かみさまのくに 川端康成の有名な小説の書き出しに「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」とある。オレが鳥居をくぐり抜けたら、そこは神様の国だった。
オレもね、おかしいなと思ったんだよ。こんなところに鳥居なんてあったっけ?って。
そのときオレはバイトに遅刻しそうになって、携帯片手に走っていた。30分にタイムカードを押さなきゃいけないのに、携帯が示す時刻は27分。ちなみに職場まではバスに乗って20分。バス停にすら辿り着いていない。どうやったって無理だ。どこでもドアでもない限り無理だ。そんなオレの目の前に飛び込んできたのが鳥居だった。こんなところに鳥居なんてあったっけ?
「あ、しまった」
鳥居に気を取られたせいか、オレの手から携帯がすっぽ抜けて、鳥居の奥に飛んでいった。今日日、携帯がないとなにもできない。遅刻の連絡さえできない。オレは慌てて携帯を取りに行った。携帯しか見ていなかったから、鳥居をくぐり抜けたことに無自覚だった。
あれ?と思ったのは、鳥居をくぐり抜けたときに、何か妙な感じがしたからだ。後から思えば結界を抜けた感覚だった。
とにかくオレは携帯を取り戻して、ほっと顔をあげたら、そこはみごとな庭園だった。砂利ひとつでさえ白く輝き、どうどうたる木々が影を作り、うつくしい花が咲き乱れている。粛々と水をたたえる池が広がっているのさえ見えた。オレは東京育ちだからよく分かんないけど、由緒正しい粛々とした雰囲気を感じる。
「ええ……」
今は夏で、30度を超え、だらだらと汗をかいていたはずだ。それが今はやわらかな風が頬を撫でている。
おかしい。ぜったいにおかしい。
先ほどまでと違う冷や汗がどっと流れる。
さっきまでは住宅街を走っていたはずだ。ふりかえっても、なにもない。アスファルトの道もなく、アパートもなく、電柱もなく、潜り抜けたはずの鳥居もなくなっている。
おそるおそる手にした携帯を見てみれば、画面は真っ暗だった。電源が切れている。慌てて電源を入れ直すも、起動する気配がない。これ、ほんとにまずいことになっちゃったんじゃ……。
オレはへたへたとその場に膝をついた。
しばらく唖然としていたが、なにか声が聞こえたような気がした。
「だ、だれかいませんかー!おーい!」
大声を張り上げたが答える声はない。オレはしかたなく立ち上がり、声が聞こえたような気がした方角に向かってみることにした。きれいに整えられている砂利の上を歩くのは気が引けたが、仕方なしに歩いていくと池に辿り着いた。そこにはどうどうたる橋があった。
さっきまでこんな橋は見えなかったよな?ホラーかな?
泣きそうになりながらも他に方法もない。引き返そうにも、さっきまでいた場所すら分からなくなっている。オレは恐る恐る橋を渡り始めた。すると目の前に屋敷が見えてきた。バカなオレにもわかる格式が高そうなお屋敷だ。
しかし国宝級のお屋敷には職員さんも警備員さんもいない。なんなら鍵もかかっていなかった。作法もなにもわからないけど、おっかなびっくり靴を脱いで上がってみる。ちなみにどこが入り口かもわからなかったので、てきとうなところから入り込んだ。
とりあえず奥に進っていくと、なにやら声が聞こえてきた。異常なことは分かっているが、それでも声が聞こえてきたことに、オレはすっかり安心してしまって、扉を開けてしまった。
そこはやたらとひろい大広間で、宴会をしているような和やかな雰囲気だ。彼らは皆いずれも豪華な和装なので、結婚式か祝典でもはじまるのかもしれない。それにしても目に鮮やかなイケメン御一行様だ。あっちを見てもイケメン。こっちを見てもイケメン。稀に女の子もいるけれど、例外なく美人か美少女だった。もしかして芸能人のパーティかなんかかな。
ぽかんと口を開けていると、向こうも俺に気づいたようだ。
「おまえ誰」
金色の髪を結った小柄な人物だった。整った顔をしているのは言うまでもないが、どこか近寄りがたい冷たげな雰囲気がある。はりあげてもいないのに、声が凛と響く。
その声に部屋中の視線が一斉にオレに向けられる。
みなさんイケメンはイケメンでも武人か軍人かといった迫力の持ち主だ。正直に言えば、ちびりそうだった。
「おい、人間だ。人間がいるぞ」
「人間?まだ儀式ははじまっていないぞ」
人間。オレを見て人間って言っちゃいましたか。
ぶっちゃけね、この雰囲気や状況。イケメン具合から、異世界転生じゃないかなってちょっと思ってた。死んでないから転生ではないのか。
さっきの金髪くんがすっと手をあげると、ざわついていた広間が途端に収まる。もしかして金髪くんは偉い人なのかな。
「おまえ、なまえは?」
「花垣武道です」
「タケミっちか」
え?タケミっち?もしかしてオレの綽名か何かですか……?
ぽかんとしていると、金髪くんの横に辮髪くんがすっと近づく。辮髪くんは長身でガタイがいい。顔つきもシャープだ。イケメンはイケメンでも男が憧れるタイプのイケメンだった。
「マイキー、こいつ」
「ああ、たぶんそうじゃね」
えっと、なんのことでしょう?
彼らの様子を伺っていると、マイキーくんというのが金髪くんのなまえで、ドラケンくんというのが辮髪くんのなまえらしい。オレは彼らに鳥居をくぐり抜けてこちらに来た旨を説明する。これに「うーん」と唸ったのがドラケンくんだ。
「あれは本来人間界から嫁が来るための儀式のためのものなんだ。普通は見えないし、通れないはずなんだが。オイ、今年の鳥居たてたの誰だよ」
「あ、オレだワ」
ドラケンくんの問いかけにすっと手を挙げて姿を現したのは、黒髪ワイルド系イケメンだった。
「バジか~」
「バジならしょうがないな」
「バジさんですからね」
なぜか一同納得のご様子である。そのバジさんとやらは「よせよ、照れるぜ」と頭を掻いていた。なるほど、そういう感じなんですね……なるほど……。
ドラケンくんはこめかみを抑え「これだからバジは」と呻いている。ぽかんとしているオレにシュッとしたイケメンが近づいてきて「三ツ谷」と名乗った。三ツ谷くんがオレに話しかける。
「えーと、タケミっちだっけ、オレたちは神様なんだよね」
どおりで全員がイケメンなわけだ。なんとなく人間ではないことはわかっていたので、納得である。
「それでいま、人間界から嫁神が来るのを待ってたんだ。あ、便宜上、嫁神って言っているけど、嫁神は人間ね」
それで華やかな雰囲気だったのか。結婚式だと思ったオレの直感はあながち間違ってはいなかったようだ。なるほどおめでたい席に、何も知らない一般人がまぎれこんでしまったというわけですか。非常に申し訳ないことをしてしまった。
「あの、オレいま直ぐ帰ります。お邪魔してスイマセン」
「いや、帰り道はないんだよね」
「え?」
「嫁神を迎える鳥居がくぐれるのは一度きり、つまりタケミっちが嫁神ってことになるんだけど」
「……え?」
確かにオレは鳥居をくぐった。だからオレが嫁神である。え。そんな強引な結論ある?
しかし皆は一堂に頷いている。元凶であるバジさんは「わりっ」と謝罪ポーズをとった。え。「悪い」ですむの、これ……。
「うーん。通っちまったもんはしょうがねぇしな。タケミっちには嫁になってもらうしかねぇんだけど」
「え、ええ、えええええ。オレ、男ですよ」
「オレたちは神だからな、あんま関係ねぇんだ。まぁ、すくないけど女もいるぞ。マイキーの妹のエマとか、八戒の姉貴の柚葉とか」
えっと顔をあげたのがエマちゃんで、は?と睨んできたのが柚葉さんのようだ。
どっちを選んでも殺されそうな感じなんですけど。オレのすがる視線にドラケンくんは苦笑する。
「あとは、えっと、三ツ谷にも妹がいたな」
「オレの妹はやらん」
三ツ谷くんからも断言されてしまった。
オレとドラケンくんたちが喋っている間も広間には動揺が広まっていた。
「人間界一の美人が来るはずだったのに、男か~」
「オレは彼女がいるからパス」
「ぱーちんは頭わりぃけど、嫁一途なんだぞゴラァ」
どうやら誰がオレを嫁にするかで混乱しているようだった。女の人が来ると思っていたのに、オレが来ちゃったら、そりゃ困惑するよな。
ざわついていた広間だがマイキーくんの「タケミっち、どうする?誰を選ぶ?」の鶴の一声で沈黙が訪れる。
神様の力関係はよく分からないけど、どうやらマイキーくんはかなりの実力者であるようだ。彼の一挙一動に皆の注目が集まっているのがわかる。そのマイキーくんからの質問に、オレはどう答えていいかわからなかった。
緊張が走ったその時、がしゃんとなにかが倒れる音がした。思わずそちらを見ると、金髪の神様が姿勢を崩していた。「イヌピー、こんなところで寝るなって」と傍らの黒髪神様に声をかけられていたことから、居眠りをしていたことが知れる。
イケメンぞろいの神様の中でもイヌピーくんとやらのイケメン度は群を抜いていた。
輝くような金髪に、宝石よりも美しい双眸。まさに神の名にふさわしい完璧な造形だが、惜しむらくは火傷跡がのこっている。だが、欠陥のあることが彼をいっそう美しく引き立てる。
この騒動の間、イヌピーくんはずっと寝ていたらしく、オレを見て「だれ」と呟いた。
「嫁神だよ。どうやら間違って鳥居をくぐって来ちゃったらしいけど、来たからには嫁神だ。誰が嫁にするかでもめてるんだよ」
「ふーん」
イヌピーくんはオレにあんまり興味がないらしい。興味がないらしいのに。
「じゃあ、オレの嫁になるか」
と言った。
「は?なに言ってんの、イヌピー。こんなちんちくりんを嫁にするだって?」
「誰かが貰わなきゃいけないんだろ」
「だからってイヌピーが貰わなくてもいいだろ」
「別に正式にオレが貰うわけじゃない。とりあえず決まるまでオレの家で預かってもいいっていう話だ」
なるほどな、と言ったのはドラケンくんだった。
イヌピーくんの親友ココくんはさんざん反対したけれど、けっきょくのところオレはイヌピーくんの家に居候させてもらうことになった。
というわけで、イヌピーくんとオレはあからさまな偽装結婚なのである。オレにほんとうの旦那様が現れるまでの仮の関係だ。っていうか、ほんとうの旦那様が決まるのかという疑問はあるが、イヌピーくんはいつまでもいていいと言ってくれている。不愛想なところはあるけど、いい人、もといいい神様なんだよね、イヌピーくん。
イヌピーくんは割と大雑把な神様で、オレのしたいようにさせてくれている。人間界に返る方法はないかと手あたり次第探っていても、まったくの不干渉だ。曰く「帰れるなら帰ったほうがいいだろ」だ。
偽装関係ではあるが、円満であると思う。オレはイヌピーくんを信頼しているし、イヌピーくんもオレを気に入ってくれている。あくまで友人としての話なんだけれども。
「イヌピー、遊びに来たよ。はい、これお土産」
あからさまに牽制してくる神様がいる。ココくんだ。
完璧な美の造形であるイヌピーくんに並んで引けを取らぬココくんは、なんと金をつかさどる神様である。なにそれオレがめっちゃご利益にあやかりたかった神様じゃん。
夜の帳のごとく黒髪に、夜空を煮詰めたような紫の双眸。どこか滴るような色気があるココくんは、まるでイヌピーくんと一対のような造形だ。二柱が並んでいる姿は見ていて飽きることがない。
「この布、仕立てたらすごくイヌピーに似合うと思うんだよね。当ててみてよ。あぁ、やっぱりいいな」
「ココ……」
イヌピーくんは困惑のあまり、オレにヘルプサインを出してくる。「ココはなんか変なものでも食ったのか?」とオレに打ち明けてきたくらい、ココくんの態度は激変したらしい。ココくんはオレがイヌピーくんの嫁を名乗っていることが気に食わないだけだと思うけどな。
「あー、えーとオレお茶を淹れてきますね」
「オレも行く」
イヌピーくんがついて来たら意味ないんですけど。しかしイヌピーくんはがっちりとオレの腕を掴んで「ひとりで行くなよ」アピールをしてくるので、逃げるわけにもいかない。
お茶なんて式神に頼めば一瞬なのに、「鍋どこだっけ」「お茶の葉ってどのくらいいれればいいんですか」とひと騒ぎである。
「イヌピーくんはココくんのことをどう思っているんですか」
「どうって」
「ココくんはイヌピーくんをお嫁さんにしたいんだと思いますけど」
イヌピーくんはちょっと笑った。
「そりゃねぇだろ。ココはあかねのことが好きなんだ」
赤音さんというのはイヌピーくんのお姉さんのことだ。オレも会ったことあるけど、男ならば守りたくなるような可憐な雰囲気のある美人さんで、ココくんの気持ちは分からなくもない。だがしかし、どう考えたってココくんはイヌピーくんのことが大好きだろう。
イヌピーくんだって満更じゃないはずなのだ。だって
「イヌピーくん、その簪きれいですね」
「あ、ああ。ココがくれた」
「似合っていますよ」
「ココは……センスがいいからな」
イヌピーくんはぽっと頬を染める。恋をつかさどる神様のエマちゃんだって逃げ出したくなるような可愛さがある。どちらかと言ったら凛としているイヌピーくんが可憐に見えるのだから、恋というのは偉大である。
ココくんはイヌピーくんが好きだし、イヌピーくんもココくんが好きなのに、両方が両方片思いだと思っているのだ。間に立たされている立場として、はっきり言わせてもらえば、すごくめんどくさい。
ともかくお茶を淹れるだけで一時間もかけるわけにはいかず、ココくんのところに持って行く。イヌピーくんが淹れたどろどろのお茶を、ココくんは美味しそうに飲み干した。恋は盲目である。
「こんにちわ、イヌピーくん、お招きありがとうございます」
「ああ。花垣もオマエが来ると喜ぶしな」
「よぉ、相棒。今日もすっかり疲弊しているな」
「おかげさまで」
そこに現れたのは千冬である。千冬はあのバジさんと縁の深い神様だ。この一件の出来事のきっかけがバジさんの痛恨のミスであることに心を痛めた千冬は、頻繁にオレのもとを訪れくれ、なにくれと世話をしてくれている。
途端にココくんはご機嫌になり、「花垣も隅におけないな」と千冬を旦那様候補扱いしようとする。ちなみに訪れてきたのが三ツ谷くんでも八戒でもカクちゃんでもおなじ台詞をのたまうのだが。
「ココくんもあいかわらずっすね……」
千冬は歴代の嫁神様の文献を持って来てくれたのだ。人間界に戻るヒントがあるのではと頑張って読み進めているのだが、歴代の嫁神様と旦那様はかなりのラブラブで、恋愛小説のようなものばかりだ。毎回千冬と部屋にふたりっきりにされているのだが、イヌピーくんはともかく、ココくんのあからさまな意思を感じる。ふたりっきりになったって、オレと千冬とそんな雰囲気になるはずもないんだけどね。
千冬といっしょに嫁神さま文献を読み漁ったが、今日もただのいちゃらぶ恋愛小説だった。千冬の感想は「三代目の旦那様は脳筋イケメンっすね。まぁ、バジさんには適わないっすけど」だった。
お菓子をつまみながらだらだらと喋っていると、千冬がオレをつついて窓の外を見るように言ってくる。
「イヌピーくんとココくんだ」
うん。気づいてた。気づいてて無視してた。オレの努力だいなしじゃん。
どうやらふたりは庭を散策しているようだ。ココくんがなにかを喋り、イヌピーくんに笑顔を向ける。ココくんはイヌピーくんが好きで好きでたまらないって顔だ。イヌピーくんはイヌピーくんで、ココくんにしか向けない笑顔を見せている。
「この場合、ココくんって間男になるのかな」
「やめろ!」
「だってイヌピーくんはおまえの旦那様だろ」
「偽装だから!」
拗らせたココくんは怖いんだよ。
ていうか考えてみろよ。金の神様のココくんを怒らせたら、いっしょう貧乏ってことじゃないか。そんなのめっちゃコワイ。
その恐怖が神様である千冬には全くわかっていない。
千冬は更に恐怖を口にする。
「あ、ドラケンくんだ」
「ひぃっ」
「え、ドラケンくんだぞ?なに恐がってんだよ、相棒」
ドラケンくんはいいやつだ。そんなのは分かっている。マイキーくんの右腕であるドラケンくんは武神である。この世の境界に現れる不浄のものを始末するという重大な役目を担っているのだ。誰もが一目置くドラケンくんだが、ココくんはドラケンくんをよく思っていない節がある。それにはれっきとした理由があった。
「イヌピー、祝福を頼む」
イヌピーくんは冬をつかさどる神様だ。そして同時に冬器を守護する神でもあるらしい。冬器というのは神が不浄を払う時に使う武器、つまりドラケンくんが持っている武器のことである。
ちなみに赤音さんは夏をつかさどる神様である。
「わかった。ドラケン、しゃがめ」
そして祝福というのがオレから見るとただのキスシーンだった。イヌピーくんがくちづけているのはドラケンくんの額なんだけど、ふたりがイケメンであるため、めちゃくちゃ雰囲気がある。
「武運を」
「よっしゃ。行ってくるぜ」
イヌピーくんに他意はないんだろう。他意はないんだろうが、ココくんの機嫌は急降下している。これは夜まで帰らないコースだ確実に。イヌピーくんはどうやってココくんの機嫌を取っているんだろうか。翌日かなりげんなりと疲れている様子である。まぁあんまり聞き出したい話じゃない。恋愛小説はまだなんとかがんばれるけど、官能小説はちょっと勘弁してほしい。
二柱の拗れた恋の行方はココくんがイヌピーくんの求愛すればいいだけだと思うんだけど。
「拗れてるな~……」
「なんの話?」
「うわっ、マイキーくん!」
「暇だから遊びに来た」
「暇だったらドラケンくんの手伝いをすればいいのに」
「そんなのケンチンだけでじゅうぶん。っていうか、オレがついてったら、不浄のものが逃げるから意味ないし」
この神の世界において最も位の高い神様であるマイキーくんだが、さみしがりのかまってちゃんである。暇だからの一言で嵐を起こし、雷を落とす。荒ぶる神かと思えば、その一方で祝福を与えるところもある。気まぐれで、やさしく残酷な神様マイキーくんのいま一番のお気に入りはオレだった。マイキーくんに対抗できる理由を作れるのは旦那様(仮)のイヌピーくんくらいなのだが、そのイヌピーくんはココくんに捕まっている。あ、これ積んだわ。マイキーくんがにんまりと笑う。
「タケミッチ、あそぼ」
もちろんオレに断る術はなかった。
「いちばん拗らせてんのは相棒だと思うけどな……」
などと千冬が呟いていたことなど、オレはまったく知る由もなかった。