やっぱりこの色男は危険だ 昔のヒスイ地方に飛ばされてだいぶ時間が経った。それでも調査隊としての「図鑑を完成させる」ことがまだできておらず、アルセウスフォンにも表示される「すべてのポケモンにであえ」という自分にしかできない「任務」もまだ達成できていない。
自分の時代とは違う生活や文化にもちょっとずつ慣れてきて、ギンガ団の人たちも優しくしてくれて大きな不便はない。
シンジュ団やコンゴウ団の長であるカイさんやセキさんとも話す機会が多く、ラベン博士やテルもいて、相棒たちもいるから不思議と寂しさもない。
……もっと言えば、セキさんとはお付き合いを始めたから、今の気持ちとしては早く完成させて現代に戻りたい、とは強くは思わなくなった。付き合う前はここにいてはいけないであろうはずの私が、この時代の人間と恋人になってもいいのか、とか悩んだけどセキさんからの告白を聞いて、両思いであることを知りながら断るなんてことはできず、悩みながらも喜んで受けた。
最初は「この人せっかちな人だな」とか思ってたけど、ムラから追放された時に言葉をかけてくれた時とか、湖を守ってるポケモンたちを巡る時にセキさんを選んで、少しの間一緒に旅をしたのがとても楽しかった。
セキさんは長だからやっぱり忙しいみたいで、なかなか会うことは叶わない。自分もポケモン図鑑の完成や依頼をこなす日々で、なんだかんだ時間が合わないのだ。
「といっても、最近は依頼ばっかりで終わったら暇すぎる……」
イモヅル亭のテーブルに思わず突っ伏す。
図鑑を完成させるためには全部のポケモンを捕まえなければならない。それでも天気によっては出てこないポケモン、出てくるポケモンが違うため天気が合わない日は依頼をこなして材料やお小遣い稼ぎをしているが、結局暇になってしまう時もある。
「……セキさんに会いたいなあ」
「オレになんだって?」
「えっ」
慌てて後ろを向けば横に相棒のリーフィアを連れ、コンゴウ団の長を務めているセキさんが立っていた。
「え、いや、その……特になにも!!そういえばボスが今日来るっていってたなぁって!!」
やばい絶対今の誤魔化し方バレてるに違いない。
もっと可愛い言い訳をすればよかった、なにも思いつきはしないけど。
それにしても、2週間ぶりにセキさんのことを見た気がする。ここじゃ連絡手段もメッセージアプリとかじゃないから寂しさが募るのが問題。
「ああ、旦那に呼ばれたんでな。でももう終わったから今日の仕事は終わりだな」
「そうなんですね、お疲れ様です!」
今日の仕事は終わりってことは、この後は自由なのかな。久しぶりに会えたし、少しでも話せると嬉しいんだけどどうなんだろう。やっぱり集落に戻っちゃうのかな。
シュンとしていれば頭上からくつくつとした笑い声が聞こえ、パッと顔を上げる。そこには笑いを堪えてるセキさんがいて、思わず顔が赤くなった。
「本当わかりやすいな」
「だ、だって!!2週間会えてなかったじゃないですか……。ちなみに、このあとは?」
「あんた次第」
隣に座ってくれる距離が近くて、向かい側じゃなくて隣に、っていうのが嬉しい。座っても身長差はあるけど、声が近くなるのもすごく好き。
私次第ってことは、このあとのセキさんは自由だ。
「私も今日はやることないです!」
「それならよかった。菓子持ってきたから一緒に食おうぜ」
そう言いながら立ち上がって、ムベさんに代金を払ってくれた。慌てて自分の財布からお金を出そうとすれば「大人しく奢られとけ」と言われたのでお礼を言って財布をしまった。
向かった先は私の使っている宿舎だ。
いわゆる「デート」みたいなデートはほとんどなく、私の宿舎かセキさんの家、あとはポケモンに気をつけながら歩いたり時には一緒に依頼をこなしたり……というような、今でいうお家デート以外は危険が伴うためなかなか行かない。結局どっちかの部屋になってしまうのだ。
「ほら、前に好きだって言ってたやつ」
「嬉しいです、ありがとうございます!今すぐお茶淹れますね」
「何か手伝えることはあるか?」
「大丈夫です!セキさんは休んでてください!」
セキさんの持ってきてくれた、蜂蜜が使われたこの羊羹がここでの好物の一つになった。前にコンゴウ団の方にご馳走してもらった時に好物となったのだ。
だいぶ台所の使い方もわかってきて、今じゃ簡単なご飯を作れるまでに料理スキルがアップした。
お湯の準備をしながら急須や湯飲みを用意して、羊羹を切る。ちょっと大きい方をセキさんの方にして、お皿に乗せていく。
「そういえば、セキさんは夕飯食べました?」
「ああ、デンボクの旦那と食ったよ」
「それならよかったです!私もさっきテルと食べちゃったので」
「……テルと?」
「はい、ちょうどセキさんが来るちょっと前に帰りましたけど……どうかしました?」
明らかに不機嫌な顔を見せて、あぐらをかきながらムスッとしている。
ヤキモチだよね、これ。年上で一つの集落を治めてる長なのに、こういうところが可愛くて仕方ない。
次はオレと一緒に食べような、と変わらずムスッとした顔のままで次の約束を取り付けた。
「お待たせしました!はい、セキさんのです」
「ありがとよ」
一口サイズに切り分けて、口に運ぶ。蜂蜜の風味と甘みが感じられてすごく美味しい。やっぱり甘いものは必須だなあ……。
それにしても、毎回思うけどセキさんって食べ方本当に綺麗だよね。やっぱり長の人は食事も綺麗に食べないとなのかな。確かカイさんもすごく上品に食べてた覚えがある。
そんな姿をじっと見ていればセキさんの羊羹を食べたいと思われたのか、セキさんの羊羹が一口サイズに切られて私の方に向けられる。
「ほら、あーん」
「…………美味しいです」
そりゃそうだ、と言ってセキさんはあっという間に羊羹を平らげた。私はというと、さっきのあーんが気恥ずかしすぎて全然減らない。さらっとさっきみたいなことをやるから本当に心臓に悪い。なんだこの男は、自分でも「色男」とか言ってた時あったけど本当にその通り過ぎて流石に心臓がもたない。