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    青井青蓮

    @AMS2634

    重雲受けしかないです(キッパリ)

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    青井青蓮

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    親友が飯食って喋っとるだけ

    #行重
    Xingyun

    誰も知らないお化けの話「なあ行秋。‘もったいないお化け’という妖魔について何か知っていることは無いか?」
    「…………は?」



     万民堂の客席で注文した料理を待っている間、向かいに座る親友にふいに投げかけられた質問に、踊る疑問符が頭の中を占拠する。
    ……もったいないお化け。嫌いな食べ物を残したりすると現れる、と言われるあれのことだろうか。
    幼い頃に母上からその存在を引き合いに出され、好き嫌いをするなと叱られたことがある。最近はめっきり聞くこともなくなったが、生憎と好き嫌いがなくなった訳ではなく、子供騙しの方便など聞くに値しないとわかっただけ。

     名前の出所はどうやらチ虎岩近辺で行き合う顔見知りの子供達らしく、何でも親から知らされた件のお化けに恐怖を覚え、堪らずこの優しい方士のお兄さんにお化け退治を依頼したようだ。
    しかし問題の‘もったいないお化け’とやらについて名前すらも一度たりと聞いたことがないらしい真面目すぎるこの方士様は、例によりその存在を信じきり、こうして情報収集に乗り出している。投げられた問いも完全にそういう名の妖魔がいる前提の質問内容だ。

     周囲に隠すような内容でもなかったし、声量を抑えて喋っていたわけでもなかったので、僕達のやりとりが厨房まで聞こえていたのだろう。
    店を手伝っている看板娘の香菱が注文した料理を運んで来てくれたが、「お待ちどおさま!」の声が少し震えている。璃月三糸の松茸添えと冷製ドドリアン海鮮スープ、ハスの実入り茶碗蒸しが二つ、手際よくテーブルに並べられる。
    重雲が注文した冷たいスープも美味しそうだと思ったままの意見を述べながら、酒蒸しされた松茸のスライスを口に運ぶ。

     ちらりと周囲に目をやると、話は近くの席にいた客にも聞こえていたようで、肩を震わせながら、しかし幼い子供を見守るような優しい眼差しでこちらを……いや、それらは重雲に向けられていた。
    万民堂で時折起こるこの様な光景は、実のところ特段珍しいものでもない。
    経験したことが無い現象が自身の周りで起きると、何事にも妖魔の仕業と疑ってかかる癖がある重雲と、今まで目にしてきた体験や書籍から得た知識に、ほんの少しだけ色を加えた手がかりを広げて見せる僕とのちょっとした掛け合いは、この店の常連であれば寧ろ見慣れた日常の光景だろう。
    名の知れた妖魔退治の一族の方士様が、町の子供達の願いを聞き届ける為に、真面目な顔をして‘もったいないお化け’について真剣に調査している。
    可笑しな光景であることに変わりは無いが、自分も含めこの場にいる者が皆、生真面目で分け隔てない優しさを持つ彼を愛している。……当の本人はそんなことなど微塵も知らずに一口大に切られたタコ足を頬張っているが。




    「……行秋。ちゃんと聞いてるのか?」
    「ん、うん?あぁ、勿論さ。ええっと、もったいないお化け……だっけ?」
    「ああ。好き嫌いをする子供を見つけるとその子供が食べ残したものを好物とする妖魔が現れて、その子供を頭から食べようとするらしいんだ」
    「ふぅん……頭からねぇ?」

    そんな妖魔が実在していたら今頃僕の頭はそいつの胃の中で消化されていると思うよ、重雲。

    「行秋は昔から人参が嫌いだったよな?それらしいものに遭遇したことは無いのか?」
    「幸いなことに遭ったことは無いな。そもそも僕のような生粋の人参嫌いがそんなものに遭遇したら今頃そいつに食われてる筈だよね?……あぁ、君が近くにいるから遭わずにいられるのかな」
    「だからと言って人参を残していい理由にはならないんだぞ」

    いつものノリで放つ冗談をいつも通りの仏頂面で返される。厨房の香菱や隣の席の客達が笑いを噛み殺している。
    そんな店内で、何も知らない重雲だけが真面目な顔で思案し続ける。

    「出現するとしたらどの辺りだろうか……」
    「絞り込むにも情報が少ないね。もう少し聞き込みした方がいいんじゃない?……そうだ、軽策荘の子供達にも聞いてみたらどうだい?」
    「なるほど!それはいい考えだ!」

    さすが行秋だ、とよく聞く言葉を口にして、汁だけとなった椀を傾け一気にスープを飲み干した。どうやら食べ終わると同時に出発するらしい。

    「今から向かえば夜には着くだろうが……明日の朝の方がいいな、うん。望舒旅館で一泊して……」
    「僕はこっちに残って調べてみるよ」



     いもしないお化けなど、本来なら調べようもないのだが。
    不安がる子供達の為に動こうとする無二の友と、子供達の健康を願う親達の方便に対して、「そんなものは存在しない」と一蹴するのは、義侠の精神に反することだ。
    弾む心と笑いを押し殺し、冷めた茶碗蒸しに手をつける重雲に返事を合わせておくことは紛うことなく正義なのだと自分に言い聞かせた。



    「あぁ、そうしてくれると助かる。何かわかったら教えてくれ。……そうだ、折角旅館に寄るわけだし……。香菱、すまないがチ虎魚焼きと杏仁豆腐を一つずつ、土産用に包んでほし…………ん?香菱?何で笑ってるんだ?」
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    青井青蓮

    DONEめっちゃ遅れましたが重雲誕生日SSです。ごめんね重雲くん
    9月7日のカクテル言葉を参考にしたお話のつもりです
    いつも通り捏造と、お友達の面々もいますがほぼ重雲と鍾離先生です
    乾杯 朗らかな笑い声に気を取られ、首を傾げる者と連られて笑みを零す者が往来する緋雲の丘の一角。
    声の出所である往生堂の葬儀屋特有の厳かさはなりを潜め、中庭では代替わりして久しい変り者の堂主とその客卿、堂主が招いた友人らがテーブルを囲っていた。

     予め用意しておいたいくつかの題材に沿って、始めに行秋が読み胡桃がそれに続く。流麗に始まり奇抜な形で締め括られできた詩を静聴していた鍾離が暫しの吟味の後に詩に込められたその意味を読み解き、博識な客卿が至極真面目な顔で述べる見解を聴いた重雲は詠み手二人に審査結果を強請られるまでの間笑いを堪えるのに精一杯となる。
     題材が残り僅かとなり、墨の乾ききらない紙がテーブルを占領しだす頃になると、審査員の評価や詩の解釈などそっちのけとなり、笑いながら洒落を掛け合う詩人達の姿についには堪えきれなくなった重雲もついには吹き出し、少年少女が笑い合うその光景に鍾離も連られるように口を押さえくつくつと喉を鳴らす。
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