政略結婚はどこかへ去ってしまいました政略結婚ネタが降りてきたけど元祖タヌキの進太郎パッパが没落するイメージがまず無いのでどうしたものやら。
明治とか大正の良家のお嬢さんは女学校をちゃんと卒業せずさっさと結婚して退学するのが普通とされていた時代かな(金カム知識)
富は本当は医者になりたいのでちゃんと勉強したいんだけど一人娘だしいずれ誰かと結婚しなきゃとは思ってる。医者の勉強を許してくれる人がいいけどそんな人居るわけ無いと半分諦め、半分諦めたくない。ギリギリまで足掻いて踠いていたい。
そんな折、進太郎パッパが何者かに暗殺されてしまう(ごめんパッパ)
夫を失って焦燥してる母と二人、これからどうしようってなる。家や財産はなんとか守ったけど後ろ楯が無い。富が奔走するけど小娘一人に何が出来ると嗤われ緩やかに衰退していく。
あるいは騙された親戚が進太郎パッパを騙って逃走、取り立てが来て違うと言うが取り立てにはそんな事関係無い。払えないなら娘を売れと迫る。
仕方なく肩代わりしてやると良くない噂が立ってしまう。ちなみにその親戚は逃げたままだし噂の出所は悪徳取り立て。富永家からもっと搾り取ってやろうという魂胆。
瀬戸先生とか堀田先生、富永医院勤務医さん達は富永家に仕えてる。そんな噂が立っても富永家の潔白を信じてますし、昔から付き合いのある町の人達も言わずもがな。そんな人達の信頼を裏切れない。何とかして家を建て直さねば、と富は唯一手を差し伸べてくれた神代家からの見合いを受けます。
正直神代家は富永家より格上だしわざわざ落ちかけた家に見合いなんか申し込まなくても引く手数多だろうに……、何か裏があると勘ぐりつつも嫁入りを決意する。
夫となる一人とは輿入れの日に初めて顔合わせした。役者顔負けの美丈夫が硬い表情で座っていて、この人も無理矢理だったのかな……、と同情してしまう。
「(ごめんなさいね、こんな平凡な女と結婚させてしまって。本命がいるのならせめて邪魔はしませんから)」
胸中で詫びながら三三九度を行った。
まあ一人の本命は富ですがね!!
実は学生時代の人と富は出会っている。氷と下校中、酒乱の男が母親と幼い子供に絡んでいる場面に遭遇。(これ譲とその母親はどうだろう)どうやら男は旦那で、その旦那から母親は子供を連れて逃げていたようだった。ただでさえ観衆から遠巻きにされていたのにどんどん人気の無い路地へと追い込まれる親子。喚いていた男は刃物を取り出して母親を脅し始めた。まずいと思った人は男を後ろから羽交い締めにし、親子に逃げろと叫ぶ。腰が抜けたらしい母は幼子を抱き締めるばかりで動けない。氷は警察を呼びに行ってしまった。男は無茶苦茶に暴れるので人も押さえつけるので精一杯。せめて握って離さない刃物くらいどうにかしたい。そんな時、自分達の横から現れたのは同じく下校中だった富。人達と同じく騒ぎを見ていてここまで着いてきたようだった。
「立てますか!?」
富は母親の視界から男が見えないように前に立ち、手を差し伸べる。震えているばかりだった母親はハッとして富の手を借り、立ち上がれた。富に支えられ、何とか路地を脱出。氷も警察を連れて来てくれて男を引き渡そうとした。気が弛んでしまったのかもしれない。男は人の拘束を振りほどき、警察二人を押し退け、まだ近くにいた富と親子に襲い掛かろうとした。
「っ!!」
何の躊躇もなく親子を守り庇うように両手を広げる富。ただし目はぎゅっと瞑って首を引っ込めるように固くしていた。男は三人に届く前に氷が足引っかけて転ばせて確保。警察に引き渡し、親子も駆けつけた応援に任せた。
男が暴れた時に引っ掻いたか刃物の切っ先がかすったか、人の頬に一筋血が滲んでいる。それに気付いた富永がハンケチでそっと押さえてくれる。近くてびっくりする一人、こういう時は邪魔をしない氷室。
「深くは……なさそうですね。帰ったら消毒してくださいね」
一人の手にハンケチを握らせて「それでは失礼します」と去っていく富永と再起動できない一人。
家柄的にも本人のスペック的にも引く手数多(たまに行くカフェーで一番人気の給仕に手紙もらったりしてるのもそれを袖にしているのも知ってる)なのに誰にも靡かなかったあの一人が!お礼も言えないくらい固まるなんて!村井さん!今日は赤飯ですよ!と人を揺さぶる氷室。一人再起動早よ!富を見失うぞ!
再起動ならず見失う人&氷。
見知らぬ人を庇うその姿が忘れられない人。察する氷。
氷「惚れたか」
人「!?」
えーこれ、バレてないと思ってたの?ただ漏れよ?
ちなみに返しそびれたハンケチはずっと持ってるし最後あたりで出番があるよ!
後日富の事を探すとわりとすぐ分かった。富永家のお嬢さんらしい。どうにかしてお近づきになれないかと悩んでるうちに変な噂が立ってしまって力(人が離れていく)を失っていく富永家。まずいやばいと焦った人は何とかして見合いを捩じ込んだ。※人は父が失踪しているので神代家当主を継いでいます。そして人が富を好きなのは全員知っています。知らないのは新参の女中くらい?その新参女中がやらかすフラグ。
そんなことは知らないし覚えていない富は結婚してからしばらくひとりで過ごしている。ちなみに初夜は何も無く、別室で寝てるし食事は別。何なら女中さん達の方が会話している。暫く外に出るなと言われて何不自由なく過ごさせてもらっているけど、それだけ。
ほとんど身一つで神代家へやってきた富に一人は何も求めない。抱いて子供を作ろうともしない、仕事を手伝えと言う訳でもなければ家の事を任せる訳でもない。何のためにここに居るのだろうと鬱々とした気持ちになる富。それでも実家の事を思い、踏ん張らなきゃ、と堪える。
一人を出迎えたり、何とかして接点を持とうとするけど梨の礫(緊張しているだけです。一人が。なので村井さんとかは「坊っちゃん……」となっているしイシさん達には「何やっとるんか」とせっつかれる)
日中あんまりにも暇なので勉強を開始する富。金目の物はほとんど売ってしまったけど最初に読んだ医学書だけはこっそり持ってきていた。何度も読んだものだけれど手放せなかった。
ある日、熱中し過ぎて出迎えが遅くなってしまう。一人は何かあったのかと部屋へ様子を見に行く。初めて富の部屋を見る。神代家が用意した調度品は使われた形跡が無かった。
一人に気付く富。
「あっ……!申し訳ありません!」
いや、と答える一人に「やっぱりこの人、私には興味無いんだな……」と分かっていたけれど落ち込む。そんな富の内心に気付かないけれど一人は読んでいた本の内容に気付く。
「……少し、いいか」
「……?」
一人が連れていったのは書庫。
「わあ……!」
神代一族が長年に渡り集め続けた医学や薬学の膨大な蔵書だった。
「ここにあるものは自由に読んでかまわない」
「えっいいんですか!?」
素が出る富。目がきらきらしている。眩しい。初めて見る表情に目を丸くする一人。富に魔の手(魔の手って……)が伸びないように隔離することに頭がいっぱいで富自身に目を向けていなかったことを反省する。
「……俺は、よく言葉が足りないと言われる」
はあ、と富は答える。いきなり始まった会話をとりあえず飲み下す。
「あなたの事を疎ましいとか嫌いとか、そんな事は一切なくて、」
その、と言葉を紡ぐ一人に富は「(ああ、この人も戸惑うんだ)」と少しだけ一人に触れられた気がして。ここに来て初めてまともな会話をしている二人。
「あの、手始めに今日のお夕飯、ご一緒しませんか……?」
こんな不器用で情けない男に怒るでもなく寄り添おうとしてくれる優しさに一人は頷くしか出来なかった。
そんな風に食事を一緒に取ったり、富が本の内容について質問してきたりと少しずつ距離が近くなってきたあたりに実家に帰っていた母が倒れたという電報が届く。
一人に断りを入れ、1人で向かおうとする富を引き止めて自分も行くと言い出す人。人はまともな挨拶もせず富永を手元に置いている事を後ろめたく思っていたので。村さんに後の事を託して朝一で出発する二人。
焦ったのは新参女中ですよ。邪魔者(富)を追い出してその間にお手付きになろうとしていたのに一人まで出ていくとは思っていなかった。そしてその思惑は村さんにしっかりバレています。二人を止めなかったのは嘘でも何かのきっかけになるだろうと思ったからでした。新参は解雇になりました。
道中不安そうな富の肩を一人はずっと抱き寄せていた。
母方の実家に辿り着くとそこに居たのはピンピンしている母の姿だった。
「研恵?どうしたの急に」
「どうしたじゃないよ!倒れたって電報が来て、心配したんだからね!」
電報なんて打ってないし何より自分は元気なのでよく分からないが、嫁いでから顔も見ていなかった娘の姿が見れた。痩せては居ないし元気そうなので良かったと思う富マッマ。
「……何ともなくて良かったぁ……」
ぎゅう、と母を抱き締める富。抱きしめ返すマッマ。
荷物全部持って後ろからやってきた一人に気付いた富マッマ。
「ご無沙汰を……」
「遠いところまで来て下さりありがとうございます。さあさ、中に入って休んで下さいな」
事のあらましを聞いている間に今度は神代家というか村井さんから電報が届く。こちらは大丈夫なので2,3日ゆっくりしてきて下さい、と。富マッマは無事だったし、親子水入らずを邪魔しては悪いから先に帰ろうとしていた一人。富マッマの「折角だし温泉にでも行ったらどう?富、案内して差し上げなさいよ」という追撃もあって旅館へ一泊することに。
ここでようやく初夜を迎える二人。翌朝富が起き上がれなくて帰るのを1日ずらした。
神代家に戻った二人は夫婦としてお互いを支え合い、富永家の嫌疑を払拭し末永く仲良く暮らしましたとさ。ちゃんちゃん!