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    somakusanao

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    somakusanao

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    ココイヌ十二国記パロ。利広は大好きなので、たくさん書けて楽しかったです。

    #ココイヌ
    cocoInu

    十二国記パロ③ では、今からご説明しますね、と書を広げたのは、十二国史最長王朝である奏国の次男にして風来坊、櫨先新こと利広である。そこはさしたる問題ではない。おもしろいことに顔を突っ込みたがる彼は、胎果の王の帰還にここぞとばかりやってきて、説明係に名乗りを上げたということだ。
     女仙たちはどうしても世情に疎く、なによりまだ塙麒もこの世界の仕組みをわかっていない。蓬山の主である玉葉君はそのたおやかな眉を寄せたが、利広が適任であることはしぶしぶ認め、さっさと奥に引きこもった。
     口うるさい……もとい厳格な蓬山の主が姿を消したいま、利広の独壇場である。とはいえ、己の立場をわきまえている利広はきちんと自らの役割を果たすべく、彼が知る世界のすべてを若き塙王に伝えた。
     最初から難しい顔をしていた塙王だったが、事の大きさに頭を抱える。それはそうだろう。一介の学生が一国の王になるのだ。これは利広ら家族にも経験がある。父は交州の港町で宿屋の主だった。それが一晩にして奏国が宗王となった。六百年も前の話だ。いかんせん大昔のことで、ちょっとばかり記憶が怪しいところはあるが、ごくありふれた市井の人間だったはずだ。
     もっともそれはどの国の王も同じことだ。神獣に選ばれた人間が王になる。神籍に入る。ひとが神になるのだ。

    「つまり、オレは王として善政を敷いているうちは延々と生き続けているが、間違えればイヌピーは死ぬし、オレも死ぬということなのか」

     イヌピーというのは巧国は塙麒の字であるらしい。ずいぶんと変わっている字だが、蓬莱風ということなのだろう。

    「だいぶ大雑把にまとめたね。概ね当たっているかな」

     これはこれは、と利広は若い塙王を見直した。
     この国の生まれであっても、なかなか理解することが難しい。いや、むしろ胎果であるから冷静に物事を判断できるということかもしれない。塙王は蓬莱では大学生だったらしい。あちらの大学はずいぶんと進んでいると聞く。なるほど塙王に選ばれるだけある逸材だ。

    「随分と簡単に言ってくれるな」
    「私の決めたことじゃないからね」

     のうのうと言ってのけた利広に塙王は顔をしかめる。これに塙麒は「間違えなければいいだけだ」と、これまたあっさりと言ってのける。

    「イヌピー。間違えたらオマエが死ぬんだぞ」
    「そうだな。オレが死ぬだけだ」

     王が堕落したことにより、麒麟のみがかかる病が失道である。
     麒麟は仁の生き物であり、慈悲深く、争いを厭う。ひとの姿をしているが、ひとではなく、その本性は神獣である。
     とはいえ、塙麒は蓬莱に育った胎果の麒麟だ。
     こちらの生まれの麒麟は儚く美しく楚々とした傾向にあるが、塙麒はじつにはきはきとしている。蓬山に戻ってきたばかりの頃は、散策に勤しみ岩山にのぼった挙句に怪我をして帰ってきて、女仙たちを卒倒させたという麒麟らしからぬ逸話の持ち主だ。いささか元気すぎる麒麟は前代未聞だ。六百年生きてみるものだなぁ、と利広は目を細めた。
     利広はすっかりおもしろがっていたが、当事者である塙王は頭を抱えるばかりだ。

    「オマエが死んだら、オレも死ぬシステムだろう」
    「退位すればオマエは助かる、はずだ、そうだよな?」
    「うん。その通り。よく覚えていたね」

     塙麒は「オレだって勉強したんだぜ」とでも言わんばかりに誇らしげな顔だが、その隣にいる塙王の目はつめたい。

    「イヌピーがいないというのに、オレに生きろというのかよ」
    「ココ」

     ココというのが塙王の字である。やはり蓬莱風だ。洒落ている。

    「オマエが死んだ世の中に興味はない」
     
     折しも、うら若き、というよりは幼いくらいの女仙がお茶を淹れてくれた。
     ずいぶんとはっきり言うね、と利広は呟けば、ええ、塙王君と塙麒はマブであられるようですよ、と返される。マブってなんだい? と聞けば、あちらのおことばのようです、とにこやかに言われた。見た目は十ほどの女仙だが、その十倍は生きているだろう。おおらかに聞き流す術に長けているようだった。その彼女が言うには、塙王がこちらに戻ったのはつい先日のことだが、すっかりと慣れた光景であるらしい。
     なるほどねぇ、と利広は鷹揚に頷いた。渦中の塙王と塙麒はいまだ言い争いの最終である。なんとまぁ仲のよろしいことで。

    「まぁまぁ、ようはまつりごとを間違えなければいいだけのことだからさ」

     途端に塙王は嫌な顔をした。
     過ちを犯さないようにする。ただそれだけのことが、なんとむずかしいことか。この若き塙王はすでに知っているのだ。ずいぶんと若いが道理をわかっている。その聡明さが身を滅ぼさなければいいが。
     長く生きた利広はさまざまな王を見てきた。どの王も立派な王だった。どの王も賢王たる資格を持っていた。けれど王の顔触れはどんどんと変わっていく。いまや宗王が立つ前にいた王はひとりとして残っていない。

    「だいじょうぶだ。ココのすることはいつだって正しい。間違っていない」
    「イヌピーはオレのことを過信しすぎだ」
    「オレはココのすることを信じているだけだ」

     なるほど、これが巧国の新しい王と麒麟か。

    「いいものをみせてもらった。うんうん。やはり人を信じることは大事だと私は思うな。そうだ。まだ選定のお祝いの品を決めていなかったんだけど、騎獣でいいかな。騶虞なんかどうだろう」

     供王・蔡晶が見れば「胡散臭い」と一刀両断する笑顔で提案した利広に、塙麒はぱっと顔を輝かせ、塙王は途端に否定した。

    「騶虞! オレも乗ってみたかったんだ!」
    「妖に乗るなんてダメに決まってる!」
     
     とうとうこらえきれなくなった利広は、朗らかな笑い声をあげた。

    「ははははは、きみたちはほんとうになかよしなんだなぁ。蓬莱ではマブっていうんだって?」




     さてこの一件から「マブ」という言葉はすっかりと蓬山の女仙たちにおぼえられたので、のちに胎果である景王と泰麒を大いに困惑させることになる。

    「マブってマブダチってことですよね? 僕は親友という意味だと思っていたんですが」
    「私もその認識なんだけれど、もしかして言葉が変わっていったのかな」
    「これがジェネレーションギャップ……」

     胎果ふたりの誤解が溶けるのは、まだまだ先の話である。

     


     

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    mocha

    PASTドラケンが暇つぶしに作ったキュウリ製のバイクを持ち帰ったイヌピーが赤音のことを思い出してモヤモヤする話。同棲しているココイヌ。未来捏造、両片思いのすれ違いネタ。ココはイヌピーと付き合ってるつもりで、イヌピーはココに赤音の身代わりにされているつもりでいます。
    ココイヌ版ワンドロ・ワンライのお題「お盆」で書いたものです。
    天国からの乗り物 この時期にはキュウリを使って馬を作るものらしい。
     どこからかそんな話を聞いてきたらしい龍宮寺堅が、乾青宗に渡してきたのは馬ではなくバイクだった。キュウリを使って作ったバイクは、馬よりも早く死者に戻ってきてほしいという意味らしい。
     何をバカなことをと思ったが、キュウリのバイクを2台作りながら彼が思い浮かべている死者が誰なのかは察しがついたので、青宗は何も言わずにおいた。別れるはずもないタイミングで別れてしまったひとに、少しでも早く戻ってきてほしい、会いたいという気持ちは青宗にも理解ができる。
     だが理解はできるものの、複雑だった。姉には会いたいけれども会いたくない。今、九井一は青宗と同棲しているが、それはあくまで青宗が姉のような顔立ちのままで大人になったからだ。
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