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    ギギ@coinupippi

    ココイヌの壁打ち、練習用垢
    小説のつもり

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    POIPOI 49

    ギギ@coinupippi

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    続き。

    #ココイヌ
    cocoInu

    確かにそこには愛がある。3ココは慎重に物事を考え運んでいくタイプだった。
    相手の裏の裏、何手も先まで読んでから行動する男だった。
    ココのそういう周到な罠に嵌められて苦汁を舐めさせられた奴等をどれだけ見てきて事か。
    その度に俺はココが敵じゃなくて良かった、と安心したものだ。
    本人にそう言えばココはイヌピーにはこんな事する訳がない、と笑い飛ばした。
    それだけで俺は安心したし、実際にその後ココと敵対する事になった時だってココから飛んで来たのは吹っ飛びもしないパンチだった。
    まあその後に色々あった上での今なんだけど。

    ココと大喧嘩をしてから半月ぐらいが経った。
    その間にココからは連絡一つ無かった。
    もう愛想を尽かされたのかもしれない。そうなっても仕方ないくらい暴れたし、ひどい事も言い合った。
    喧嘩したら最後に折れてくれるのはいつもココの方だった。
    俺は素直になれなくてそっぽを向いて、おう、とか可愛い気の無い返事をするだけ。
    今はあの頃より大人なのに、ココにごめんの一言が言えないでいる。
    何をそんなに頑なになっているのか自分でもわからないけど、ココに電話の一つメールの一通すら出来なくて落ち込む。
    そもそもの原因からして馬鹿馬鹿しい事だった。
    ココが手を出してくれないから拗ねた。ココはあんなに優しくしてくれて、言わなくても伝わるくらい俺の事を大切にしてくれてたのに。
    俺のあれは甘えだ。ココなら甘やかしてくれる、って何処かで未だにそんな事を思っているからあんな態度を取ったのだ。
    こんなガキみたいな馬鹿、俺だったらとっくに見限ってる。
    ココとまた会えるだけで幸せだったのに贅沢に慣れて貪欲になって、我儘を言ってしまった。
    後悔しても今更だし、もし電話をして繋がらなかったら。メールが宛先不明で返ってきたら。
    そう考えると増々不安が強くなって何も出来なくなる。
    このまま終わってしまって良いのだろうか。
    そう思うも張ってしまった意地の解き方がわからないまま、ここまで来てしまった。
    ココが俺を甘やかして来たからいけないんだ。
    だって俺が本気で友達と喧嘩したの、お前だけなんだから。
    チーム同士の喧嘩なんかじゃない。そんな大層なものでは無かったけど、ココを失う程の価値のある喧嘩でも無かった。
    修理を請け負ったバイクのパーツをバラしながらよほど顔に出ていたのか、ドラケンに人殺しでもしてきたみたいな顔だと笑われた。
    何があったかわかんねぇけどとりあえず客前出る時はその顔はやめろよ、と軽く注意を受けてそんなにかと眉間を揉んだ。
    皺のあとがついてしまうくらい顔面に力が入っていたらしい。気をつけないと。
    ココの事はとても気になるけど、俺には俺の仕事がある。
    それをちゃんとしなければと一旦この件は頭の片隅に追いやって仕事に没頭した。

    それも束の間の事で、仕事さえ終われば頭の中にはココの事ばかりに戻ってしまう。
    ココから渡されたスマホはココ専用のもので他の誰もアドレス帳には居ない。
    それだけは充電を切らさないように帰ったら直ぐに充電器に差していつ鳴っても良いように手元に置いておいた。
    待てども暮らせども結局その日もココからの連絡は無かった。

    それから数日。
    悩んだ俺の事なんて何も無かったかのように、唐突にココは目の前に現れた。
    特に隠していたわけではないが、場所を言った覚えの無い俺の借りてるマンションの前で。
    俺の部屋のドアに寄りかかっていたココはいつも会う時の緩めの服装とは違い、カッチリとしたグレーのスーツ姿だった。
    仕事終わりで適当なシャツにジーパンの俺との対比が激しい。
    一目でわかるくらい高そうで綺麗なラインのスーツはココの細身の体によく似合っていた。
    髪もしっかりセットされていて、コンビニで立ち読みするメンズ雑誌から飛び出してきたみたいな出で立ちだ。
    半月以上ぶりに見るココはやっぱり格好良くてモテそうだなと思う。
    ココの顔を見れて嬉しいのに、何だか今になって自分と住む世界が違う人間に思えた。
    ただのバイク屋の俺とココじゃあまりにも不釣り合いみたいで直視するのが気まずくて俯いた。

    「よぉ、イヌピー」

    何も無いように声を掛けてくるココに俺は小さな声で、おう、とだけ無愛想に返した。
    本当は謝らないといけない、と内心では思うのに上手く声が言葉にならなかった。

    「部屋入っていい?」

    「散らかってるから…」

    「イヌピーの部屋が片付いてるなんて期待してねぇよ」

    「失礼な奴だな。俺だって独り暮らしで整理整頓くらい覚えたんだ」

    俺の言葉にココはそれは期待するわ、と笑った。
    ココのそんな顔を見て、もう怒ってないかもしれないと少し安堵した。
    しかし、俺の所帯染みた部屋にこんな格好良いスーツで決めてるココが入るのはどうなのかと思う。
    そうは言ってももうココは入る気満々だし今更断るのも不自然だから、鍵を取り出して渋々部屋へ招いた。

    「狭いから、ベッド座ってくれ」

    手狭なワンルーム。男の独り暮らしの殺風景な部屋にお洒落なココの存在は浮きまくってる。
    俺の部屋はあまり物は無いから、テーブルと座椅子が一つしかない。
    その座椅子もドラケンからのお下がりでそろそろスプリングが飛び出して来そうな気配がする。
    ベッドだけは給料貯めて買ったちょっと良いセミダブルのやつだ。
    寝るのが好きだから寝る場所だけはちゃんとしたかった俺の拘り。
    布団は今日寝起きたままの状態だったから適当に隅っこに避けてココを座らせた。
    ついでにスーツの上着も受け取ってハンガーにかける。
    ズッシリと生地の重いそれは、近くで見ると光沢があり素人目でも高級なものとわかる。

    「今日は随分決めてんだな」

    「ああ、幹部会があったからな」

    「そうか…」

    冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出してココに差し出した。
    窮屈そうだったネクタイを緩め、シャツのボタンを2つ程開けたココがそのままベッドに寝転んだ。
    幾ら俺が奮発して買ったベッドだからって多分ココの使っているものに比べたら安物に違いないそれ。
    つい数時間前まで自分が寝ていた場所に寝転ばれる生々しさに気まずくて少し恥ずかしい思いだった。

    「イヌピーの匂いする」

    「やめろ、嗅ぐな。ファブリーズする!」

    「臭いとか言ってねぇーし!やめろ、ファブリーズを俺にかけんな」

    「人の家初めて来て寛ぎすぎだろ」

    「言ってもイヌピーの部屋だし気使う要素無くね?」

    「他人入れるの初めてなんだぞ!少しは遠慮しろ!」

    ベッドの匂いなんて嗅がれて羞恥で顔が熱くなりながらもファブリーズを持ってジリジリ迫る俺にココも両手を伸ばして応戦してくる。
    暫くシュッと吹きかける俺にココがやめろ、と抵抗して手隙になった場所に更にファブリーズを吹きかけるとココが喚くいう謎の攻防をしてしまった。

    「いや、違う!こんなじゃれ合いしに来たんじゃねぇーし!」

    いち早く正気に戻ったココが起き上がり、少し乱れた髪を手で撫で付けて整える。
    さっきまで子供みたいだったのに、また男前になっちまった。
    あんまり格好良いと緊張するからやめてほしい。

    「何しに来たわけ?つーか何で俺の家知ってんの?」

    「えー、そこ聞きたい?」

    「…やっぱいいや」

    世の中知らなくて良い事もあるし…。
    聞かなくて良いと判断した俺にココも懸命な判断だって笑ってる。悪い人のする笑みだ。
    そんな事よりもココは俺に用もなく会いに来たわけじゃなさそうだ。
    連絡もくれずに(俺もしなかったけど)突然直接会いに来るなんて、よほど伝えたい事でもあるんだろう。
    改まった話なのかな。あんまりココの口からそういうの聞きたくないな。
    今の俺とココはいつ終わりになってもおかしくない関係だから、そういう話かもしれないし。
    律儀なココならお別れをちゃんと言いに来てくれたのかも…あの日みたいに。

    「イヌピー?」

    俺が自分の考えにだんだん落ち込んできて、無言になってしまったのをココが伺ってくる。
    スーツ姿のココ、どう見ても堅気じゃない雰囲気なのに格好良いよな。
    俺と違ってココは何でも似合うし、お洒落だし良い匂いするし…すっかり大人の男だ。
    俺も同じ歳ではあるけど、小さい頃から知ってる幼馴染の変化は離れていた年数分感じて見慣れない。
    ココはココだってわかってるけど、どれくらい俺の知ってる部分があってどれくらい俺の知らない部分があるのかな。
    見納めになってしまうかもしれないし、今のうちに堪能しておきたい。

    「…何?見すぎじゃね?」

    これが最後に見るココになるのは嫌だけど、そうなるかもしれない。
    だから目に焼き付けていつでも思い出せるようにしておきたい。
    そう思って至近距離からココを見つめてみる。
    上から下までココは格好良い。昔から女にモテてたけど、今もそうに違いない。話す以前に怖がられて女に近寄られもしない俺とは違って。
    ベッドに座るココを下から見上げるシチュエーションもなかなか無いしな。
    下から見てもココはお洒落で格好良い。

    「ココはやっぱり格好良いな」

    「唐突だな…。相変わらずイヌピーの思考回路謎だわ」

    まぁ、そこが良いんだけどって笑ってからとりあえず話そうか、と言われる。
    話すのあんまり乗り気じゃないけど、ココが話があるというのなら聞かなければならないだろう。
    渋々頷いてから俺はココと向き合った。

    「これ、イヌピーにあげる」

    そう言ってココがスーツの胸ポケットに手を入れると何かを握ったらしき拳を差し出してきた。 
    一体何なのか検討もつかないけど、反射的に俺は受け取ろうと手の平を出した。
    コロンとココの手から転がり落ちて来たのは珍しくもない、よくある形の銀色の鍵だった。
    そう、ちょうど俺の家の鍵みたいな。

    「…これは?」

    手の中の物を形を確かめるように指で触れてみても全くピンと来ない。
    これが一体どこの鍵で何でココがそれを俺に寄越したのかもわからない。
    鍵の形状的にロッカーとか車やバイクの物では無いのはわかる。恐らく何処かの部屋の鍵だ。

    「ココの家の鍵?」

    「これから、俺とイヌピーの家になるかもしれない部屋の鍵」

    唐突なココのその言葉に俺の理解力が追いつかず、首を傾げて手の平に乗る無機物を見つめた。
    俺とココの家になるかもしれない?俺とココの?
    俺の家は今現在のこの場所で、ドラケンと経営してるバイク屋から徒歩10分圏内の掘り出し物件だ。 
    築年数は結構経ってるけど、風呂トイレ付で駅からも遠くない。
    家賃も都内としては破格の値段だった。
    大家が天涯孤独の人でもう若くないから今の住人たちが退去すれば取り壊されれる予定らしい。
    古い建物ではあるけどほぼ寝に帰るだけの俺にはちょうどいい物件だ。近所付き合いも無いし。
    それとは別の部屋の鍵をココから手渡された。

    「イヌピーはここに住んでてもいいよ。俺も殆ど帰って来れないと思うし」

    「…どういう事かわかんねぇ」

    俺はココみたいに頭が良いわけじゃない。
    遠回しに言われてもよくわからない。
    顔に出ていたのだろうか、ココは俺を見て小さく笑った。
    腰掛けていたベッドから降りると、俺の目の前までやってきて目線を合わせるようにしゃがむと手を伸ばしてくる。
    ココの手が俺の髪に触れ、頬をスルリと撫でた。
    相変わらず手が冷たいなと思って俺の頬で暖を取れという気持ちでスリスリと懐いてみる。
    ココが犬みてぇと笑う。

    「イヌピーが嫌じゃ無ければ、俺が帰って来るのをその鍵の部屋で待っててほしい。」

    「そんなの、嫌なわけないけど…」

    それって、何だか一緒に暮らすみたいだな。
    思いついたままにボソリと呟けばココは何でも無い事みたいに、そういうつもりで言ったんだけどって言うから。
    流石に驚いて言葉が出なかった。

    「イヌピーと俺の仕事の事考えたら、それが一緒に居られる方法かなと思ったんだ」

    ココの仕事の事は聞かないけど、それなりにはわかってるつもりだ。
    俺の今居る世界とはあまりにも違い過ぎる場所に居る。
    だから多分、そんなに長くはこの関係が続かないだろう事も本当はわかってた。
    それでも許される限りはココと一緒に居たかった。
    喧嘩しちゃったけど…
     
    「俺は良いけど…ココが大変なんじゃないのか?」

    「大変だろうな。きっと全然帰って来れないと思うし、誰にも知られちゃいけないからイヌピーにも黙ってて貰わないといけないだろうし」

    「ドラケンにも?」

    「ドラケンにも」

    一緒に仕事して毎日のように顔を合わすドラケンにも隠さないといけないのか。そう考えると少しだけ迷ったが、ココと居られるのならそれでも構わない。
    わかった、と頷けばどことなくホッとした顔で今度の休みは必要なもん買いに行こうとココが言った。
    だから俺は大きいベッドが欲しい、って強請る。

    「このベッドよりデカイやつ?」

    「うん。ココと俺で一つで良い」

    ココと暮らす部屋に一つだけ大きいベッドがあれば良い。
    二人でふざけ合って寝転がっても落ちないくらい、あとは俺とココが飛び乗っても壊れないくらいの。
    あとは欲しい物なんて無い。

    「そうだな、一つで十分だ」

    ニッてココが笑ったから、きっと俺の言いたい事は伝わったんだと思う。
    一緒に暮らすならキスだけの子供の付き合い方は出来ない。
    意識しだしたらココから受け取った鍵が手の中で途端に重たく感じる。キーホルダーも何もついてないのに。

    「俺も、覚悟決めたぜイヌピー」

    そう言ってココが俺にキスをした。
    俺も、って短く答えるとココの首の後ろに手を回して引き寄せてキスを返す。
    ココと一緒に居る覚悟。そのせいで何かをこの先失う事になるかもしれない。
    生活が変わってしまうかもしれない。それでも俺は、今ココと居る事を選ぶ。
    保険の受取人は全部ドラケンにしておこう。
    きっと何かあったら一番迷惑をかけてしまうだろうから。
    そんな事を頭の隅で考えていたら、いつの間にか俺は自分のベッドの上に押し倒されていた。



    この間のしょーもない喧嘩から数日が経つ。
    イヌピー久しぶりにブチ切れてたなぁ。アイツのああいう姿久しぶりに見たわ。
    大寿の下に居た頃のイヌピーは機械的に他人を殴り飛ばすような感じだった。
    あの頃のイヌピーとはあんまり会話も無かったし、俺は俺で忙しかったしなぁ。
    イヌピー、心配になるくらい笑わなかったし楽しそうじゃなかった。
    だから今のイヌピーは人間みがあって良いなぁと思う。表情も昔より豊かになったし。
    俺の前だと子供っぽくなるけど、多分仕事してる時は年相応の振る舞いしてるんだろうな。
    俺の知らない顔してるイヌピーなんて複雑な気持ちになるけど、それだけ俺達は離れていたし違う生活をしてきた。
    今のイヌピーは目つきも昔よりずっと穏やかになったし、雰囲気も柔らかくなった。
    ガキの頃はもっと張り詰めてたし、尖ってて自分も他人も傷つけちゃいそうだったもんな。実際、イヌピーは身も心も摩耗してボロボロだった。
    イヌピーを普通に笑えるようにした環境は俺と一緒では与える事が出来なかったもんだろうし、あの時別々の道を行く決断をしたのは間違いじゃなかった。
    それを後悔はしていない。イヌピーは道を間違えなくて良かった。

    あの日俺はイヌピーと離れる決断をした。
    それは簡単な事じゃなかったけど、必要な事だった。
    本来ならもう二度と交わる筈の無い俺とイヌピーの道は再会を期にまた並行するようになった。
    でももう二度と同じ道は歩けない。イヌピーの行く道と俺の行く道は同じじゃない。ただ、違う道が2本並んで伸びているだけだ。
    その先でまた分かれ道があるかもしれない。分岐した道は今度こそ二度と交わらないかもしれない。
    普通の生活をして生きるイヌピーの手を離すのなら今なんだと思う。
    そうすれば傷は浅く済むし、俺もイヌピーも忘れる事が容易になる。長引けば長引くほど後が辛い。

    わかってるのに、顔を見ると離れがたくなる。

    子供の頃からずっと一緒だったのに別れる時は呆気なかった。
    再会も突然で、運命だとかそんな良いもんじゃ無かった。
    偶然の確率であの場面に居合わせただけ。今ならまだ引き返せる。
    俺にイヌピーのこの先の人生を守るだけの覚悟があるのかと言われたら、まだ迷ってる。何もかも捨てさせる事になるかもしれない。
    今は気持ちが盛り上がっていて冷静じゃなくて、柄にも無く好きな奴と過ごせる事に舞い上がってる。
    もしかしたら俺と居ることでイヌピーの生活が壊れてしまうかもしれない。アイツの大切な物を失くしてしまうかもしれない。
    それだけのものを背負わせていいのかわからない。イヌピー自身、きっとそこまで考えられてないだろう。
    俺と会える事に喜んでくれてはいるけど、それと今の築き上げてきた生活を秤にかけられる程なのか。
    何を捨てても俺を選んでほしいなんて、言えるわけないし俺もそんな事は望んでない。
    もし、また離れる事になったとしても俺はイヌピーが普通に生きて普通に幸せになる方が良い。
    それは紛れもない本心だけど…

    こんな時、自分のこの慎重な思考にうんざりする。
    相手の裏の裏を読み、危うい綱渡りをしながら生きる生活を望んだのは自分だしそこに不満は無い。
    元々そういう事は得意だし、他人の行動を先読みしたり何を考えているかを予想してその通りに相手が動くのは気持ちが良い。
    イヌピーの事だって、大体今何を思っていて何が必要だってわかるからあれこれしてやれたし。
    それ自体は別に良い。けど、その思考癖のせいでここぞと言う時に踏ん切りがつかない。臆病者と言われたらそれまでだ。
    仕方ないだろ、好きな奴の未来を壊すかもしれない選択なんだ。悩むに決まってる。
    こういう時、イヌピーなら悩んでも男らしく覚悟を決めて決断するんだろうな。そうなったイヌピーには迷いが無い。
    俺には到底真似出来ないし、そういうイヌピーが好きなんだよな。

    あーあ、グダグダ考えて悩んでもどうしようも無い。
    結局、俺はイヌピーが好きなんだ。
    二人が離れなきゃならない理由を考えるよりも、二人でこの先どうしていくかを考える方がよっぽど前向きじゃん。
    覚悟を決めるしか無いな。
    仕事に関してならこんなに悩まない。こんなに悩まされるのは後にも先にもイヌピーの事だけだ。
    決断するまで時間はかかったけど、そうと決まれば行動力はある方だ。
    自分の置かれている環境とイヌピーの置かれている環境を如何にして擦り合わせるか。
    考えをそっちの方向に切り替えたら、自分でも気が軽くなるのがわかる。
    行動は早い方がいい。足のつかない、特定されにくい物件を探そう。
    高層マンションとかそんなんじゃなく、できるだけ普通の所が良い。
    名義人も俺じゃないやつを立てて、出来るだけ組織から関連性の無いものを一つずつ慎重に選び取らなければならない。
    まあ、いつかは気付かれるにしてもプライベートの事だ。
    俺が余程のヘマでもしない限り誰も口出しはして来ないだろう。俺だって幹部連中の行動は大体把握していてもそれについてどうこう言った事は一度も無いし、組織を裏切る行為でなければ何をしていても気にもならない。

    その後はいくつもの物件から家賃、立地共に極普通の良さそうな物件を決めた。
    そしてイヌピーに会いにいって一緒に暮らそう、と切り出せば何とか同意を得られた事に安堵した。
    ポーカーフェイスは昔から得意だし、幼馴染のイヌピーすら騙す自信はある。
    本当は内心承諾してくれるかどうか、半々の気持ちだった。もし断られたら、その時はどうするか。緊張していて指先が冷たくなっていた。それでも顔には余裕の表情を見せた。
    好きな奴の前では格好つけたいのが男ってもんだ。
    そんな考えも杞憂だったようで、イヌピーは俺からの唐突な提案に戸惑いながらも受け入れてくれた。
    その事が嬉しかったし、イヌピーから大きなベッドを一つだけ欲しいと強請られたのも俺の顔をニヤつかせる要因になった。

    一つだけのベッド。そこに眠るのは二人。つまり俺とイヌピーはひとつ屋根の下、床を共にする仲になるという事だ。
    イヌピーのそういう意図を読み取って、浮かれないわけがない。
    覚悟を決めたら一線でも二線でも簡単に越えられる。
    何よりイヌピーが俺の事を求めてくれてるのが、心底嬉しかった。思わずキスをしたら可愛い顔して嬉しそうに笑って、キスを返してきた。イヌピーも内心でこの状況に浮かれていたのかも知れない。
    抱き合って何度もキスをしている内に、もうこの目の前にいる男を自分のモノにしてもいいんだよなと思った。好きな奴の部屋で、二人きり。イヌピーの匂いがするベッドが背後にあるのに我慢する意味ももう無いよな、と思ってそのまま俺とイヌピーはどうにかなった。
    つまり、俺はあんなに躊躇っていた事が嘘みたいにイヌピーを抱いた。イヌピーの部屋で。
    終わった後に、どうせなら新しいベッドでしたかったってちょっと拗ねられたけど。
    勿論新しいベッドでもたくさんしような、って囁いたらココはスケベだ…って顔を赤くさせた。
    抱いたら何か変わるなんて感覚は今まで無かったのに、好きな奴を抱いたらもっと愛しくなるんだってきっと普通は当たり前の事を初めて知った夜だった。
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    ギギ@coinupippi

    DONEココイヌだけどココは出て来ない。
    またモブが出張ってる。
    パフェに釣られてイヌピーがJKからココの恋愛相談を受ける話。
    逞しく生きる女の子が好き。
    特大パフェはちょっとだけしょっぱい。乾青宗はその日の夕方、ファミレスで大きなパフェを頬張っていた。地域密着型のローカルチェーンファミレスの限定メニュー。マロンとチョコのモンブランパフェは見た目のゴージャス感と、程良い甘さが若者を中心に人気だった。
     そのパフェの特大サイズは3人前程あり、いつかそれを1人で食べるのが小学生からの夢だった。しかし値段も3倍なので、中々簡単には手が出せない。もし青宗がそれを食べたいと口にすれば、幼馴染はポンと頼んでくれたかもしれない。そうなるのが嫌だったから青宗はそれを幼馴染の前では口にしなかった。
     幼馴染の九井一は、青宗が何気なく口にした些細な事も覚えているしそれを叶えてやろうとする。そうされると何だか青宗は微妙な気持ちになった。嬉しく無いわけでは無いのだが、そんなに与えられても返しきれない。積み重なって関係性が対等じゃなくなってしまう。恐らく九井自身はそんな事まるで気にして無いだろうが、一方的な行為は受け取る側をどんどん傲慢に駄目にしてしまうんじゃ無いかと思うのだ。
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