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    ゆりお

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    ゆりお

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    お題「共同作業」

    ##東リ
    #ココイヌ
    cocoInu

    ココイヌ/東リ 本物の暗闇は原始的な恐怖を催させ、土からは湿ったにおいがした。
     山奥の空気は薄いようで重く、九井は何度も目眩を感じて息を深く吸った。車のライトですら、夜に吸い込まれてそう遠くまでは照らせない。視界はひどく狭かった。何度も背後に得体の知れない影がよぎるような錯覚を覚え、背筋が冷える。
     静かだった。金属が土を掘り返す音と、お互いの息遣いだけが聞こえる。陰気な空気に飲まれないよう、努めて明るく九井は声を出した。
    「オレたちのやる仕事か? これ」
    「いいから手を動かせよ」
     そのぼやきを、乾は冷たく切り捨てた。土にシャベルを突き立てる。掻き出した土を外に出す。ただそれだけを、小一時間ほど繰り返している。
    「悪いなイヌピー。こんなこと手伝わせて」
     息を弾ませながら、九井は言った。
    「お得意さんが急ぎって煩くてさ」
    「べつに。ココがやれって言うならやるだけだ」
     無愛想な口調とは裏腹に、彼の言葉は従順だった。そのことに、九井は満足した。
     不意に、シャベルの先に硬いものが当たって弾かれる。痛みととももに痺れが腕に走り、九井は舌を打った。
    「イヌピー、こっち照らしてくれ」
     乾は手を止め、地面に置いてあったライトを手に取って九井の足元に向けた。
    「石かよ」
     九井は吐き捨てて、シャベルを放り投げた。しゃがみ込んで周りの土を手で掻き、人の頭部ほどもある石を掘り出す。爪の間に挟まった土の感触が気持ち悪かった。外に放り投げ、また作業を再開する。九井は大きく息をつく。割りに合わない仕事だが、さらに金を引き出すための信頼作りのため、どうしても断れなかった。
     一メートルも深く掘るのは、少年の体力でもかなりの重労働だ。ようやく150cmほどの細長い穴が出来上がった頃には、二人の息は上がっていた。
    「はあ、やってらんねぇな」
     先に穴から這い出た乾は、地面に突き立てたシャベルに寄りかかるようにして、九井を見下ろした。
    「やれって言ったのはお前だろうが」
    「バカは口が軽いからな。さすがに信頼できる相手にしか頼めねぇよ」
     乾が手を差し出した。その手を掴み、九井は彼に笑いかけた。
    「頼りにしてんだぜ♡ イヌピー」
     乾は答えず、見た目よりもずっと強い力で彼を引き上げた。

     九井は、近くに停めてあった車のトランクを開いた。そこには、布に包まれた『何か』が入っていた。人間ほどの大きさのそれ。中身は九井も知らない。聞いてもいない。そういう約束だった。ただ、子供か、小柄な女性をシーツでくるめば、よく似たものが出来上がるだろう。
    「そっち持て」
     二人で両端を持って外に出す。それは想像よりもずっと重く、九井は思わず手を滑らせた。鈍く重い音がした。落ちた拍子に布が捲れて、長い髪がばさりと散らばった。暗闇の中で、白い肌が浮かび上がって見えた。たった一瞬で、幼い顔立ちが九井の脳裏に刻まれた。
    「————っ!」
     声にならない悲鳴をあげ、九井は後ずさった。足がもつれて、思わず尻餅をつく。
     その醜態を、乾は笑ったりはしなかった。彼も青ざめた目で、それを見下ろしていた。
     数秒、沈黙が落ちた。
     九井が恐る恐る起き上がる。地面に触れた服に湿気が染み込んで、不快な感触を伴っていた。彼は這うようにしてそれに近づくと、震える手で布を直した。
    「……見たか?」
    「見てない」
     乾は断言した。それは明らかに嘘であったが、九井がそれを指摘することはなかった。
     無言のまま、二人は『それ』を運び直した。今度こそ慎重に抱え、九井の合図とともに穴の中に投げ込んだ。
     それからお互い、何も言わなかった。ただ無心に土をかけ、それが終わると足で踏み固め、最後に落ち葉をかけて偽装した。
     全てが終わった頃には、既に空は白み始めていた。冬の遅い朝が忍び寄って二人の足元を照らした。九井は深く息を吸い込んだ。冷たく澄み渡った空気が肺に染みて、血液が浄化されてゆくように思えた。細胞が生まれ変わってゆく。この夜のことが、まるで夢のように思えた。
     疲労と眠気を自覚する。冷え切った耳がジンジンと痛む。九井はあくびを噛み殺した。
     緊張が解けて気持ちが弛緩してゆく。けれどもそれとは裏腹に、身体の一部が反応を示していた。
    「したくなった」
    「は?」
    「イヌピーもだろ?」
     乾は嫌な顔をしていた。九井は構わず彼を抱き寄せて口付けた。表情とは裏腹に、乾は舌を絡めてきた。熱が二人の間を行き交い、一気に体温が上がる。それが心地よくて、九井は目を閉じた。
     早く家に帰って、温かいベッドの中、二人きりになりたくて仕方がなかった。
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