ゲドウ10黒いリトの姿に変化したリーバルは、イーガ団のアジト付近に音もなく舞い降りた。
内部に向かう大岩のアーチは崩され、岩の塊がゴロゴロと積み上がっている。
これでは、奥にアジトがあるとは到底思えまい。
辛うじて中に入れそうな隙間を見つけると、リーバルはそこから身体をねじ込んだ。
人の気配はない。
淀んだ空気が停滞して、まるで時が止まったかのようだった。
あちこちの飾り棚に供えられたツルギバナナが散乱していて、リーバルはそれを1つ拾うと元の場所に戻した。
寝床。がれきが散乱していたが、踏み荒らされていない敷き布には、寝汚い構成員たちがそのまま抜け出たように皺がついている。
2階の食料庫は、平常通りツルギバナナがバカみたいに積み上がっていた。
飽きもせず同じものばかり食べ続ける団員達を思い出し、リーバルは思わず笑う。
スッパの部屋を覗いた。元々物がないから変わりはないが、きっちりと畳まれた白い夜着が枕元にあった。
いつもコーガが座していた部屋は、床が踏み抜かれて柱が折れ、巻物や書簡が散らばっている。
書類仕事になんて取り組んでいる姿は見たことは無いが、どこにこれほどのものが隠れていたのだろうか。
最奥に向かい、裏口から広場に出た。アジト内部の敷地よりもだだっ広い、大穴の空いた何も無い空間。訓練に勤しむ団員達のさざめきが聞こえたような気がして、リーバルの胸にせり上がってくるものがあった。
みんな自分を置いていってしまった。いつか再びそうなるだろうは薄々感じていた。今度こそ本当に捨てられのだろうか。
これからどこに帰ればいい?ハイラル城?リトの村?どこも仮初の家だ。
言ってしまえばこのアジトだって、対して暮らした時期は長くない。
ただコーガや皆がいればそこが家だと思えた。
だがそれも生死不明。この1週間音沙汰はない。ハイラル城下町に常駐していた諜報員もいつの間にかいなくなった。
頭上でパラーセルを畳むばさりという音がして、リーバルの目の前にリンクが降ってきた。
唐突な会合に、リーバルは無感動に目を向ける。
「張っていた兵士に目撃情報を聞いた。イーガ団は1週間前に掃討した。まだ何か企んでいるのか?」
黒いリトの仮面の左端にかしめられた細い鎖が揺れた。その先端に付けられた極小のルビーがキラリと震えたかと思うと、仮面の下から零れ落ちる涙。
静かに涙を流すリトに、リンクの心は意図せず締め付けられた。
背中の弓に手をやることも、懐の小刀に手を掛けることもなく、その人はただ佇んで哀しみに暮れている。
リンクはゆっくりと近づくと、そっとリトの仮面をずらした。
現れたのは、涙に濡れた朝の湖畔のような澄んだ翡翠色の瞳。リンクは自分が何をしているのかの自覚もなく、黙って目の前のリトを抱きしめた。
随分と冷たい身体だった。温めてやろうと力を込めると、夢かうつつか、数枚の札を残してその姿は消えてしまった。