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    kyosato_23

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    kyosato_23

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    酒の勢いでうっかり一線を超える月鯉が書きたかったので書きました。
    まだ途中です。
    着任したての頃。
    ビール工場で1番ぐでぐでになってる(杉と比べると特に)のが可愛くて、薩摩人だけどあまり酒に強くない鯉を推してます。

    #月鯉
    Tsukishima/Koito

    酒の勢いでうっかり一線超える月鯉



    10月も後半になれば北海道の気温は徐々に冬に近づく。昼は太陽のある日はまだ過ごしやすい気温であるが、夕刻を過ぎれば冷える。
    汗をかいた素肌の上を夜風が撫でていくのにひどい肌寒さを感じ、鯉登は眉を顰めて目を覚ました。
    日は昇っていないが、外はうっすらと白みつつある、明け方のようだった。
    素肌、とは。
    はたと気付いて寝惚けた意識のまま自分の胸元や肩に手を這わせる。確かに裸である。
    潔癖のきらいがある鯉登はよほどのことがない限り寝間着も着ずに床に入ったりはしないので、まず裸であることに困惑した。次にどうやらそもそも自分が寝ている場所が布団の上ではないのにも気付く。どう考えても体の下にあるのは布団の綿の心地よい柔らかさではなく、いぐさの香りだった。畳の上で眠ってしまったというのか。
    呆然として妙に気だるい体を起こすと、目に飛び込んできたのは予想の通り褌すら身に着けていない丸裸の体。そして腹から腰、腿にかけてのあたりに脱いだ軍衣をかけただけのしどけない姿だった。
    先述の通り鯉登は潔癖症である。有事の際ならばともかく日常では軍衣の手入れを怠らず、ましてこのように畳の上で寝転がって布団の代わりに裸身に打ちかけようなど思わない性質だった。
    何があったのかと記憶を探ろうとした矢先、ふと隣にこちらへ背を向けた体勢で転がっている人間がいるのに気付いて目を見張り、その男が同じく裸であることにぎょっと身を竦ませ、更にそれが自分の補佐役である月島であるのに血の気が引いた。
    なぜ、揃って裸なのだ。相撲でも取ったのか。そう考えればいやに体がじっとりと汗にまみれているのも頷ける。それにしては褌すらしてないとはどうしたことなのか。
    口端を引き攣らせながら体を捩る。やたらに下半身、特に内腿から臀部にかけてねっとりとした、明らかに汗とは違う質感の体液の気配を感じるのをまさかそんなはずはないと頭の中で否定する。
    だがいつも夜寝る前に焚いていた香の匂いがしない為か、室内に濃い酒の残り香と大の男二人の体液の匂いが充満しているのが嫌でもわかる。何よりも尻の間にひりひり、じんじん、どう表現していいのか定かでない痛みと共に内側に何かが入っていたかのような異物感があって、否定の言葉が急速に力を失っていく。
    鯉登は負けん気こそ強いが、決して屁理屈や自分の感情を誤魔化すのに長けている訳ではない。
    裸の男が二人、酒と体液の匂い、尻の痛みと言い逃れできない状況証拠を叩きつけられて、受け流してなかったことにするほど器用ではない鯉登ができるのはただただ補佐の男の名前を呼ぶことだけだった。
    「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!つッ、月島ぁ!!月島ぁぁぁぁぁぁ!!」


    ***


    元を辿れば、月島を伴って訪れた他の聯隊も交えた酒の席である。
    ただでさえ海から陸へ来た良家の子息がいるという物珍しさで一部で話題になっていたのに加えて、いざ着任してみれば端正な容姿に風になびく長髪の鯉登は注目の的だった。気品ある佇まいは多くの人間の目を惹いたが同時にその澄ました怜悧な面立ちは近づき難くもあって、様々なやっかみも生んでいた。
    とにかく噂の貴公子を審美してやろうと酒の席の空気も相まって、少尉以上の階級の者は次々と鯉登の元へやってきては言葉を交わす都度に酒を注いでいく。少数参加していた下士官はさすがに遠巻きに眺める程度であったが、好奇の目で見ているのに大差はない。
    鯉登は酒を嗜みはするが、決して酒豪とは言い難かった。浴びるほど飲みたいとは思わないし、どちらかと言えば鶴見と同様に甘味が好きなのである。
    だが薩摩の出であるというだけで酒に強いと思い込んで皆が遠慮なく酒をなみなみと注ぐ上に、相手の方が階級が上だと断るにも断れないでいた。うんざりとするのを顔に出さないように、さりとて殊更に喜んでいるとは見られないようにそっと猪口を口に運び、静かに顎を上げて注がれたものを飲み干す。
    その仕草が見惚れるほど美しいものだから、好色の気のある輩などはそれ見たさに更に飲ませたがるのだと鯉登は気付かないでいた。
    次第に酔ってきた鯉登はそれを表に出すまいと常にも増して笑みが消え、冷ややかな表情になっていったが、それがまた若造が生意気に構えていると見られて逆効果だった。途中から酔い潰してやろうとする者と、矜持を保とうとする鯉登の意地の張り合いのようになりつつあった。
    鯉登は無様を晒して鶴見の醜聞になるような真似だけはしたくなかった。




    その空気を察知していた月島はそろそろ止めねばまずいとその機会を窺っていた。鯉登が相手に酒を注ぐ手が覚束なくなってきている。
    何度か上官にばかり酒を注がせるのは肩身が狭い、自分が代わりに、と替わろうとしたが、鯉登に話しかけにくる連中は鯉登が注ぐ酒を飲みたいのだ。更に言えば冷たい美貌の貴公子が目を伏せて自分に酒を注ぐ姿がそそるのであって、酒が飲めれば相手が誰でもいいという訳ではない。
    ひっきりなしに上官たちが訪れるし、中にはその場から離れなくなった者も数名いる。寄ってたかって酔いつぶれるところを見てやろうという魂胆なのか。その下卑た考えに嫌気が刺す。さすがにそうなれば上官たちを押しのけてでも自分が連れ帰らねばならない。

    「それにしても鯉登少尉殿はさすが薩摩の出だけあるなぁ!」
    しつこく鯉登に絡んでいたうちの一人がそう囃し立てる。他の者は含み笑いだ。
    一見するとおだてて更に酒を飲ませようという意図に聞こえるが、月島は薩摩の出という言葉に別の色合いを感じ取った。思わず険しい顔になりそうなのを堪える。
    当の鯉登は涼しい顔で猪口の中の酒をゆらゆらと揺らし、凛々しい態度を崩さないでいた。普段から接している月島にだけはわかるが、平然としているのは顔だけでいい加減限界が近い。
    月島が上官たちに見えないように鯉登の背中を小さく小突く。鯉登がそれに気付いて、一瞬ちらと月島を見た。意図は伝わっただろうか。
    「……私の部下の月島などは私の倍は飲みますよ」
    ふふ、とそれまでの冷淡な様子から一転、口元を綻ばせる。それでも眼光はいつもの鋭さと冷たさを保っているせいでそれは謙遜ではなく不遜な挑発じみていた。
    言葉をそのまま受け取ればただ部下を褒めただけに過ぎないが、生意気な鯉登を酔い潰そうと目論んでいた面々から見れば貴様らなど私の自慢の部下に敵うまい、という風にも読み取れる。
    月島が子守役と陰で呼ばれているほど鯉登の面倒を事細かく見ているのは事実である。姫君の身辺警護のようだとすら揶揄されたこともある。自分を酔い潰したければまずは護衛を倒してからだと言わんばかりの態度に上官たちは手前勝手に気分を害したようだ。
    「月島軍曹、そうなのか」
    「まぁ……そうですね」
    月島は鯉登がさほど酒に強くないのを知っている。その鯉登と比べれば実際倍程度は飲めるので嘘は言っていない。薄ぼんやりとした返事をすると上官たちの意識が鯉登から自分へ移ったのを感じる。
    ひとまずはこれでしばらくは月島が杯を受け持つことになる。その間に少しでも鯉登の酔いが冷めれば良し、あるいはお開きの時間にでもなれば良しだった。
    月島は下士官同士の付き合い程度にしか飲んでいないのでまだ余裕はあった。酒豪と思い込んでいる鯉登を酔い潰そうとするからにはそれなりに強さに覚えのある面々なのだろうが、鯉登の酌見たさに既にかなりの量を飲んでいるので、時間を稼ぐ程度は月島でも可能だろう。
    これまで月島は鶴見の供程度にしかこういった席に参加していなかったし、下戸の鶴見は鯉登と違って慣れた様子で上手くかわしていたので、相手も鶴見を差し置いて部下の月島に酒をすすめることもあまりなかった。下士官や兵卒との席でも飲まなくはないが翌日に備えて深酒はしないという態度を崩さなかった。おかげで誰も月島の限界点がどこにあるのか知らないのも幸いした。
    しかし二人揃って酒豪の噂を立てられてしまっては、今後こういった席に参加さる際の立ち振舞いが難しくなる。鯉登にも鶴見のように上手く立ち回る術を身につけてもらわねば、本人の身も月島の身ももたないだろう。
    そう思いながら月島はぐっと酒を煽った。


    ***
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