そんな子に育てた覚えはありませんとある日の夜、リーバルは巡回の幹部が通り過ぎるのを待ってから、イーガ団本部のコーガの部屋にするりと入り込んだ。
「おぅ、どした」
コーガは片ひじをついて読んでいた書物から顔を上げずに声をかけた。
仕事中だって別に関係ない。もしそうだとしてもまだ帰ってきていない優秀な筆頭幹部が全て片付けるだろうし、夕飯前のこの時間はコーガが暇していることをリーバルは知っていた。
黙って近づき、本を持つ腕の内側に無理やり身体をねじ込むと胡坐をかいた膝の上に乗り上げる。
「ちょっ、邪魔」
抗議の声を上げたコーガは腕を上に掲げ、まだ本を読もうとしている。
「ねぇ、知ってる?」
リーバルはコーガの腹にべたりと顔をつけたま嘴を動かした。
「リトの発情期ってすごく辛いんだよ。ずっと熱が出たみたいに頭がボーッとしてるし、このままじゃ任務に支障が出るかも」
「他の奴に相手してもらえ」
「コーガがいい。抱いて」
コーガはそれを聞くとようやく本から目を離し、品定めするような目で自分を見上げるリーバルを見下ろすとやれやれとため息をついた。
「はぁ・・・教育を間違ったな。放任が過ぎた」
「責任取って」
語尾にハートでも付いているかのようにのたまったリーバルは、両腕をコーガの首に回すと顔を寄せ、薄い装束で覆われた耳たぶをやわやわとはんだ。
リーバルがコーガに迫るのは別に初めてのことではない。
いつもそれとなくいなしてきたが、リト族で言う成人を越えて毒蛾が羽化したように悪癖はとどまるところを知らず。そのうち寝ている内だとか知らぬ間に襲われコトを済ませたと言われるのも時間の問題だ、とコーガは頭を抱えていた。
リーバルは大きな翼のような掌をコーガの股間に押し付けた。自らの手の上に座りこみ、遠慮なくぐいぐいとコーガの性器を擦るのに合わせ前後に腰を動かす。はぁ、と色付いた息を吐きながらコーガの首に頭を擦り付けるその仕草は、否応なしに性交を連想させた、
「あっ、おい、こらリーバル」
思わず顎を上げたコーガの反応に気を良くしたリーバルは、獲物を捉えた時のように目を細めると、止めるまもなくコーガの腰のベルトを引っ張り、下履きを下ろそうとその隙間に指を突っ込んだ。
「こら!ダメ!」
コーガはリーバルの両脇に手を入れ、その身体を引き剥がしながらサッと立ち上がった。
止めるのが一足遅く、ボロンと露出する性器。
チッ、と舌打ちをしたリーバルは宙に浮いた脚をさりげなく動かし、丸めた鉤爪の先でつつつ、と姿を現したモノの表面を撫でた。
仮面の内で内心白目を剥いたコーガが言う。
「…こういうことばっかしてっと、スッパにフられるぞ。恋仲だろ?」
「はぁ?違うけど」
「あ、そなの?」
思い至ることなどないとでも言うように、コーガに不審気な目を向けるリーバル。
コーガは普段の2人の様子を思い出した。
事あるごとにしつこくスッパに付きまとい絡むリーバル。スッパの方はといえば、邪険に扱っているかと思えば誰も見ていないところでリーバルの髪を親しげに掬っているのを見たことがある。リーバルがしれっとスッパの寝室から出てくるのもいつものこと。
まぁ、若者の考えることは分からない。というよりリーバルの頭の中が突拍子もないのだ。まぁ、本人がそういうならいいか。いいのか…。
コーガは少し思案すると、ぶら下げたリーバルを手持ち無沙汰にふらふらと揺らした。
「…誰かー、相手してやってー」
コーガの言葉を聞きつけ、廊下を巡回警備していた幹部がすぐに中に入ってくる。幹部は目に入ってきた光景に思わず足を止めた。 何故か性器を露出した主が戦利品を掲げるようにリーバルを高々と持ち上げている。
「…?」
「いいから。こっち来い」
捕まえてろよ、と言ったコーガは幹部の手にリーバルを手渡し、ようやく丸出しだったものを仕舞った。発情期なんだってよ、とついでのようにサラリと付け足す。
「何で!ひどいよコーガ!僕の事が好きじゃないの?」
リーバルは自分を拘束する幹部の腕を振り切ると、一度トンと地面を蹴ってその背中に乗り上げた。うわ、と小さく声を上げ前のめりになった幹部の頭に頬ずえをつき、コーガを咎めるように見つめる。
「歳を考えろ、歳を。お前の相手はできねぇ」 「そんなの関係ない!一生大事にするから!」 「へーへー、白々しいこった。お前と一度ヤったら最後、残り少ない寿命を吸い取られてそのまま死ぬ気がする」
「加減する!」
なおも食い下がるリーバルに、はぁ……とコーガは再び深い溜息をついた。
「わかったわかった。見ててやるから」
リーバルはそれを聞くとぱっと目をあげ少し逡巡したが、それで妥協したのかフンと嘴の端を上げ、肘置き程度の扱いしかしていなかった幹部の首にふわりと腕を回した。
痴話喧嘩に巻き込まれたと気配を消していた幹部は、ビクリと身体を揺らした。
「…俺は同種族の女にしか興味は…」
「そうなんだ。じゃあ教えてあげるよ、リトの身体のこと」
スっと目を細めたリーバルは瞳をギラつかせ蛇のように妖しく光る舌をちらりと見せた。誘う時の顔じゃない。喰われる。
幹部はまたたく間に押し倒された。リーバルは幹部の腹筋にはりついた薄い布地をおもむろにつまみ上げると、突然ビリビリッ!!と派手な音を立たせて破り開いた。
「ギャーーーッ!!」
「アハハハ!いい鳴き声だな」
幹部が上座のコーガに視線をやると、面に手を当てて項垂れている。現場を目撃されたのだから自分にお咎めはないはず、と幹部は内心冷や汗をかいた。
いつの間にか自分も服を脱ぎ捨てていたリーバルは、たくましい腹筋が浮き上がる幹部の腹にぴたりと自分の身体を重ねた。 自らの身体に導くように幹部の手を取り、上から下へ撫でさせる。
「この辺の大きい羽根は逆立てちゃダメだ、気持ち悪いから。ここは大丈夫。地肌が深いところにあるから舐められるよりも強く擦られる方がいい。んっ……そう、上手上手。感じると尾羽根が上がってくるんだ。ハァっ……、あぁっ…、そこは優しく触ってぇッ……」
幹部はまるで童貞に戻ったかのような気分で言われるがまま恐る恐るリーバルの身体をまさぐった。人の女の柔らかさとは違うが、熱で蕩けた身体が触れ合う自分の肌の形に合わせてしっとりと変形し吸い付いてくるような柔らかさ。ふかっとしたしなやかな羽毛に包まれ、性的と言うよりも多幸感が全身を包んだ。
だが、勝気な瞼が切なげに細められ、湿度を帯びた艶っぽい声を聞いていると、その気がなくてもそういう気になってくる。
リーバルは幹部の右手を取り手袋の先を嘴でつまむと、じれったそうにぐいと引っ張ってそれを脱がせた。導かれるままに孔に触れると、しっとりと濡れた羽根のない肉の感触。
女にするようにグチグチとそこをかき回すと、リーバルは一際高い声を上げて顎をのけぞらせた。
人と違って穴の中に筋のような突起物がある。それに触れると、リーバルは「それがリトの男性器だよ。初めて触った?」と言う。
それを指で挟みこむようにしごくと、リーバルは幹部の胸に縋り付いて喘いだ。
「ハァッ、あぁっ、・・・」
いつの間にか幹部は主の前だということも忘れて夢中になっていた。リトの発情期とは、他種族にも伝染するものなのか。その情欲にあてられたように頭に血が上り、自らの屹立したものを取り出す。
だがその手首はリーバルによってパッと掴まれ、誘うように収縮する孔の寸前で虚しくも止められてしまった。
「入れたい?」
「えっ・・・ぁあ・・・」
「懇願しろ。僕を抱きたいか?」
幹部はゴクリと息を飲んだ。突如スゥと細められたリーバルの氷のような視線。美しい寒色の瞳の奥で情欲の火がチロチロと燃えている。
幹部の男根の中心から、待ちきれないというように透明の液体がツゥと零れた。
「いっ 入れたいっ、頼む、抱かせてくれ!」
幹部はリーバルを床に押し付けその身体の上に乗り上げると、熟れた孔にズクズクと一気に性器を挿入した。
「フーッ、フーッ・・・」
「ぁっ・・・、すごいっ・・・、」
ガンガンと腰を打ち付けてくるなりふり構わない幹部の様子は、リーバルにとって及第点だったらしい。
「そんなにいいの?」と俯く幹部の顎を掴み、懐くように耳元や顔に嘴を擦り付けた。
余裕のある生意気な態度に征服欲がムラムラと刺激される。細腰を片手で鷲掴むように抱き上げ、背後から突こうとすると拒まれて、逆に上に乗り上げられた。
リーバルは幹部を跨いで後ろに肘をついた。
羽根のような柔らかな指とスリットの間に男根を挟みこんで固定すると、腰を上下させてそれをヌルヌルと扱きあげる。
胎内に全てを包みこまれる快感を知ってしまった後ではあまりにもどかしい刺激。
再び迎え入れられた時の快感を想像し、知らず噛み締めた口端をツゥと涎が伝う。
幹部は嘲笑うように見下すリーバルの一挙一動を、期待と懇願を込めて食い入るように見つめた。
リーバルは存分に幹部を焦らした後で、ガチガチに硬さを増した男根をゆっくりと孔の中に導くと、腹の上に手をついて自ら腰を動かし出した。
「はっ・・・あっ・・・あっ・・・」
リーバルの孔の中にある性器が膨らんできて中が狭くなる。絞り取られるような圧迫感に幹部は耐えきれず短く喘いだ。
「ねぇっ・・・、人の女とどっちが気持ちいいの?言ってみて・・・」
身体を倒したリーバルが耳元で囁く。頭の中が目の前の魔性のリトのことで塗りつぶされていく。
「僕の方が極上だと言え」
有無を言わさないキンと冷えた声色に、幹部の頭は真っ白になった。
リーバルの律動がいつの間にかやんでいる。その時幹部は自分が射精したことに初めて気が付いた。
***
「どうだった?興奮した?」
リーバルは息を整えると、幹部の腹の上にまたがったままコーガの方に顔を向けた。
「あー、したした。興奮した」
「嘘!勃起してないじゃん、バカ!」
「お前みたいに若くないんだよ」
「コーガも自分でして。見せて。触らないから」
リーバルの頼みにうーん、とコーガは天を仰いだ。スッパ、早く帰ってきてこの色情狂を治めてくれ。
「一回だけだぞ?」
コーガが提案するとリーバルは嬉しそうに「うん」と言った。
***
自らの性器を手袋をしたまましごくコーガの前で、背後からリーバルに挿入した幹部は再び腰を振らされていた。
どうして。こんな。狂ってる。そう思いながらもリーバルに命じられ竿に徹することに何故か興奮している自分がいる。
どこまでも手が沈み込むようなリーバルの太ももをがっしりと掴み、弱いと言っていた尾羽の付け根を弄るとリーバルは力が抜けたように上体を地に付けた。
「ハァッ・・・、そこはダメだって言ってるのにっ・・・、」
今までどこか余裕だったリーバルが喘ぎながら蚊の鳴くような声で抗議する。
「・・・あー、俺様もうイくかも」
「だっ ダメっ、僕の中に出してッ・・・、」
コーガは涙の膜が張り濡れた瞳を向けたリーバルの嘴をガッと開くと、ぬらぬらと光る舌の上に吐精した。
「ウッ・・・・・」
誰とも知れないうめき声が上がる。
リーバルははー、はー、と肩で息をすると吐き出された精液を飲み込んだ。うっとりと目を細め、蕩けるような笑顔で嘴を拭う。
幹部はリーバルの中からずるりと力の無くなった男根を引き抜くと、衣服を直してなんとなくその場に正座した。
「これで満足かよ」
コーガは汚れた手袋をぱちんと外した。リーバルの視線がそれを追いかける。嫌な予感がしてコーガは手袋をサッと背中に隠した。
「それ・・・・」
「やめろよ。聞きたくねえ。そんな子に育てた覚えはありません」
***
数刻後、幹部は再びアジト内の巡回に戻っていた。
すると、廊下の向こうから帰宅した筆頭幹部とリーバルの言い合う声が聞こえてくる。
「コーガ様のお手を煩わせるくらいなら、自分のところに来いと言っているだろうが」
「煩わせてない」
「まったく…発情期なんてのも嘘であろう」
「何の話だっけそれ。忘れたなぁ…」
2人が通り過ぎる際、気配を消し壁になりきっていた幹部の胸をリーバルがついと小突いた。
一瞬こちらに向けられた鮮やかに光る瞳の残像が尾を引くように頭に残る。
幹部は自分が自然と前かがみになるのを感じた。