【宿伏】
ワンライ「喧嘩」の続き
#宿伏一週間ご飯計画
2人がプリンを作るお話
「さてと…作るぞ」
「…そんなに気負うこともないだろ」
「だってプリンだぞ?」
プリンの作り方なんて子供の頃に一回作っただけで覚えてない…あの見た目だし、宿儺の作るプリンだ、何か凄く手が混んでそうだろ…
腕まくりをしてキッチンに立てばのっそりと後から付いてきた宿儺が横に立つ。
目の前には卵と砂糖と牛乳とカップ
「恵」
まずは何からすれば良いんだ。
たしか牛乳を温めるんだったか?
スルッと腰に腕がまわってこめかみの辺りに擦り寄ってくる宿儺が邪魔でムッとしながら見上げる。
「恵」
「…なんだよ」
「靴下を履いて来い」
「…は?」
「キッチンは冷えるだろ、作る前にあのもこもこしたやつを履いて来い」
もこもこしたやつ。
釘崎がこの間の任務で渡してきたやつか…
右が白で左が黒の犬を模した冬のルームソックス
釘崎曰く目が合っちゃったから買った。らしいそれを俺にプレゼントすると半ば強引に押し付けてきた。
玉犬を思い出すからと、時々釘崎や虎杖からそういったものをプレゼントされる事がある。
最近は寒くなって時々使わせて貰っているそれは、ご丁寧に耳まで付いていてもこもこしていて可愛い。
成人した男が履くやつじゃない…
「寒くない」
「知らん間に風邪でも引いたらどうする」
「……分かった」
今から作る気満々なのにそれを中断させたくないと思っての抵抗に、宿儺は苦笑しながら額にキスしてくる。
待っててやるから早く履いて来い。
そうやって耳元で言われてしまえばどうしょうもなくて渋々キッチンを出る。
靴下を入れているケースからもこもこのそれを取り出して足を突っ込めば、柔らかな生地が足裏に当たって、それから直ぐにじんわりと暖かくなる。
上から靴下を見下ろせば歩くたびに靴下に付いた耳がぴこぴこと動くのが目に入る。
「けひっ、愛いなぁ」
「お前、見たかっただけだろ」
「そんな事はない」
直ぐにキッチンに戻れば宿儺は少しも動いてなくて、俺の足元を見たかと思えばにたあっと笑って腰を抱き寄せられる。
嬉しそうな、満足そうな宿儺の胸板を小突けば否定する言葉が返ってきて早々に話を切り替えようと宿儺も腕捲りをする。
「まずは牛乳を温めるぞ」
「…」
「恵は卵を割ってくれ、上手く割れるんだろう?」
「やってやるよ」
ボウルと卵を2つ渡されて挑発を含んだ宿儺の言葉にもう一度腕捲りして唇を舐める。
これだけ煽られて殻でも入れたらどれだけ笑われるのか、宿儺のあの紅い瞳が弧を描く時のムカつきといったら…。
絶対に失敗は出来ない…
卵を1つ手に取ってキッチンの角に何度かぶつける。
少しヒビが入ったのを確認してそこに指を押し当てる。
ちょっとずつ力を込めていきながらカパっと音を立てて殻を2つに割れば綺麗に卵が落ちてきて、割れずにボウルの中に滑り落ちる。
「っ、ほらみろ!綺麗に割れ…、た…」
嬉しくてあれだけ煽られたからそら見たことかと自慢したくて勢い良く顔を上げれば小さく笑う宿儺と目が合って、余りにも優しい目をしていたから驚いて慌てて顔を伏せる。
なんだあの顔っ
恥ずいっ
カアッと顔に熱が集まるのを感じながら残りの卵を同じように割れば宿儺の顔を見ないようにボウルを差し出す。
「ん…」
「ひひっ、お前は全く…どうしてそう愛らしいんだろうな」
「うっせぇ」
上から笑う声が聞こえてくるのを無視して早く掻き混ぜろと泡立て器を手渡す。
大人しく受け取った宿儺が手早く卵を溶かしていく音を聞きながら未だに熱の下がらない頬を両手で包む。
くそ…っ
早く治れ…
「恵、砂糖をとってくれ」
熱した牛乳と溶いた卵を合わせてまたかしゃかしゃと音を立てながら泡立て器を回す宿儺の手際の良さをぼんやりと眺めて、言われた通りにボウルに移してあった砂糖を宿儺に渡す。
それを合わせてまたかしゃかしゃも混ぜ合わせる。
綺麗に交わったらそれを茶漉しを通してカップへ移す。
綺麗に二つのカップへ液体が流れ込むのを眺めて宿儺がカップの上へアルミホイルを被せ、フライパンに付近を敷きその上にカップを置いていく。
「フライパンで出来るのか」
「簡単だろう」
「ん」
これなら俺1人でも出来そうだ。
宿儺の動きをただ眺めていただけでもそんなに難しい事はしてないし、別段加減や注意が必要そうなところもなかった。
フライパンにお湯を入れ始めた宿儺の手元を覗き込みながらプリンが綺麗に出来るのが楽しみでワクワクする。
昔津美紀と一緒に作った時も2人でワクワクドキドキしながら作った気がして懐かしい。
「15分熱して10分蒸らす、その間にカラメルを作るぞ」
「俺がやって良いか?」
「ああ」
宿儺が少しだけキッチンを開けてくれて小鍋の前にいそいそと移動する。
「砂糖を入れて手早く焦げ付かないように混ぜながら、色が変わったら水を足す」
「分かった」
言われた通りに砂糖を入れて火にかける。
ぶつぶつと沸騰してきたそれを掻き混ぜながらカラメルの匂いにこくりと喉が鳴る。
「グラニュー糖の方が良かったか」
「なんか違うのか?」
「苦味が違う。今使っている上白糖よりもグラニュー糖の方がほろ苦くなる。甘過ぎるのは苦手だろう」
ああ、なるほど。
砂糖の種類なんて知らないし、変わったところで宿儺の作るものは全部美味しいので気にしなかったとは思う…
「いつもそんな事考えながら作ってるのか」
「ああ、料理は好きだからな。どうせ作るのならお前の喜ぶ顔が見たい。お前の好きなものを作るのは楽しいぞ」
「ふぅん」
心底楽しそうな声色に、なんでこいつはいつも恥ずかしげもなくこう言うことを言うのか内心で文句を言いながら、適当に相槌を打つ。
料理一つとっても俺の好みが優先させられていて擽ったいような幸せを感じる。
美味しいか美味しくないかの前に俺の好みを考えてくれているんだと初めて知った。
「宿儺、もう良いか?」
「ああ、水を足すぞ」
ジュワッと音を立てて水とカラメルが混ざってぶつぶつと大きな気泡を立てながら沸騰する。
それを焦げ付き過ぎないようにヘラで混ぜて、暫くしてから火を止める。
「プリン、後どれくらいだ?」
「後10分で火を止めて10分蒸らしだ」
「こういうの、待つ時間も楽しいよな」
チラリとフライパンを覗いてみても蓋が置いているせいで何も見えない。
上手く固まれば良いなと思いながら宿儺を見上げれば顔が近付いてきていて静止しようと口を開いたところで顎を掴まれて唇に吸い付かれる。
「んッ!ぅ!」
「けひ、ただ待つだけだとつまらんだろ」
「っ、馬鹿、10分もキスするつもりかッ」
「それも良いな」
逃げようとしたところで宿儺の腕が腰に回ってガッチリと抱き締められ、また唇が吸い上げられる。
胸元を押してもびくともしない身体に苛立ちながら、ちゅっちゅと音を立てながら吸い付いてくる宿儺に絆されそうになる。
「んっ、ん、唇、腫れるっ、…ぅ」
「ケヒッ、嫌なら口を開け」
「ぅぅ、んっ」
宿儺の手が背中に回ってゆっくりと背筋を撫でられ頸まで這い上がってくる。
性的なその手の動きにゾクゾクと身体が痺れて、足に力が入らなくなる。
「んッ、ぅ、ん…ふぁっ」
「良い子だ」
気持ち良さに口元が緩めば直ぐに宿儺の分厚い舌が入り込んできて舌を吸い上げられ、膝がガクつく。
気持ち良くて堪らず宿儺に縋ればキッチンに押し付けられてキスが深くなる。
「はっ、ァ、ンンッ、ふ…ぅ」
「ふ…めぐみ」
「んっ、ん、すくなっ、止まんなくなる、だろっ」
「それは俺か?お前か?」
べろりと口内を舐め上げられて、キッチンに後ろ手で手を付いて何とか立っている俺の身体に宿儺の手が好きなだけ這い回る。
キスの合間に抗議してみても上機嫌な声が返ってきて問答が始まる。
…正直言えば抱かれたくなるしもっとキスして欲しくなる。触って欲しいところはいっぱいあるし下腹部は疼く。
「ッお前、だって、…俺の事、抱きたいくせにっ」
「ああそうだなぁ、今直ぐにでも」
立ってられなくなり始めたところで宿儺の足が俺の足の間に差し込まれて辛うじて座り込まないように支えられる。
股に当たる宿儺の足に擦り付けたくなる衝動を抑えて広がる欲情に息が乱れ、合間合間に呼吸する隙間だけ与えられて貪られるようにキスされる。
「はッん、ぅ、あ、は、ンンっ」
「ん…」
ぐちゅりと唾液の絡む音と俺と宿儺の息遣い、ぐつぐつとお湯の沸く音が聞こえて卒倒しそうなほど頭が茹だる。
気持ちいい…っ
もっと欲しい
そう思って宿儺の背中に縋りつこうと手を伸ばしたところで
ーぴぴぴぴッ
「っ!ンンっ」
「ちっ」
タイマーからけたたましく音が鳴って、驚きで身体が跳ね、慌てて宿儺の身体を押し退ける。
宿儺も気を取られたのかばっと身体が離れて、頭上から小さく舌打ちが聞こえてくる。
どくどくと激しく跳ねる心臓に手を当ててキッチンにしゃがみ込む。
カタカタと作業する音が聞こえてくる中で、腰が抜けて立てなくて恥ずかしさで顔まで赤くなってくる。
時間なんて忘れて没頭してた…
いつの間にか火を切って蒸らしていたのか、宿儺の余裕に内心で舌打ちしながら頭を抱える。
「恵」
「ほんと…馬鹿だ」
「いつまでそうしておくつもりだ?俺に食われたいのだろ…」
「っ、お前だって」
顔を上げて"ああミスった"と思った。
紅い瞳が獰猛に光っていて、ぎらつく瞳が俺を見下ろしている光景にひゅっと喉が鳴る。
「言っただろ、俺もお前を食いたいと…腰が抜けて立てないか?…良い良い、俺が運んでやろうなあ?」
「ひっ、いい、やだ…ッ、プリン食べるんだろっ」
「そう怖がるな、苛めたくなる。プリンは冷やしておけば良い」
グッと膝裏と背中に手が回って抱き上げられてしまえば、横抱きで宿儺がジッと見つめてくる。
熱すぎる視線にドギマギとして顔を伏せながら足をばたつかせてみてもまるで抵抗にならなくて、気付けばベッドに押し倒される。
「ぅぅ、くそっ」
「口が悪いなあ」
もうここまで運ばれてしまえば抵抗も出来ず、むくむくと自分の中で欲が膨れ上がる。
上機嫌にキスを落としてくる宿儺を睨み付けながら悪態を吐けば可笑しそうに笑いながら目元を撫でられる。
「っ、う、馬鹿だ…っ俺もお前もッ」
「揃いだな?」
「ッ〜!このッ、ンンっ!ぅ!」
1人楽しそうな男に反抗しようとすればもう黙れとばかりに口を塞がれて、宿儺の掌が服の下に入り込んでくる。
結局プリンの仕上げは宿儺がやったし、俺はベッドの上で宿儺に文句を言いながら美味しく出来たそれを食べた。
本当は仕上げにカラメルを掛けるのがやりたかったと文句を零せば、プリンの甘味を中和するようにほろ苦いキスが落ちてきた。
end.