Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    T_ShioSag_N

    @T_ShioSag_N
    気ままに、二次作品書く時ある。(ポケモン)
    別でpixivにもある。そっちはほぼサトセレ。
    本格的に小説書くための別アカあり。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 24

    T_ShioSag_N

    ☆quiet follow

    ラクファイ。卒業式から3年経ったくらい。
    ⚠️少し流血表現あり。

    『君がおしえてくれた』

    短く、小さく、息を吐く。その音が自分の耳にも・・・・・・いや、右だけはほとんど聞こえない。体の右側に大きくダメージを受けた。
    むしろ、今危ないのは、瓦礫により傷を負った頭からの血。
    (く、視界が悪い上にバランスが・・・・・・)
    耳がやられてしまったこと、加えて出血で、足元がふらついた。何度目か分からない舌打ち。自分ーーー国際警察、警視たる者への苛立ち。この任務の何個前かには、ラクツと呼ばれていた少年は、国際警察の中でもかなり優秀な人物だが、優秀すぎるが上に、やや強めな対応策に出ることもある。これが功を奏すことが多いが、今回はそうも行かなかった。
    今回の任務では、最小限しか相棒を連れてきていない。イッシュ地方、ヒオウギタウンでトレーナーズスクールで共にプラズマ団を追いかけた相棒、フタチマル。今はボールの中で休んでいるが、彼もかなりダメージを負っていた。
    追手が来れないよう、森の方へ進んだが、途中で雨が降り出した。それが否応なしに、傷に染み込んできた。常人なら、なかなか耐えられるものではない。そこは国際警察で鍛えられたこともあり、問題は無いが、如何せん体力を奪われる。体が震えてきた。
    (どこか・・・・・・休む場所を)
    そう思いながら歩くが、視界がぼやける。これまでにない、後にない状況。あまり経験のないことだが、頭だけはしっかりと動かし続けていた。
    森奧へ進んでいっているであろう途中で、ひた、と目の前に出していた右手が岩盤を触った。それを伝っていくと、途中で空を切った。そっちへ体を向け、進む。すると、頭を打っていた雨がやんだ。空洞を見つけた。
    さらに奥へ進もうと足を出すが、ひとつ安心感を得た体が限界を迎えていた。自分の意志と関係なく、膝から崩れ折れ、気づけば目の前には地面が見えた。

    「ひゃー!!いきなり雨なんてー!!」
    パシャパシャ、と雨水の溜まる道を走るファイツ。Nと共に、2年半近くの歳月をかけて、”解放”したポケモンたちをトレーナーたちの元へ返す旅をした。帰ってきて喜ぶ者もいれば、自分たちに怒りを向ける者もいた。中には少数ではあるが、ファイツを手持ち、いや、ファイツの手持ち、ダケちゃんことタマゲタケのように、”解放”したままで自分たちに任す者たちもいた。ようやくその目標を終えた。
    Nはプラズマ団の王として、尽力を上げるためにプラズマ団の城へと戻った。ファイツもその手助けをしようと思ったが。
    「キミは外の世界をみてきたらどうだろう?」
    「えっ?」
    思いがけない言葉に、ファイツは目を丸くした。Nはファイツに、優しい目で見ながら続けた。
    「僕が2年間見てきたこの世界。キミもボクが見てきた世界を見に行って欲しい」
    憧れのNにそう言われ、ファイツは首を縦に動かす以外に他なかった。
    そうして、イッシュ地方を一回りしたが、足を伸ばしたい思いもあって、別の地方へと渡った。いろんな地方があったが、本を見て、行きたいと思った場所がシンオウ地方になった。カロス地方とアローラ地方にも行きたい思いがあったが、まずはシンオウ地方かな、と思い至った。
    そうしてやってきたシンオウ地方。イッシュ地方とは違う気候と文化に、ファイツは少しカルチャーショックを受けたが、同時に自分の世界が広がるのを感じていた。
    (これが世界が広がる感じなんだ)
    ファイツはその気持ちが楽しくなり、シンオウ地方を巡った。シンオウ地方の真ん中を縦に横断するようにあるテンガン山近くを歩いていたら、急な雨に逢ってしまった。
    (うぅ〜。どこか雨宿りできる場所はー!?)
    すると、ダケちゃんがファイツの肩で跳ねながら、何かを知らせた。そっちを見ると、岩盤の裂け目があり、奥行きのある空洞があった。
    「ダケちゃん、ありがとう!」
    ファイツはそう言って、空洞の中に入っていった。ふー、と長い息を吐きながら、腕についた雨粒を払った。服もそれなりに濡れていたため、着ているシャツを脱ごうとしたところで、はた、と気づいた。
    奥に誰か倒れている。
    それに驚いて、ファイツは駆け寄った。そして、思わず小さい悲鳴をあげた。顔が右半分血だらけで、右腕もやや火傷を負っている。
    (なにこれ、なんてひどい・・・・・・!)
    ファイツはその人の左肩を叩く。
    「大丈夫ですか!ねぇ!大丈夫ですか!」
    しかし、反応はない。まさか、死んでいる?、と思ったが、自分の手に伝わるのはしっかりとした体温。気絶しているだけのようだ。
    どうしようと思いながらもその人の安否を確認し続けた。
    「大丈夫ですか!聞こえ、ま、す」
    言葉は後半新たな驚きで小さくなった。最初は気が動転して、よく見えていなかったが、見覚えのある服、そして、何よりもこの顔形に見覚えがあった。卒業式の日、彼の顔とそれが重なった。
    「ラクツくん!?」
    ファイツは目の前にいる人が信じられず、凝視した。少し呆けてしまい、ダケちゃんに頭を叩かれた。
    「いたっ!わかった、わかったってば!少しでも治療しなくちゃ!」
    ファイツは立ち上がると、空洞の外を見る。まだ雨は降っているどころか、だんだんと強くなっている。雨粒を利用して、持っていたタオルを濡らす。後ろではダケちゃんがファイツの荷物からガーゼなどを取り出した。
    顔の血をガーゼで拭き取る。すぐに真っ赤になり、新しいのに変えること、3枚。出血場所は右目の上の額。横に、ざっくりと傷があった。その痛々しさにファイツは気を失いかけたが、気をしっかりと持ち、消毒をした。それから、綺麗なガーゼでそこを抑えようとした。
    「いたっ!!」
    その手を制するかのように、ラクツの左手が伸びて、ファイツの左腕を力強く握りしめていた。
    「だれ、だ」
    か細いが、威圧する声。久々に聞く彼の声。
    「ラクツくん!わたしだよ、ファイツ!」
    「ファイ・・・・・・ツちゃん?」
    ラクツはちょっとびっくりしたのか、手を緩めた。目が開き、2人の視線が合う。ラクツの右目が垂れた血のせいで、赤く染まっている。またも気を失いそうになるが、耐える。
    ラクツが起き上がろうとするのでそれも抑えた。
    「だめだよ。すっごい怪我してるんだから」
    「だとしても、ボクは、ぐっ」
    ラクツは顔を歪めた。体が悲鳴をあげていた。
    ファイツはラクツの頭を、ぽん、と優しく叩いた。
    「ね。体も休めって言ってるんだよ。横になって」
    ファイツは咎め顔でラクツに言う。数年前とは違い、どこか逞しく見える彼女に、思わず笑みがこぼれた。
    それには気づかず、ファイツはダケちゃんと共に、ラクツの傷を手当てする。途中、ボールの中にいたフタチマルも出てきて、ファイツからキズぐすりしてもらい、回復した後に、ファイツたちとラクツの世話をする。
    これまで経験したことのない優しさに、ラクツは何か自分の中でこれまでにない強い感情を抱き始めた。ファイツの横顔を見ると、どこか胸を締め付けられる。
    (どうしたというんだ、ボクは)
    ラクツは目を瞑り、己を叱咤する。だが、目の前にいるというのに、ファイツの顔が浮かぶ。顔に少し体温がこもる。それを認識すると、急な眠気に襲われた。そのまま、すぅ、と深い眠りに落ちた。

    数時間後、雨も止み、ファイツは空洞の外に出た。辺りは暗くなりかけている。どうやら、今夜は野宿だ。準備のため、木々を拾って中に持っていく。それから、火をつけた。
    奥でラクツが身じろぎして、すっ、と起き上がった。何か思いにふけった顔をしている。
    ラクツは目が覚めて、自分の体がだいぶ良いことを感じた。
    「ファイツちゃん、手当をしてくれてありがとう」
    気づけば素直な気持ちが出ていた。
    ファイツは少しきょとんとしたが、笑みを零した。
    「どういたしまして。顔色も良さそう」
    ファイツは答えながら、手元の木々に点く火を大きくする。簡易鍋を作り、そこでスープを作る。ラクツの分を先に取り手渡す。
    一口飲んで、体にスープが染み渡った。
    ファイツはラクツがスープをしっかり飲んでいるのを見て安心した。そして、少しだけ緊張した。憧れのNとは違う感情。スープも飲まず、彼を眺めていた。
    ラクツはしばらく無言でスープを飲んでいたが、寝ている間の夢のことをふと思い出した。
    「・・・・・・ねぇ、ファイツちゃん」
    「なに?」
    真剣な顔で向かれ、ファイツの胸がどきりと跳ねた。眺めすぎただろうか。
    「ボクはこわい、かわいそうがわからない、と君に話したね」
    「え、ああ、うん」
    イッシュ地方の海底遺跡の中で聞いた話だった。
    「ボクは国際警察で鍛えられた。だから、そんな感情はわからないし、無関係だと思った」
    スープの入った皿を持つ手が少し力が入る。
    「寝ている間、夢を見た。周りは真っ暗で何も見えない」
    淡々と話すラクツ。
    「どこを見渡しても暗いんだ。手を伸ばせばその手が、足を出せばその足が消えていた」
    顔が強ばる。
    「初めての感覚に囚われた。これがこわい、ということなのかと」
    ファイツは、じっ、と聞いていたが、ラクツがかなり危ない状況であったのだということを感じ取っていた。傷を見て、ひどいと思っていたが、自分が助けていなかったら、と思うと、ぞっ、とする気持ちも出てきた。
    それには気づかず、ラクツは続けた。
    「ボクは完璧[パーフェクト]であり続けていると思った。だが、こんなことでは、完璧とは言いがた」
    ラクツの言葉は遮られた。ファイツがラクツの頭ごと、自分の中に抱き込んでいた。
    「こわいことがだめなんてことなんてないよ。わたしたち人間にとって、大事なことだよ。もちろん、ポケモンたちも」
    ファイツはダケちゃんを見て言った。ダケちゃんは、ふん、と強がる素振りを見せた。それに、くす、と笑う。
    「だから、ラクツくん、こわい時はこわいって思っていいんだよ。その時はわたしがこうしてあげるから」
    ラクツはただファイツの言葉を聞いていた。自分の奥から何かせり上がってきていた。それは目から、つ、と落ちた。
    (泣いている・・・・・・?このボクが?)
    信じられなかった。自分に何が起きたのかと。だが、ファイツの温もりがそれをさらに多くする。無意識に彼女の腰に腕を回し、顔を見られないよう、もう片方の腕で隠して、静かに泣いた。

    翌日早朝。ラクツは早々と目覚め、すぐその場を発つため、準備をした。ふと横に眠るファイツの顔を見た。穏やかにダケちゃんと寝るファイツ。昨日の彼女はやけに、自分の胸を打った。彼女を見ていて、トレーナーズスクールにいた同期の女の子たちを思い出した。それから、ふ、と短く笑った。
    (そうか。ボクはこの子のこと)
    ラクツは自分の中に芽生えた第2の感情を否定せず、代わりにファイツの頬に、そっ、と口付けた。
    フタチマルは見て見ぬふりをしていたが、ラクツの様子にどこか安心したようだ。彼もまたラクツの欠けた感情には、思うところはあったらしい。
    ラクツの顔が引き締まる。国際警察、警視としての顔に。
    「行くぞ、フタチマル。リベンジだ」
    こくん、とフタチマルは頷く。朝日が彼らを、煌々と照らしていた。
    (ありがとう、ファイツちゃん。ボクに教えてくれて)

    「・・・・・・っ・・・・・・!?」
    ラクツに口付けられたその瞬間に起きていたファイツは何が起きたか収集できずにいた。
    (え?なになに?なんだったの!?えっ?わたし、ラクツくんを見る目、そんなに気持ち出てた!?教えて、ラクツくーん!!??)
    身悶えして暴れていると、ダケちゃんから頭をどつかれたファイツだった。

    (Fin....& To be continued)
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator