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    遊兎屋

    @AsobiusagiS

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    遊兎屋

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    【宿伏】
    お揃いを見つける2人のお話

    #宿伏
    sleepVolt

    ワンライお題【夏バテ/お揃い】
    宿が呪術師
    宿伏が同棲、高専卒業後











    ああ、これは駄目だな…
    起きた時から今日1日の不調を悟ってげんなりとする。
    寝たはずなのに眠くて疲れが取れない。
    なんだか頭も痛くて、食欲が湧かない。

    いつよりゆっくりと布団から抜け出してリビングの扉を開ける。
    隣で寝たはずの大男が居なかったからもうリビングに行っているのだろうとぼんやりと冴えない頭で考えて、脳に酸素を送るため欠伸をしながらリビングに足を踏み入れる。

    「起きたか、恵」
    「ん…」

    丁度キッチンからコーヒーを運ぶところだったのか、両手に黒と白のマグカップ。
    犬のイラストが描いてあるそれは俺が買ったもので、玉犬に似たイラストに惹かれて、恥ずかしさを押し殺して宿儺に片割れをプレゼントした。
    俺が黒で宿儺が白
    両手が塞がっているからか、近づいて来た宿儺が顔を擦り寄せて来て額にキスを落とされる。

    キスされた場所からじんわりと痛みが引いたような感覚に、そんなわけないと否定しながらダイニングの椅子を引いて座る。
    目の前にはサンドイッチとサラダとスープ…
    みずみずしい野菜と具沢山のサンドイッチ、湯気を立てるスープがいつもなら食欲を唆るのに今日に限っては手が動かない…。

    ぼんやりと食卓を眺める俺に気付いた宿儺が眉間に皺を寄せる。
    その強面が心配しているからなのを知ったのはいつからだったか…。

    「不調か?」
    「……、バテたかもしんねぇ」
    「ああ、急に暑くなったからなあ…少し待ってろ」

    首を傾げて聞いてくる宿儺に隠すこともできず思い当たる節を呟けば、納得したように頷かれる。
    それから自分の朝食をそのままに、立ち上がった宿儺がキッチンに入っていき何やら調理を始める。


    暫くして宿儺がキッチンから戻ってくる。

    「これならどうだ?」

    そう言ってことりと置かれたどんぶりを覗き込めば、梅がちょっんっと上に乗っているのが分かる。
    それから、鶏肉の…ささみか?割いて細くしたもの、胡瓜の細切り、もやし…
    それに冷えた出汁がぶっかけてあって美味そうだ。

    「美味そう」
    「食えそうなら出来るだけ食え…今日の任務は?」
    「軽いのが一件」
    「それは俺が行く、お前は休んでいろ。」

    再度座った宿儺が俺の目の前に置かれていた朝食の皿を自分の前に移動させながらさらりと言ってくる。
    今日は確か、宿儺も任務があった筈だ。
    流石に俺の分を任せるのは気が引ける…
    任務内容を確認したが、内容は低級呪霊を祓う簡単なものだ。
    それくらいなら…

    そう思って断ろうと顔を上げれば、サンドイッチを頬張りながらも俺のことをジッと見てきていた宿儺の瞳と目が合う。
    その瞳がスッと細められて、まるで否定は許さないとばかりに見詰められる。

    宿儺には何だってお見通しのようだ…。

    グッと言葉に詰まってしまえば、宿儺の人差し指が立てられて俺の前にあるどんぶりを指さす。
    咀嚼しながらも早く食えと促して来る宿儺に、文句も言えずに言われた通り冷たいどんぶりに手を添える。




    結局、宿儺に俺の分を頼んで正解だった…
    普段使わない俺の部屋で、ベッドに横になりながらそう思う。
    身体が重怠くて動くのも億劫で、頭は痛みがひどくなって来ている。
    ズキズキと右側の米神を中心に脈打つのに合わせて痛み、これが1番きつい。
    光や体動で酷くなるのでカーテンを閉め切り電気を消しているけれど、最悪薬を飲むしか無さそうだ…。
    食欲も相変わらずで宿儺が作ってくれた冷製スープをちびりちびりと飲み込むのがやっとだった。
    意識を飛ばすように短時間眠ってまた起きてを繰り返して、逆に疲れる。
    今何時なのか…それすらも分からなくて深く息を吐く。



    ガチャリとドアの開く音がした気がして目を開ける。
    視界に入るのはベッドに投げ出された携帯
    それが、通知を知らせるようにぴこぴこと光っていてなんと無しにそれを眺める。
    俺はいつの間にか寝てたのか…
    ぼんやりと重い頭で今の時間を確認しようとしたところで後ろからドア越しに名前を呼ばれる。

    「恵、入るぞ」

    律儀にノックをした後ゆっくりとドアが開く音と、隙間から廊下の光が入り込んでくる。
    その光にずきりと頭が少し痛むけれど、すぐに宿儺の影が覆い被さるように重なる。

    「体調はどうだ?」

    宿儺の大きな手が俺の頭に乗って、くしゃりと髪の毛を撫でそうかと思えば額にぴたりと当てられて目元を撫でそのまま頬に手の甲が滑り落ちてくる。

    「ん、頭いてぇ」
    「食欲は?」
    「…ない」
    「プリンとゼリー、アイスもあるぞ」
    「う、ん…プリンが良い」

    すりすりと頬を撫でる宿儺の手に身体からホッと力が抜ける。
    少しの汗の匂いと宿儺の匂いがして、それに擦り寄れば上から小さく笑う声が聞こえる。

    「少し待っていろ、準備してくる」
    「あ…宿儺」

    撫でていた手が止まって、宿儺が離れる気配を察して慌てて宿儺のズボンを掴む。
    力のない引き留めに優しく振り返る宿儺が首を傾げるのが見える。

    「任務、ありがとう…助かった」
    「ケヒッ、構わん、お前の役に立てるのならなんだってやってやる」

    くるっとまた俺に向きを変えた宿儺が覆い被さってきたかと思えば、額にキスを落とされて、珍しくにッと大きく笑った宿儺の顔に見惚れる。
    嬉しそうなその笑顔に、きゅんっと心臓が締め付けられるような気がしてじわじわと顔が熱を持ってくるのが分かる。

    「大人しく待っていろ」

    髪の毛を荒らされるように乱雑な、それでいて優しい手が頭を撫でて離れていく。



    その後、プリンを持ってきた宿儺に礼を言って一つを2人で分け合うようにして食べた。
    俺が一口を飲み込む間にプリンを乗せたスプーンを差し出せばため息をつきながらも食べてくれる。
    まるで餌付けしている様な気分になるそれを何度か続けて、宿儺がプリンと一緒に持ってきていた薬を服用する。
    少しだけなんともない話をして、宿儺に促されて布団に潜りこむ。
    ベッドの縁に座って俺の身体をゆったりと叩く宿儺の存在に、安心感からか、昼間に寝たはずなのに徐々に睡魔が襲ってきて瞼が重くなる。






    ばちりと目が覚める。
    ぐっすりと眠られた様で、倦怠感や頭痛は治まっていて一度欠伸が出る。
    身体を起こして部屋を見渡しても宿儺の姿はない。
    それはそうだ、此処は俺の部屋でベッドだってシングルで普段使わない。
    喧嘩した時や体調を崩した時、そんな時に活用する場所だ…
    ベッドの横にあるチェストに水が置いてあることに気付いて、常温のそれをグッと勢い良く飲み干す。
    案外に喉が渇いていたのか、口元に流れた水を袖で拭って息を吐く。

    少しスッキリした。
    眠気もどこかへいってしまったのか今から目を閉じたところで寝られそうにない。
    さてと…
    そうして少しもやの晴れた頭で次の行動を考えて、自分の枕を引っ掴み、ベッドから足を下ろす。
    生ぬるい温度を足裏に感じながら、ゆっくりと足音を消して部屋を出て向かうは宿儺の部屋だ。
    あのまま1人の部屋で寝られず退屈な時間を朝まで過ごすのならば…
    そう思っての行動

    ドアノブを引くのも音を立てずゆっくりと、細心の注意を払って、少しだけ空いたドアの隙間に身体を滑り込ませる。
    入って直ぐにベッドを確認すれば、巨体がこちらを向いて横になっていてまだ瞳は閉じられているのが確認できる。
    ふーっと小さく息を吐いて、筋肉が多いからか、熱いと言ってタオルケット1枚を腹にかけて上裸でパンイチで寝る男に静かに近寄る。
    腹が冷えると小言を言ったのを律儀に守っている姿には思わず笑いが出るし、何故か可愛いと感じてしまうのは未だに不思議だ。

    そうして気付かれてないことを良いことに、ベッドに落ちる宿儺の影に指先を触れさせ呪力を微量に練る。
    呪力に反応して少しずつ影の境目が溶けてきて俺の指にピッタリと吸い付いてくる。
    それを確認した後に力を込めれば指が影に食い込み、ズズッと沈み込んでいく。

    宿儺の影の中は意外にも静かで心地良い…
    そう知ったのはつい最近だけど癖になりそうなその心地良さをもう一度味わいたくて手を進めていく。
    退屈な1人の空間なら、心地良い宿儺の影の中が良い。

    手首まで埋まって、脚を突っ込もうかと思っていた矢先

    「めぐみ」
    「ッ」

    寝起きの掠れた声で、意外にもはっきりと名前を呼ばれて思わず声が上がりそうになる。
    ドキッと心臓が跳ねて、視線を宿儺に向ければ少しだけ眠気を纏う紅い瞳と目があってこくりと喉がなる。

    「それはいただけないな?」
    「う、、ぁ」

    スッと細まった瞳に言い訳をしようと口を開いた瞬間影に入れ込んでいた手を掴まれて勢いよく引き寄せられる。
    倒れて引き込まれる衝撃と一緒に抱き締められて、目の前には宿儺の分厚い胸板があって近い距離にどきりと心臓が跳ねる。

    「俺の大切な恵を影になんぞに取られては敵わんな、俺が良いだろう?」

    何処から来るんだその自信は、そう言ってやりたいのに俺の枕を取って宿儺の横に並べ自然に枕の下に腕を入れ込んだ宿儺に腕枕をされるような体勢になる。

    形を確かめるような動きでゆったりゆったりと後頭部を撫でられて、そうかと思えば気まぐれに頬を撫でてくる。

    「目が冴えたんだ…宿儺の邪魔になるだろ」
    「邪魔になるはず無いだろう、お前といる時間は何にも変え難い、眠くなるまで何か話すか?今日の任務の話はつまらんしなぁ」

    わざわざ影に入ろうとした理由を言えば宿儺の瞳が細められて鼻で笑われる。
    それから付き合ってくれるのか向き合って話しながら、宿儺の足が俺の足に絡み付いてくる。

    「ああ、恵の読んでいた本の話でもするか?あれは良かったな」
    「っ、だよな」

    密着した場所から宿儺の温もりが移ってきて、その心地よさが丁度良い。
    セックスに誘われているような接触じゃなくて単純な触れ合いと何ともない会話
    それだけでじんわりと広がる嬉しさと幸せな気持ちを感じていれば、思い出したように言われた宿儺の言葉に思わず食い付くように返事をする。

    「あの作者は読み手をよく理解している、中盤の人物の動かし方はなかなか興味深かったな」
    「俺もそれは思った」

    それから、主人公の感情表現や言い回し、キャラの関係性や風景の表現方法など、読んでみて感動したところ良かったところ、好きだったところがつらつらと口から溢れ出てくる。
    思い出すように目を瞑りあれもこれもと話していく俺に宿儺はただ頷いて相槌を打つだけだった。

    ああ、喋りすぎた…
    暫くしてそう思って顔を上げ宿儺の様子を伺えば、柔らかい紅色と目が合う。
    思わず悲鳴が上がりそうになる程に優しい顔をしていて、鋭さのないゆるゆるとした視線を感じる。
    その表情を直接見ることなんて今まで無かったからか、浮つくような落ち着かない感覚に息を呑む。

    「ッ、その顔…やめろっ…」
    「ヒヒっ、なんだ、俺はどんな顔をしてる?」

    落ち着かず心臓に悪いその顔をやめさせたくて言ってみれば、ニヤリと笑って楽しそうに揶揄われる。
    それがむかついて小さく悪態を吐きながらタオルケットを引っ張り宿儺の顔に押し付けてやる。
    幼稚なことをしてる自覚はあるし、赤く熱を持つ顔にも気付いていて自分の中で羞恥心が増してくる。
    ッくそ…
    いつも俺だけ余裕がない…

    宿儺の肩が揺れるのが見て取れてその余裕さにムッとしながら胸元を軽く小突いてやる。
    手に返ってくる硬さと分厚さに余計にムッとして、言い表せない心臓の締め付けをどうしてやろうかと考えてぎゅっと宿儺の身体に抱きつく。

    ビクッと宿儺の体が小さく跳ねたのが伝わってきてしてやったりと良い気になった瞬間、宿儺の腕の中に収められており強い力で抱きしめられる。

    「ッ、ぐ」
    「はぁ…お前は本当に愛らしいなあ」
    「宿儺っ、苦しい」
    「もう少し辛抱しろ」

    はぁーと、大きく溜息が吐かれたのを頭上で聞きながらぎゅうぎゅうと強く抱き締められる体勢に息が詰まる。
    文句を言ったところで大きな身体で抱き竦められて足が絡み合い、いつの間にか宿儺の顔から退けられたタオルケットに包み込まれ宿儺の腕の中で顔面にキスを浴びせられる。

    「ん、ぅ…宿儺っ」
    「お前をどう扱っていいか分からなくなる、俺の手の中から溢れ落ちそうなほどに柔くて愛らしい…誤って握り潰してしまわぬようにせねばな?」
    「は…、そんなに柔じゃねぇ」
    「くく、そうかそうか」

    ちゅっちゅと何度も可愛らしい音を立てて、俺に聞かせるようにキスをしてくる宿儺の唇を甘んじて受けながら、掠れた声が俺を愛してくれる。
    いつもそうだ。
    向けられる視線は優しくて声は柔らかい。
    俺にだけ向けられるそれに優越感を感じると同時に、少しだけ怖さが伴う。
    いつ離れて行ってしまうのか、、、。

    俺の考えていることが分かっているかの様にぽんぽんと軽く慰めるように背中を叩かれて、擦り寄ってくる大きな身体を俺からも抱き締め返す。
    お互いに密着した胸元からトクトクと少し早い心臓の
    鼓動が感じ取れて小さく笑ってしまう。

    「分かるか?お前と揃いだな」
    「ん…」

    人間離れしている宿儺から自分と同じところを見つけてしまえばそこには愛おしさが湧いてきてもう暫くこの落ち着く鼓動を聴いていたいと目を瞑る。

    「深く考えなく良い…お前は俺と共にあるだけを考えていろ」
    「ふ、随分な言い方だな」
    「言っただろ、お前が喜ぶのなら何でもすると…お前のためだったら何だってしてやる。お前は俺の腕の中に居てくれれば良い」

    ギチギチと鎖が鳴るような音が頭の中に響いて、ああ、縛られてるなあ、なんてぼんやりと思う。
    けれどその与えられる愛の重さや束縛が心地良いと思っている俺もまた宿儺と同じだ。

    「…俺だってお前の役に立ちたいんだ。俺にも守らせろ」
    「くく、そうだな…俺が背を預けるのはお前にだけだ」

    ずるりと影が重なった気がする。
    宿儺の匂いと体温に包まれて、多幸感に身体の力が抜けていく。

    「病み上がりだ、少し目を閉じていろ」

    ベッドに引っ張られるように身体が重くなって宿儺の言葉に自然と瞼が落ちてくる。

    「宿儺…あいしてる」
    「それも揃いだな…伏黒恵」

    意識までもが落ちていく中で辛うじて動かしにくい舌を動かして言葉が溢れる。
    優しい声を聞きながら、宿儺からの愛を受け取って意識を落とす。






    愛は呪いだ…
    共に呪い合おう…






    end.
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