことん意地悪だぞ、と富永はもう面白くなってきてしまった。あれだけ富永が嫌だと突っぱねても釣書を持ってくることを止めなかった父が言いくるめられているのはちょっとだけ納得がいかなかったが、溜飲は下がったので良しとしよう。
「け、K先生の奥方となられるのなら側で支えられる方の方がよろしいのでは」
「側に居るだけが支えではありません。例え遠く離れていても志を同じくする医者が居るというその事実が、私の心や信念を支えてくれるのです。その事に気付けたのも研恵さんが居たからなのですよ」
こちらが何か言おうものならその全てを論破してやるという圧をピリピリと感じる。つう、と冷や汗が何故か頬を伝った。
「……何故、そこまでしてウチの研恵を」
一人は自分の持ち得る全てを使って進太郎を納得させようとしている。
ドクターKという医学界の絶対的なヒエラルキーのトップ。それに引き換え娘はどこかの偉くて有名な教授からスカウトされたらしいが、どこにでも居るような女医だと進太郎はそう評価している。
「――一目惚れ、というやつです」