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    kyosato_23

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    kyosato_23

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    子供の頃に女の子の服を着て近所の子の性癖をおかしくさせていた少尉の話です(書きかけ)
    推しが子供の頃に好奇心などで女の子の服を着て周囲の男の初恋泥棒になるのが性癖です
    月鯉ですが幼少時代モブから好かれている描写あり。
    金塊争奪戦後設定のある種生存ifですが、中尉や師団に関する話は出てきません(パパは原作の現状通り亡くなった前提で書いています)

    #月鯉
    Tsukishima/Koito

    菫の花の君




    月島は函館の鯉登邸に足を踏み入れるのはこれが初めてだった。
    全てが終わってから初めて迎える年の瀬、故郷に帰らないのならば自分の家へ来いと鯉登に半ば引きずられるように連れて来られたのだ。
    月島は当初は遠慮したが、お前と私の仲なのだから家に来るくらいはいいだろうと拗ねられてしまうと弱かった。
    先の戦で夫を失った母親が心配なのも大きいのだろう。人数が多い方が賑やかで良いと白い息を吐く横顔に僅かな憂いが滲んでいた。
    鯉登邸で月島は歓迎された。服喪であるからと大々的な新年の祝いの料理はなかったが、それでも鯉登家のささやかな料理というのは月島にとっては大層立派な膳である。
    十分に礼を尽くして出された食事を平げ、鯉登やその母親と歓談したり近くを散策したりと緩やかに時間は過ぎた。
    兵営へ向けて出立する予定日のその前日の夕方、鯉登の私室で紅茶を味わいながら――と言っても、月島には紅茶の良し悪しなどさしてわからず、ただ香りがいいものだなと思いながら――過ごしている時に何やら目の前に立派な表紙の厚い本が差し出された。
    「私の幼い頃の写真だ。見たいだろう?」
    自信満々なその態度に思わず呆れるように口角が下がってしまったが、見たいかと問われれば、確かに見たい。樺太での任務中に長期間幼子たちと共に過ごしたせいか、子供の仕草を可愛らしいと思う機会があれから増えた。鯉登の幼い時分の可愛らしい姿を見たいかと言われれば肯定するしかない。
    表紙をめくると丁寧な筆字で元号と年が記されてあった。咄嗟に頭の中で計算していると、横から鯉登本人が六つの頃だ、と付け加えた。
    そうですか、と返事をして、一枚一枚が大層分厚いその本の頁をはらりとめくった。そこに飛び込んできた鮮やかな色彩に目を疑ったのは、その写真に映る姿が完全に予想外だったからだ。
    「……」
    「ふふふ、七五三の時だな」
    不躾な驚愕と疑問の声を噛み殺した自分を内心で褒めた。
    そこに映っていたのは鮮やかな赤色の着物を身につけた少女だった。
    少女。少女に見える。それ以外には見えなかったのでそう呼んだが、果たしてその呼び方が正しいのかはわからない。今見せられているのはかつての鯉登の写真のはずで、その写真に映っている顔に確かに鯉登の面影が色濃くあることが、少女と形容するのを躊躇わせた。
    「その……何故女物の着物を……?」
    熟慮した結果、正直に尋ねることにした。鹿児島の地方にはそういった習わしがあるのかもしれない。変に煮え切らない態度で尋ねずに流すより、そうした方が鯉登との会話はうまくいく。自信満々で見せてくるくらいだ、後ろめたいところもないのだろう。
    「その頃、なんとなくそうしたかったのだ」
    「何となくですか……?」
    鹿児島の歴史や風習には全く明るくないが、噂に聞く限り男がどう振る舞うべきかといった精神的規律が特に厳しい地域であるのは知っている。鯉登以外の鹿児島出身の兵卒と関わる機会も当然あったが、皆一様に軟弱な姿は晒さぬとばかりに引き締まったいでたちであった。その気風の土地で何となくという理由で女物の着物を着て、あまつさえ写真に残すとは。
    「ちょうどその頃、煌びやかな物がとても好きでな。その二年前にも七五三はしてもらっていたが、その頃の私にはどうにも男児の装いがつまらなかった。紋付袴にしても洋装にしても黒が基調だろう」
    「はぁ、なるほど……」
    男児の装いがつまらぬから煌びやかな女児の装いをしたかった、と。そう聞くと筋は通っているように感じる。
    煌びやかな男児の着物ではいけなかったのだろうか。月島は七五三など縁のない幼少期を送り今もろくに知識もないままなので、黒以外の男児の正装が認められないものかどうかもわからないが。
    「七五三の時期になると着飾った娘たちとよくすれ違ったが、その着物の美しさが羨ましかった。だから母上の着物をこっそり持ち出して鏡の前で羽織って遊んでいたんだ。嫁入りした身だからあんな華やかな柄のものはなかったが……それを母に見つかって」
    「叱られたのでは?」
    「? いいや、似合ってると褒めてくれたぞ」
    「……」
    「あの着物が羨ましいと打ち明けたら、母から父に話してくれてな。それなら仕立てようとなったのだ。男児は七歳の祝いがないから寂しかったらしい。ああ、そうだ、撮ったのは東京でだ。兄がどうしても撮影に同席したいと言ったが長期休みでもない時期に海軍兵学校から戻ってくるのは難しかった。それなら月末に父上が仕事の都合で東京へ行く予定があるというので母上と共にご一緒したのだ。そこで着付け撮ってもらった」
    鯉登の思考は常々不思議だと思っていたが、改めてその根本に思い至る。息子が女の服を着たいと言い出したら世間からの奇異の目を恐れる親が多いだろうに、それどころか家族総出で支援し、こうして写真を撮り、記念として残した冊子の最初に貼り付けてしまうくらいである。
    六つかそこらの子供の憧れや考えなど突飛で当然かもしれないが、それをここまで許容する家族がいればその柔らかさを宿したまま成長するのだとよくわかった。
    (……確かに、)
    似合っている。
    鮮やかな赤に白梅と鞠をあしらった柄の着物、今とそう変わらない長さの髪にはそこだけ洋風にヒラヒラとしたリボンが巻かれ、可愛らしく結ばれている。月島には何の石かはわからないが小ぶりの耳飾りを耳朶から垂らし、口元や目元には紅まで引かれてあった。念入りな着飾りぶりだ。
    この七五三の最中は家族の誰もが笑顔で喜び、褒めちぎっていた光景が想像に難くない。月島は樺太での突然の活動写真の撮影の折に鯉登が女物の服にも化粧にも抵抗なく応じていたのを思い出した。
    「どうだ?」
    鯉登が首を傾げるようにして顔を覗き込んでくるので、月島は一瞬気恥ずかしさで躊躇したものの素直にその期待に応えることにした。
    「……似合っておいでですね」
    「そうだろう!」
    期待通りの返事をもらった時の鯉登は心底嬉しそうに笑うのが眩しい。いかな突飛な内容であろうが家族の面々がその望みを叶えようとしてしまうのも頷ける。
    しかし月島が更に驚いたのはその写真の愛らしさを十分に堪能してからめくった次頁に載せられた写真を目にした時であった。
    「……これも七五三の時ですか?」
    「いいや、七五三だけでは何だからとついでに普段着や洋装も仕立ててもらってな」
    続いて目に飛び込んできた写真は華美な着物よりも落ち着いた色と柄の紬を身に纏い、澄ました様子で家の前に佇む姿だった。どう見てもその色合いや小物は女物だ。揃いで作ったらしい同じ柄の巾着を持っている。
    更にその下にもう一枚貼られてある写真に映っている鯉登は着物でなく洋装だったが、誘拐した時のような少年の服装ではなく、レースやリボンをあしらった濃い紫のドレスであった。一時期捕らえていた囚人の家永が身につけていたドレスをもっと子供らしく、それでいて豪華にしたようなものである。髪には同じく洋風の花飾りをつけ、兄らしき色白の美丈夫に抱き上げられて無邪気に笑っている。
    懐かしいと目を細める鯉登と対照的に、月島は財力と手間を惜しまない一家の猫可愛がりぶりに異世界を垣間見たような心地になった。
    「あの頃の私には少女の服や装飾はどれも美しく見えてな、毎日何をつけるか選ぶのが楽しかった」
    「毎日着てたんですか……?」
    「そうだな、うーん、確か菫の花の頃までだったから、それから四ヶ月か五ヶ月ほどは着ていたぞ」
    男が女物を着てはいけないという決まりはない。事実家永も男だが化粧をしてドレスを身につけ、怪我人の治療や検査に闊歩していた。
    まして好奇心旺盛な子供の頃の話で家族も認めた上でなのだから、取り立てて騒ぐ内容ではないのかもしれない。けれど月島は胸の内がざわつくのを抑えられなかった。
    どの写真もとても可愛らしくて似合っている。鯉登が自信を持って見せてくるのも理解できる。同時に似合っていて可愛らしいからこその苛立ちがあった。
    「……この頃は学校には通ってらっしゃったんでしょう?」
    「通っていた。動きやすいように袴も作ってもらったぞ」
    月島の押し殺した声に気付いているのか気付いていないのか、鯉登が楽しげに数頁後ろにある写真を指さす。椿柄の桃色の着物に紫の袴を合わせて、竹刀を構えている鯉登の写真だった。剣術の稽古にもその姿で行ったと聞いて、月島は目眩がした。
    (こんな可愛らしい姿で?学校や男ばかりの道場へ?)
    写真を撮る習慣のない暮らしだったので六歳の頃の自分などもう記憶が曖昧だが、幼馴染の少女のおかげか月島は男女間の感情については早いうちに自覚していた覚えがある。
    もし同級生の少年がある日突然女物を着てきたら、それが似合っていてとても愛らしくて自分の好みであったら、月島はどう感じただろうか。この頃鯉登と同じ学校や道場に通っていた少年たちはどう感じたのだろう。突然の変貌に遠巻きにする者もいるだろうが、逆に目を奪われる者もいるのではないか。
    「男ばかりの中では目立ったでしょう……」
    「まあ、そうだな」
    言外にさぞおモテになったでしょうね、という言葉を滲ませたが、鯉登に通じているのかは不明だった。
    「皆に随分と面白がられた。祖父や父の世代にはまだ郷中教育の名残りが強くて、男女が親しく言葉を交わすのすら快く思わない爺さんもいたからな。今思えば爺さんたちに文句を言われずに女と仲良くしている気分に浸っていた同級生もいたのかもしれん」
    「……」
    鯉登も同級生も六歳だった頃の話だ。六歳など、樺太で共に行動していたエノノカやチカパシよりも幼いだろう。そんな子供相手にやっかむなど実に大人げない。
    だが鯉登の顔立ちは六歳の頃から既に端正だ。くしゃりと笑った顔などは年相応に天真爛漫だが、気取った身のこなしで撮影されているものは今の鯉登の美形ぶりが重なって見えて、そんな少年が美しいと男たちに持て囃され、時には秋波を送られていたのかと思うと月島としては決して愉快な気持ちでいられるものではなかった。
    「その爺さんたちは女の服を着ているのに口出しはしてこなかったんですか?」
    「私は優秀だったのだ、学問も腕っぷしも。猿叫だって誰より声が大きかった」
    要は実力で黙らせた、と言いたいらしい。もちろん家の後ろ盾も大きいだろう。陸軍にいる現在とあまり立ち振る舞いが変わらないことに溜息を噛み殺した。この困った貴公子は月島の心配を余所にいつだってのびのびと奇行に及んでいる。
    「でも一人だけ、文を寄越してきたやつがいた」
    ああ案の定だ。月島が口を噤んだのと逆に鯉登は随分と機嫌が良さそうに最後の頁と裏表紙の間に挟まれてあった封筒を抜き出す。
    「家族以外から初めてもらった文だな」
    封筒の宛名には鯉登音之進様、と筆と墨で記されている。磨り方が甘かったのかやや薄墨になってしまっているが、六歳だか七歳にしてはそこそこの達筆だった。鯉の字など、筆で書くには大人でも難儀するだろうに。
    鯉登は封筒の口を開いたが、中の手紙そのものは見せようとはしなかった。こういったものは秘め事だろう、と。
    秘め事という言葉の響きの甘さが月島の心にじわじわと火を燻らせ始める。ならば何故その文の存在をわざわざ月島に教えるのか。
    手紙は見せなかったが、その代わり掌に収まる大きさの何かを取り出した。懐紙を解くと、中には淡黄色の短冊のようなものがあった。
    「家族以外から初めてもらった贈り物だ。父や母を通しての付き合いではない、私個人に対してのな」
    それは菫の花の押し花が施された栞だった。菫の花はもう色褪せており、花に疎い月島は添えられた「菫の花の君へ」という一文がなければそうとわからなかっただろう。それでも花弁は崩れることなく保っており、大切に保管されていたのが窺い知れる。
    菫の花の君、可憐な音の並びだ。砂糖水のような透明な甘さに、品の良さが織り込まれている。
    どう見ても奇異な同級生に対して面白がって寄越すような物ではない。そこに込められた初恋の念は朴念仁にさえ感じ取れた。いくら色恋沙汰に興味がなかったといえど、直接この文と栞をもらい受けた鯉登がそれを察しないはずはない。





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