魔性の男「イヌピー、今の話わかった?」
「いや、まったくわかんねぇ」
イヌピーは話を聞くときは、まっすぐと目を見てくる。なので、話をわかってくれているような錯覚を覚えるが、実際のところイヌピーはなにもわかっていないことが多かった。思えば赤音さんもそういうところがあった。まっすぐに目を見つめられると、もしかしたらオレのことが好きなんじゃないかな?と思ってしまうのだ。おそるべき魔性の姉弟だ。
ゆっくりと視線をあげると、イヌピーとばちりと目が合った。イヌピーは人の目を見る癖があるだけなのに、オレに気があるんじゃないかな、とうっかり勘違いしてしまいそうになる。
「イヌピーってさ、目を見て話すけど、それやめた方がいいよ」
「なんでだ?」
「オレのこと好きなんじゃないかなって誤解される」
「誤解じゃねぇけど」
おそるべき魔性の男は「やっと気づいたのか。ココは案外にぶいな」と言って、オレと目を合わせて笑った。